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黒の誓約、師弟のはじまり

【前書き】

ここからレオンとガラードの“師弟関係”が始まります。

今回は剣を振る理由、信じるもの、そんな静かな誓いの物語です。

バトルはありませんが、心の“戦い”を感じてもらえたら嬉しいです。

夜が訪れるのは早かった。


 山道を抜けた先の岩陰に、ガラードは静かに焚き火を起こした。

 ぱちぱちと爆ぜる火の音と、時折吹き込む冷たい風だけが、辺境の山奥に静かに響いている。


 レオンはその炎の前に座っていた。


 膝を抱え、黙ったまま揺れる火を見つめている。


 指先にはまだ、獣の生暖かい血の感触が残っていた。

 何度水で洗っても、拭っても、落ちた気がしない。


(……これが、“戦う”ってことなんだ)


 魔獣を倒して生き残った。

 なのに、心は晴れるどころか、重く沈んでいた。


 ガラードはその沈黙を、しばらく見守っていた。

 やがて、彼が口を開いた。


「泣きたければ、泣け」


 レオンは驚いたように顔を上げた。

 けれど、ガラードはそれ以上何も言わず、ただ火を見ていた。


「……泣きませんよ。泣いたって……意味ないから」


 自分でも、強がりだとわかっていた。

 でも、誰かに言われたくはなかった。

 自分の弱さくらい、自分で噛みしめたかった。


 ガラードは、その言葉にも否定も肯定もせず、ただ静かに頷いた。



 火が小さくなったころ、ガラードは腰の鞘から剣を抜いた。


 漆黒の柄、鈍く光る鋼の刃。

 だがそれは、誰かを威圧するための剣ではなかった。

 むしろ静かで、研ぎ澄まされた“信念”のように見えた。


「――教えてやろう。剣というものは、“信じたもの”のために振るう道具だ」


「……信じたもの?」


「己の正しさ。守りたいもの。譲れぬ誓い。それがなければ、剣はただの殺戮の道具に成り下がる」


 ガラードの声は低く、しかしどこまでもまっすぐだった。


「私がお前を鍛えるのは、お前が“諦めなかった目”をしていたからだ。だがそれだけでは、剣は振れない」


 レオンは黙って話を聞いていた。


 ガラードの言葉は、どれも重くて、逃げ場がない。

 けれど、だからこそ、嘘がないと感じられた。


「お前は、誰かの剣になりたいか。それとも、自分の剣でありたいか」


 レオンは少し考えて、答えた。


「……誰かを、守れる剣になりたいです。昔の俺みたいなやつが……泣かなくていいように」


 ガラードはふっと小さく笑った。

 焚き火の火が、その無骨な顔をわずかに照らす。


「ならば、今日からが本当の修行だ」


 ガラードが立ち上がる。

 そして、もう一本の短剣を、火の前に座るレオンへと投げ渡した。


「まずは構えから叩き込む。腕が上がらなくなるまで、剣を振れ」


「はい、師匠!」


 レオンははっきりと答えた。

 ようやく、心の奥から湧き上がった言葉だった。



 夜が深まり、山の気温がさらに下がっていく。


 だが焚き火の周囲だけは、熱を帯びていた。

 レオンは何度も、何度も、腕を振った。


 痛みが走っても、倒れても、何度でも立ち上がった。


 “騎士”への道は、今ようやく――始まったばかりだった。


【次話予告】

第四話『試練の山道と赤い風』

→ 剣の稽古が始まり、つかの間の平穏が訪れるかに思えた矢先――

山道に響く謎の叫び声と、村を焼く赤い風。

初めて“人の争い”に巻き込まれるレオンが見るものとは……。

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