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八話 神童

 俺は徳人に見られた。


 あいつなら俺を一目見ただけで、人生二周目の俺の身体能力と技能がチグハクな事を察して、俺に接触してくるだろう。


 会場内のなるべく人がいない場所を通る。

 あいつも俺が接触したがっていることを見抜いているだろう。


 恐らく、俺の事を監視しているのだろう。早く出て来てくれ。

 俺は待ちきれない。


 期待しながら歩いていると粘りつくような視線を感じた。

 ようやくだな。


 建物の角からどうしようもないぐらい容姿が優れた優男が現れた。

 嫉妬する気も起きない程、その男は高貴な雰囲気を纏ったイケメンだった。背丈や雰囲気こそ前世と違うが、顔の良さだけ前世と変わらない。


「やあ。君は僕を知っているみたいだね」

「ああ」


 俺は即答した。こいつとの会話に嘘は通じない。


 あいつの目に俺がどう映っているかは知らないが、あの目は捉えた人間の能力は勿論、本質から思考に至るまですべてを見通すことができる。そこに超人的な思考能力が合わさることによって、まるですべてを見透かされたような気分になる。


 嘘を言えば、すぐに気づくはずだ。


「あえて他の仮定は言わないけど、君は人生二周目みたいな感じでしょ」

「ああ。そうだ」

「なんで、君なのか。なるほど、僕は君にとって重要な人物であるらしいね」


 俺は言葉としては肯定するだけで何も説明もしていない。なのに俺が人生二周目であることと徳人を求めていることに辿り着いた。


 心理戦なんかじゃない。一方的にすべてを読まれている。


 徳人の事を知っていてかつ仲間の俺だから、冷静でいられるだけだ。

 もしこれが徳人との初対面だったら人生二周目の俺であってもビビっていただろう。


 俺は徳人にすべても見透かされても不快にすら思わない。俺の仲間愛を舐めるな。


「俺から語ることはない。お前の眼なら勝手に察せるだろう?」

「ふーん。この眼の事も知っているんだ。まあいいや。じゃあさ、人生二周目になった理由や秘密を教えてよ。別にソレをするのに君である必要はないだろう? 僕なら君の代わりになれる」

「……」


 表向きな話。俺の目的は『滅亡する世界を救うこと』であり、その為に『特級ダンジョンを攻略する』必要がある。そのダンジョンを攻略するには『前世の仲間』必要だ。


 実を言えば、特級ダンジョン攻略に俺は必要ない。

 なぜなら、俺以外の三人だけでも特級ダンジョンは攻略できる。それだけの戦闘力を全盛期の三人は持ち合わせていた。


 なんで、俺だけが二周目を歩むことになったのか。疑問に思うこともあったが、そんなことは些細なことであり、どうでも良かった。


「俺には責任がある。お前らばかりに責任は負わせられない」


 俺は極めて個人的な理由で前世の仲間たちに世界を救う重責を負わせるつもりだ。ダンジョンを攻略できない制限を掛けられた俺の存在は恐らく物置程度だろう。

 だが、それでも大切な仲間に責任を背負わせる以上は俺も最後まで責任を負う覚悟がある。むしろ、それが目的だ。


「変な人だね。ソレが何かは知らないけど、僕に任せれば君よりも上手くいくってことぐらい分かっているでしょ? 確実性すら捨ててまで責任を負うのは自己満足の無駄な行動でしかないはずだよ」


 徳人の言っていることは全面的に正しい。世界を救うのなら、俺よりも優れた徳人にすべてを託した方がいい。反論する気も起きない。

 なぜなら、俺だって徳人に任せられるならそっちの方が世界を救える可能性が高いと確信しているからだ。


 川谷という一族の権力を持ち、頭脳的で戦略家。俺が人生百周してもその分野においては徳人の足元にも及ばないだろう。


 それほど、今のあいつは圧倒的であり、二周目の俺からしてもどんな分野においても勝てる気がしない。


 俺がやりたいことはあくまでエゴだ。だから言わせて貰おう。


「関係ない。できるかできないじゃない。やるんだよ」


 俺の根本には冴先輩との地獄の日々がある。あの地獄をやり切った俺は自分なりの考え。いや、あえて高尚に哲学とでも言おうか。俺の哲学を手に入れた。


 それが、『できるかできないじゃない。やるんだよ』ということだ。


「……ハハハ! いいね! 狂っている。面白いね。君」


 徳人は声を出して笑った。こんな笑い方をするのは前世を含めて初めて見る。

 ただ、面白いと言われて少し嬉しくなったことはきっと見透かされているんだろうな。


 俺の感情を無視してくれたのか徳人は言葉を続けた。


「こうみえて、僕さ。ギャンブルに興味あったんだ。賭けさせてよ。君の責任とやらに」


 俺が何をするかも聞かずに仲間になると言ってきた。

 前世の徳人から聞いていたが、ここまでぶっ飛んだ人間だとはな。お前こそ面白い人間じゃないか。


 本音は今すぐにでも提案に乗りたい所だが、ここはぐっとこらえる。


「悪いが、まだ俺たちは互いの事を知らない」

「僕は君を理解した。君も人生二周目なら僕の事を知っているだろうに」


 人生二周目。俺は徳人の事を知っている。だが、知っているのは高校入学後の徳人だけだ。


 俺は今の徳人の事を知らない。

 神の生まれ変わりなどと言われるほどの才能とそれを使いこなす人格。前世の徳人曰く、能力故に誰にも理解できない悩みを抱えていたらしい。


 あいつも俺の事を知らない。

 どれだけ神秘的な能力で俺を知ったつもりであっても、その程度でしかない。


「ダンジョンで遊ぼうぜ」


 あまりにも言葉足らずな誘いをした。普通なら色々聞いてくるだろうが、俺は知っている。それは徳人のプライドが許さない。


「――遊ぶ……ね。いいよ。じゃあ、今すぐ遊ぼう」


 殺気に近しいものを出し始めた。


 俺が行ったダンジョンで遊ぶ。この意味は『殺し合いをしよう』という提案だった。

 徳人はすぐに理解して、俺に対して威嚇のように殺気を漏れ出した。


 中学生が出せる殺気じゃない。前世でもこのレベルの殺気を出せる敵は七体の怪物たちだけだった。


 光莉のトラウマは明確な敵がいるからやりやすいが、徳人のトラウマは才能故の『つまらなさ』に起因する。これを解消するのは難しい。

 ただ、俺が唯一、徳人に勝てる事がある。


 それは死ぬことだ。

 ダンジョンでエンドレス殺し合いをしてみれば、徳人を楽しませることが出来るかもしれない。


 はっきり言って適当でいろいろと破綻している計画だが、徳人はそのぐらいで丁度いい。あいつは自分で勝手に盛り上がるタイプの男だ。


 ただ、まずはお預けにしておく。

 冷静な状態の徳人を相手にしたところで俺が死に続けるだけのゾンビゲームになるだけだ。楽しませるためには一度は俺が勝たなきゃならないだろう。


 徳人が冷静じゃない状況になった瞬間に戦いを挑もう。


「悪いが今すぐじゃない。お前よりも重要な人がいるからな。この大会が終わったら遊んでやる」

「そっちから言ってきたくせにお預けにするんだね。まあいいや。僕から接触した以上はそのぐらいの主導権は君にあげるよ。それにこの試合にもまだ興味があるし、丁度いいや」


 ファーストコンタクトは悪くなかった。

 徳人の考えがあまり読めないが、あいつからの興味はまだ続いているみたいだ。


「じゃあね。せいぜい。僕()()()大事な仲間とやらの勧誘に失敗しないようにね」

「言われなくとも分かっている」


 さて、次は今回の本命である光莉の所に行くか。



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