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四二話 それは浮気らしい

 俺にとっての日常に戻ってきた。


「おっ。佐月。あれテラちゃんは一緒じゃないのか?」


 学校の下駄箱付近で錦に会った。

 いつもテラと登校していたからか、テラがいない状況に疑問を持ったらしい。


「転校前の学校で用事があるらしくてな」

「そっか。喧嘩したわけじゃないんだな」


 錦は人が良い。さっきの質問も純粋に俺たちのことを心配して聞いていた。

 前世の時もそうだったが、裏表のない人物で接しやすい。


「なあ。お前ってモテるよな」

「ん? ああ。そうだな」


 俺の下駄箱には数枚の手紙が入っていた。中身を見なくともラブレターであることが分かる包装がされている。

 これは前世もそうだった。


 俺の何がいいのか知らないが、二年生ぐらいの時からラブレターらしき手紙が入り始めていた。


 前世の錦はしきりに「顔がいい」「運動神経がいい」「困った人を見捨てない」なんて、耳がかゆくなるような理由を教えてくれていた。

 その理由を否定するつもりはないが、俺はそれを覆すほどの無気力な人間だった。


「せっかく貰ったのに読まないのか?」


 俺は貰った手紙をカバンの奥底に仕舞い込んだ。家に持ち帰ってシュレッターを掛けて捨てる予定だ。


「俺はそういうのに興味がないんだ。それに伝えたいことがあるなら直接言いに来いって思う主義なんだ」


 前世でも錦に聞かれた時にそうやって答えた。

 今でこそ、光莉という最愛の相手がいるから対応する気にならないが、前世では恋愛そのものに興味がなかった。


「それはないんじゃないか? だって、それを書いてくれた人は勇気を持って書いたんだぞ。せめて、お前の口から断ってやれよ」


 ああ。そうだった。前世でも錦はこういうことを言っていた。

 前世の俺は「興味のないものはない」みたいなことを言って適当に流していた。


 ただ、あの時は俺はただの生意気な中学生だった。今の俺は短いながらも人生経験を積んだ状態だ。

 錦の言っていることが分かる。


 前世の選択はただの逃げだった。面倒だからと無意味だからと逃げていた。


「……それもそうだな。ちゃんと断るよ」


 断るという意思は変わらない。


「錦には気づかされてばっかりだ。これからも友達でいてくれよな」

「急にどうした? そんなの当たり前だろ?」


 ここ最近、普通じゃない奴らと関わっていたから忘れていたが、錦は俺よりも何倍も大人だ。


「ところで、友達のよしみで教えて欲しいんだが、この人とはどこまで行ったんだ?」


 錦がこっそりと俺にスマホを見せてきた。


 そこには伊代とデートしていた時の写真がいくつか入っていた。


 あの時、妙に視線を浴びていたが盗撮もされていたか。

 まあ、別段困ることはない。俺の服を見る限り、抱き着かれた後だし、ホテルでの別れ際では視線を感知しなかった。テラに盗撮をされていない限りはそれほど困る画像はない。


 せいぜい、手を繋いで、楽しそうに……


「結構、楽しんでいたんだな」


 あの時の表情を見せられると俺自身、かなり楽しんでいたことを思い知らされる。事実、楽しかったが、ここまで表情が緩んでいるとは思っていなかった。


「ちょっと待て。それは浮気じゃないのか? お前、あの死線武道の白髪の子が好きなんだろ?」

「浮気? これが?」

「おーけー。おーけー。ちょっとお前はバカみたいだな。どういうことか教室で教えてやるよ」


 これは長くなりそうだ。

 教室でじっくりと教えてくれるらしい。俺としては錦の言い分には聞く価値があると思っている。


 教室に入ると、俺の机に男が座っていた。


「デジャブだな」


 あいつは夜崎だ。半月前ぐらいにもこんな感じで俺を待っていた。


 ただ、前回と違うのが、周辺のクラスメートが夜崎ではなく俺の方に恐れを持っていた。

 例えるならそうだな。柄の悪い一般人が格闘家に喧嘩を売った時のような、哀れみの混じったような視線だ。


「何の用だ?」


 声を掛けると夜崎は近づいてきて俺を睨みつけてきた。


「俺をパーティーに入れろ!」

「パーティー? ああ。俺が合格した新法のことか」


 本人はどういうつもりかは知らないが、お願いをしているのか脅そうとしているのか分からない態度だ。まあ、どっちにしろ答えは決まっている。


「なんでお前を入れないといけないんだ? 役割も被るだろ」

「俺は強い。お前よりも背が高いし、この学校の一年では一番強いはずだ」


 学校最強は間違いなくテラなのだが、それを除いても夜崎が一番とは思えない。

 それに仮に学校の誰かをパーティーに入れるとしたら、戦闘能力がなくても人のことを思いやれる錦のような人物を入れた方が何倍も役に立つ。


 こんな小物に割く時間はない。俺はさっさと錦と……


 ああ。そうだった。こいつは前世で錦をいじめていたな。前世での話だが、見ての通りこいつの性根は腐っている。


「そうか。まあ、俺としても人手は欲しかった所ではある」

「よし! 言ってみるもんだな」


 なにやら喜んでいるが、まだ入れるとは言っていない。


「冒険者の先輩が言っていたんだが、雑用がいると便利って言っていたな。それなら受け入れてやってもいいぞ」


 雑用。それは冒険科の一年で飛びぬけた才能がない限り誰もが通る道だ。

 荷物持ちは勿論のこと、普段の生活から時には技の研究と称してダンジョンでまとになったりと大変な役職だ。


 そんな先輩の背中を見て成長することが雑用の仕事だ。


「そりゃないぜ。俺は強いんだ。他の奴を雑用にしろよ。例えば、あの白髪の女とかな。少なくともあの女よりは強い自身があるぜ」

「あ?」


 こいつ。今、光莉のことをバカにしたか?


「お前如きが、光莉をとやかく言える強さ? 笑わせるな。分かった。雑用の話もなしだ。絶対にお前をうちのパーティーには入れない」

「くっ」


 さっきまで調子に乗っていた夜崎だったが、俺に気圧けおされ、一歩下がった。


「俺を入れるって言ったよな。嘘をついたのか?」

「一度もそんなこと言ってないぞ。これ以上、文句があるなら武道場で喋ろうか」


 夜崎は拳を強く握った。それが、怒りを抑えるためなのか、殴りかかろうとする前触れなのか。俺には興味もなかった。


「俺は……ミンチさんに会いてぇだけなんだ」

「ミンチ?」

「不良のカリスマ。あのミンチさんを知らないのか?」


 俺の知っているミンチといえば、鎖鎌を持った新魔教団の幹部のミンチぐらいなのだが。


「鎖鎌を持って、すべてを蹂躙するあのミンチさんだぞ。未成年ながら冒険者になった」

「あいつは不良のカリスマなんて言われているのか。いかにもって感じだな」

「ミンチさんを馬鹿にするんじゃねぇ!」


 夜崎は怒りを露わにして、俺に詰め寄った。

 ただ、それでも俺に勝てないことが分かっているのか手は出してこなかった。


「……これで話は終わりでいいな。何かあれば今後は武道場で話そうか」

「チッ。後悔すんじゃねぇぞ」


 夜崎が教室から出て行った。


「錦、どこにもゴミはいるもんなんだな」


 邪魔もいなくなり、俺は席に座った。


「どうした? 俺に浮気とは何かを教えてくれるんじゃなかったのか?」

「……ああ。そうだったな」


 何か考え込んでいた錦だったが、俺の呼びかけに反応した。


「お前の好きな人が、そうだな、俺とデートしていたらどう思う?」


 錦は俺にイメージを促した。

 もし、光莉が錦と楽しくデートしていたらか。


「幸せそうなら。それでいい」


 今の光莉とは恋人ではない。なら、光莉が他の男を選んだとしてもそれが幸せなら仲間として俺は祝福を……


「……いや。ちょっと嫌な気分になる。錦なら百歩譲れても夜崎とかだったら闇討ちするかもしれない」


 錦みたいに人間が出来ている奴なら、俺も諦めがつくかもしれないが、光莉を不幸にするような奴が隣にいたら俺は排除しようとするだろう。


「そういうことか。俺のしたことって最低なことだったんだな」


 いくら誘われたとはいえ、他の女とあんなに楽しそうにしてしまった。

 今の光莉が俺のことをどう思っているかは分からないが、前世の光莉ならかなり拗ねていたはずだ。


 要らない負の感情を背負わせてしまった。俺は今更そのことに気が付いた。


「分かったみたいだな」

「なあ。どうすればいいと思う? 謝るのも違う気がするし……」

「デートに誘えばいいだろ。デートで傷つけたのならデートで癒すのか筋だろ」

「そうなのか? そうだな。放課後に連絡してみる」


 徳人が言っていた。俺が不幸になることで仲間が幸せになることはない。

 俺が幸せになろうとしていいのかは分からないが、光莉を愛する気持ちを隠したくはない。



ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

2章はこれで終了です。


「面白い」や「続きが気になる」と少しでも思って頂けましたら、ぜひブックマークや評価の程をお願いします。創作の励みになります!

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