四一話 お前に対して浮気という概念はない
テラは昼頃に俺の記者会見の場に勝手に表れた。
そのあと、《流れ星》のメンバーとダンジョンを攻略する関係でダンジョンの前に置いてきていた。
ダンジョン攻略後にいろいろあったから、完全に存在を忘れていた。
「友達を置いていくなんてひどいよ」
真っ白い髪を揺らしながら、俺に抗議をしてきている。
「すまない。いろいろあってな」
今回は俺に非がある。言い訳をする前にまずは謝罪をした。
俺としてはテラの機嫌を無駄に損ねる必要はない。それに、テラの性格を考えて素直に謝ればそれ以上は追及してこないだろう。
そう思っていた。
「ねえ。そのいろいろって何?」
テラが俺の横に座った。
「他の女の子と抱き合ったり、映画を楽しそうに見たりしたこと?」
テラが俺の腕を掴んだ。伊代とのデートを見ていたのか。
表情を見ないようにしていたが、あまりの威圧に冷汗が出始めた。
ここで思い出した。テラは一人の少女でありながらも『死神』と呼ばれた最強の冒険者だ。この場で俺をどうにだって出来る。
そんな危機的な状況の中で、俺は一つ作戦を思いついた。
「なんだ。テラもあれと同じことがしたいのか?」
テラの怒りの原因は置いて行かれたことだったはずだ。
それを、伊代とのデートを問い詰めるという怒りの矛先を自ら変えてしまった。そうなってしまえば、俺は対応しやすい方に話題をシフトできる。
テラは俺との関係を『友達』であるということに拘りがある。
やけに距離感が違い気もするが、俺たちは友達という距離関係を保っている。伊代との関係に文句があるというのは友達という概念とは一線を画する領域にある。
俺の予測では、俺から歩み寄る提案をすれば友達という一線を守ろうとするテラは引くだろう。
「うぅ、えっと……」
掴む力が弱くなった。俺の予想は正しかったみたいだ。これで一件落着——
「したい……よ」
小さい声だったが、俺に聞こえる声量だった。
聞こえないフリをすることもできた。ただ、おそらく覚悟を持って言った言葉を無視する気にはなれなかった。
俺は片手で隣に座るテラの肩を抱き寄せて、もう片方でテラの頭を撫でた。
テラの肩は小さく、そして軽い。まるで羽根でも触っているかのような。あと少し力を入れれば壊れてしまいそうな儚い体だ。
「どうだ?」
「さっくんの手。おっきくてあったかいよ。こんなの初めて」
テラがなんで俺のことを好意的にどう思っているのか? 若干興味はあるが、今はそこまで踏み込むつもりはない。
ただ、都合のいい関係になるには今がチャンスだ。
「俺はテラを妹みたいに思っている」
嘘だ。俺の最愛の妹である由宇と何かを比べられるはずがない。
俺は『妹』という都合のいい概念をテラに押し付けた。
「さっくん……」
俺にとって、テラ。いや、《死神》は仲間を守るための大事な駒だ。教皇に奪われないような強固な関係性にならなきゃいけない。
できれば依存の関係。少なくとも敵対を躊躇うような関係に。
そのためなら俺は一般的な倫理観なんて簡単に捨てられる。
「一緒にお風呂に入って、一緒に寝よう」
俺は伊代から学んだ。ある程度好意を向けてきている相手ならば多少、踏み込んでも拒否してこない。
「う、うん」
同い年といえど、テラの身長は由宇と同等かそれよりも低い。
俺としては由宇にしていることをするだけだ。
髪と背中を洗ってやって、髪が痛まないように優しく乾かしてやり、歯磨きを一緒にやってから寝る。
テラは恥ずかしがっていたが、断ることまでは出来ずになすがままになっていた。
寝るときに由宇を抱きしめるように優しく抱きしめてから寝ていた。
「ねえ。さっくん」
「なんだ?」
「もう浮気しないって言って欲しいなー」
浮気? その言葉の意味が分からなかった。
「浮気って何をしたら浮気になるんだ?」
「て、テラ以外の女の子と手を繋いだり、抱き合って欲しくない」
「俺を縛ろうってことか?」
「し、縛りたい訳じゃない……よ。ごめん。さ、さっきの言葉は忘れて」
俺に浮気といえるのは光莉と百歩譲って伊代だけだ。
「明日も一緒にいたい。ダメ?」
「明日は家に帰る。それまででいいなら、いいぞ」
「ありがとう……でも、いいや。テラは先に帰っているね」
そこからテラは寝入った。
扱いやすい核弾頭。
《死神》を敵に回せば、厄介極まりないが、味方なら心強い。どこかでこの関係に終止符を打たなければならないが、教皇が生きている間はテラにとって理想に近い関係性を保つ。
今日は記者会見からダンジョンに行き、伊代とデートに行き、最後に死神のお世話をした。
精神と肉体共に疲労をしていたお陰で、死神を抱きかかえたままでも入眠できた。




