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三六話 大言壮語?

 説明会が終わり、事実上のメインである記者会見が始まろうとしていた。


 会場を移動して、それぞれが別の会見用の部屋に入る。一人、一部屋。これが基本になっている。


 記者たちの動きから注目度の差は明らかとなる残酷なシステムだが、ミンチと同じ空間にいなくてもいいのはありがたい。


 合格者は八人いるのだが、法律制定のきっかけでもあり、最初の合格者である俺に向かうカメラが多い。分かりきっていたことだが、椋月先輩に向くカメラよりも多いのは意外だった。

 あの人ほど、カメラ映えがいい人はいないだろうに。


 それほど、徳人の仕組んだ工作が優れているということなのだろう。


 メディア対応はあまり得意とは言えないが、イメージを崩さない程度にはできると思っていた。だが、そう上手くはことは行かなかった。


 俺の視界のほとんどを三角帽子が埋めていた。


「ここは俺のエリアのはずだが?」


 俺の会見部屋に《流れ星》の面々が乱入してきた。部屋いっぱいにいる記者たちも困っているように見える。


「ご存じとは思いますが、うちのお嬢様は目立ちたがりですから」

「まあ、椋月先輩はいい……お前らのことだよ。俺を潰す気か?」


 カメラを遮るように立っている椋月先輩。それ自体はいい。なんとなく理由は分かる。

 だが、一番の問題は俺の両サイドにいる二人だ。


 肩が触れ合うほどの距離。とても男女の距離感ではない。

 伊代の奴は元々性格がねじ曲がっているから余裕そうにしているが、片方の館山先輩は少し恥ずかしそうに巨体を縮こませている。


 わざわざこんなことをしなくても、椋月先輩の目立ちを妨害するつもりはないのにな。


「大変、仲良さそうに見えるのですが、みなさんはどういった関係ですか?」


 俺に話を聞きたいのに致し方なく椋月先輩にインタビューをしていた取材陣だったが、一人が痺れを切らして、全体への質問をした。


「二人は昔からのお友達なのです。佐月とはさっき会ったばっかりだけど、友達なのですよ」


 変なことを言われるかと思ったが、案外真面目に答えていた。まあ、友達と言われて悪い気はしない。


「それにしては、ずいぶん彼をその……囲っているように見えるのですが……」

「私たちは彼よりもお姉さんだから、守ってあげているのです」

「な、なるほど?」


 記者ですら反応に困っている。

 これを優しさと受け取ってもいいのか?


 いや、違うな。本当に優しさなら、両サイドをこんな風に圧迫はしない。


「いや、普通に囲まれているだけです。俺に聞きたいことがあったら気にせず聞いてください」

「中津さん。パーティーを組む予定を教えてください」


 複数のマイクが椋月先輩を通り越して俺に向いた。

 それに合わせてカメラも向いてきた。少々、邪魔が多いがいいだろう。徳人のメディア対応をまねるだけだ。


 威圧を与えないように笑顔を意識し、多少の手振りも忘れない。


「今の所、打診している人が二人います。一人は魔法使いの川谷という男です。俺が試験を受けたときに来てくれていたので、ご存じかもしれませんが。あと、一人はまだ確定していないので名前は伏せますが盾役タンクの女性です」

「一般的なパーティーは四人ですが、もう一人のご予定はありますか?」

「まだ、誰がとは考えていません。ただ、気配を消して魔物の命を狙うような暗殺者を――」


 暗殺者と言いかけた所で、記者やカメラの視線が俺から外れた。


 そして、俺が感知したのは肩にかかる虫でも止まったかのような微かな質量変化だった。当然ながらそれが本当に虫だったらカメラは向かない。


 人間とは思えない異常な軽さ。そして、俺がここまで密着されても気づけない化け物。


 この感じは……まずいな。


「わ、わたしは。さ、さっくんのお友達です!」


 誰にも視線を合わせないようにテラ。《死神》が声を張り上げた。


 嫌な汗が頬を伝った。


 なんで、テラがここにいるのか? そんなことはどうでも良かった。


 《死神》が存在する空間にいてはいけない人物が一人いるからだ。

 俺は恐る恐るその人物を見た。


「? どうされました?」


 伊代は前世で《死神》を恨んでいた。

 これまでの態度から、俺は伊代も回帰したのではと疑っていた。


 技の習得の早さや俺への馴れ馴れしさ。この二つだけでも前世の記憶があることを疑うのに十分だった。


 この時、俺の予想は確実なものとなってしまった。


「もしかして、三人目はそこの彼女ですか?」


 喋り方や立ち姿は一切変わっていない。だが、ほんの数ミリだが瞳孔が開いた。

 俺だけが分かる伊代が感情的になったときのサインだ。


「……」

「あっ。もしかして、私に目星を立ててますか? 確かに佐月くんの仰った通りの能力はありますが」


 何も言えずにいると、伊代が勝手にフォローをし始めた。

 ひとまず、ここでは場を乱す気はないらしい。


 俺だったら、何も考えずに殴りかかる所だが、流石、自称天使だ。目の前の感情では動かない。だったら、俺もそれに合わせるべきだろう。


 カメラに視線を戻した。


「この子は友達ですが、仲間候補です。こう見えて純粋に強いので」


 この場を乗り切るための嘘だ。死神を仲間にすれば、パーティーの意味がなくなる。

 なぜなら、こいつ一人で魔物は蹂躙できるからだ。それほど死神は強い。


「年内の目標はありますか?」


 別の記者が質問をしてきた。テラのことに触れずに質問してくれるのはありがたい。


 今後の目標は決まっている。この夏にパーティーとして三級ダンジョンの攻略。そして、年内に二級ダンジョンの攻略を目指している。前世の《白の珈琲》は一年で一級ダンジョンを攻略できていたが、松枝もいない現状ならこれが丁度いい目標だろう。


 ただ、二級ダンジョンを攻略できるパーティーは上澄みに該当する。高校卒業までに二級になれていたら、豪勢な今後が約束されると言ってもいい。そんなレベルを目指すと言えば、メディアは大騒ぎだろう。


「はい。俺たちは年内に二級ダン—―」

「合同パーティーで一級ダンジョンを攻略するの!」


 俺が答えるのに被せるように椋月先輩が声を上げた。


「一級……ですか?」

「そうなの。佐月と私たち三人のパーティーで年内に一級。来年には単独で一級。そして、高校生になったら合同パーティーで特級を攻略するの!」


 記者が固まっている。


 それもそうだ。

 一級ダンジョンの攻略はそれだけで、世界トップクラスのパーティーへの仲間入りを意味する。


 いくら才能を認められている人間とは言え、たった一年で達成できるような目標じゃない。それも中学生が、だ。


 誰が見ても無謀な挑戦。


 それは世間が求める『若手冒険者』の像にはピッタリだった。


 全部持っていかれた。俺はそう思った。


 一瞬の間が置かれた後、一斉にカメラのシャッターがなり始めた。


「どうも。栄興新聞の佐古ですが、今の言葉への自信はどれほどですか?」

「絶対達成できるの」

「三級すら攻略できないのに? 唯一攻略した彼に聞いてみましょうか?」


 記者が俺にマイクを向けた。


 カメラをほとんど奪われてしまったが、チャンスが回って来た。計画とは違うが、ここで話題を奪わないといけない。

 ここは、そうだな……ゆとりを持って、当たり前のことを言う感じで……


「まあ、余裕ですよ。なんなら、今から四人で三級ダンジョンを攻略できますよ。記者さんたちが良ければ今から行きましょうか」

「ぜひとも。見せてください」


 この記者会見には目的があった。


 『この法律は間違っていない』。その世論を作ること。

 そのためには俺たちが目立った活躍を見せる必要がある。書類上の結果だけではない。世間の注目を集めた上での成功。


 傲慢と言われようと構わない。

 先輩たちを利用してもこの場をいいデモンストレーションにしてやる。


 椋月先輩に乱されたせいで、上手くいくかは分からなかったが、最後の最後に放ってくれた爆弾のお陰で面白くはなりそうだ。


 ------


「テラ。俺たちはダンジョンに行くが、少し待っていてくれるか?」

「うん!」


 テラがなぜここにいたかは聞かずに、一旦、消えて貰うことにした。少しぐらい何かを言ってくるかと思ったが、すんなりと受け入れた。

 まったく、こいつの考えは全然分からない。


「じゃあ、行きましょうか」


 大勢のカメラに囲まれながらも俺たちは三級ダンジョンに入っていった。


「大見え切ったうちのお嬢様が悪いのは認めますが、我々は三級ダンジョンで死んでいますよ。本気で攻略できるとお思いで?」

「そのお嬢様さえ守ればいいだけの簡単な仕事だろ」


 俺たちはダンジョンを進んでいた。


 魔物の姿が見えた。


「レッドマイマイですか。面倒な相手ですが、それでも大丈夫だと?」


 レッドマイマイ。まあ、見た目は巨大なカタツムリだ。

 攻撃手段は溶解性の粘液を飛ばすか、炎のブレスを放つかの二択。殻に籠ったり意外と俊敏な動きで攻撃を躱したりもしてくる。


 こいつの別名は『近接戦闘殺し』。魔法使いなら比較的楽に倒せるが、近接戦になると粘液や甲羅のせいで途端に厄介な相手に早変わりする。


「作戦としては俺と伊代で先行して魔物を引き付けて、集まったところを椋月先輩の魔法で一網打尽ということで。館山さんは詠唱をする先輩を抱えてついてきてください」

「あ、あの質問が――」

「伊代。行くぞ」

「ええ」


 館山先輩が何か聞きたそうにしていたが、無視をして先行組で突っ込んでいった。


「俺が正面から注意を引く。ダメージ源を頼んだ」

「はい」


 俺が魔物に攻撃できないことは言わない。


 マイマイの前に足元を立てながらこれ見よがしに殴りに行く。

 当然ながら、俺は人の形をしていないレッドマイマイの動きは分からない。


 マイマイが火のブレスを放つために首(?)を大きく上げ、空気を吸い込んだ。


「流石にその動きは分かるぞ」


 人型ではない魔物の動きは総じて大振りだ。


 放つ瞬間に首を振り下ろす。

 それに合わせて斜め前に跳ぶ。


 初撃を外したマイマイは俺の足音を頼りにブレスをゆっくり移動させてきた。敵を俺ひとりだと思って、確実に殺しに掛かっている。だが、それは悪手だ。


 俺に攻撃の手段があれば、壁を背に近づいて殻を蹴飛ばしているが、今は無理だしする必要もない。


 炎のブレスが止まった。

 伊代がレッドマイマイを攻撃した。その不可解なダメージに攻撃を中断した。


「……」


 あまりにギリギリすぎて文句を言いたかったが、そんな余裕はない。


 レッドマイマイの隣を通り抜ける。

 俺の姿を視認しているレッドマイマイは全速力で追いかけてきた。スピードは俺より若干遅いぐらいで、それなりの速度を持っている。


 何度も同じ行為を繰り返す。一体また一体と追いかけてくるレッドマイマイが増えていく。


 ダンジョンマスターの部屋までやってきた。

 レッドマイマイの大玉とも呼べる気持ち悪い集合体が後ろを塞いでる。


「俺ごとやれ!」


 俺ですら伊代がどこにいるか分からないが、近くにいると想定して声を出した。


 その後、俺をターゲットにした容赦のない流星群が降り注がれた。



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