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三五話後編-回想 最恐二人

※グロ描写と性的表現が少し強いです。

R15のギリギリを攻めています。

 仲間を殺された俺の前に自称天使の女が現れた。


「お前の言う通りだった。俺は甘ちゃんだった」

「ええ。知ってます」

「お前の言っていたことは全面的に正しかった。今、俺は後悔している」


 もし、過去に戻れるのなら新魔教団のカスどもを全員殺したい。


「では、今から一緒に殺しに行きませんか? 手当たり次第に容赦なく」


 女が手を差し伸べてきた。


「今更やったって遅いだろ」

「また後悔をしたいのですか?」


 もう後悔をすることはない。もう俺には失うものはないからな。

 ここから先、どう行動した所で無意味だ。


「……あの世ってあると思いますか?」

「宗教勧誘は他所でやってくれ」

「私はきっとあると信じています。天国で大切な人たちが私を見守ってくれている。そう信じています」


 いつもなら、異常者の言葉なんて聞く気にはならなかった。

 だが、今の俺は弱っていた。


「私は地獄に堕ちることになったとしても、仲間に見せたい景色があります。仇を殲滅する私を見てほしい。あなたはどうですか?」


 こいつの話にはちっとも共感できなかった。

 でも、間違ってはいない気がした。それにこのまま腐って死んでいって仲間に合わせる顔がないのはそうだった。


「お前の狙いは分かった。俺を兵器として利用したいだけだろ。まあいい。お前の強さは認めている。せいぜい俺を利用してみろ」


 差し出された手を取った。


「私の本名は大洲おおす伊代いよです。これから、よろしくお願いしますね。佐月くん」


 その日から、俺の中で殺人が日常になった。


「佐月が出たぞ!!」


 伊代が敵の情報を集め、俺が突撃する。


 仲間と集めた特級魔道具《白の混沌(カオスホワイト)》の能力で最適な武器を出す。


 剣、斧、槌、ナイフや鎖鎌など、無数の種類の武器を振り回す。


「ぎゃあ」

「死にたくな――」


 悲鳴と血飛沫が交じり合う。


 人間が最も残酷になるのは悪いことをする時じゃなくて、自分を正義だと思っているときだと聞いたことある。


 今の俺はまさしくその状況だった。


 抵抗をしない相手であっても簡単に殺せる。

 逃げ惑う敵を手あたり次第に殺していく。


 俺の役割は大量殺人だ。


 新魔教団の拠点から人がいなくなった。

 隠れていた奴も殺した。死体の山に若干の達成感を覚えた。


「お疲れ様です。頑張りましたね」


 伊代が帰ってきた。


「ここにいた幹部を拷問してまたいくつかの拠点の情報が分かりました。近くに一つありますので、行きましょうか」

「ああ」


 伊代は情報収集と逃がした敵の居場所の特定をしている。


 俺の一日のほとんどを殺人に費やす。

 二つの拠点を襲撃したあと、俺たちに襲われる前に放棄された拠点で休むことになった。


「今日のリザルトですが、黒が18で白が782でした」

「そうか」


 黒は殺した新魔教団の信者。白は洗脳された民間人の数だ。


 事実上の人質を俺は無関係に殺している。

 もし、司法が機能していたらどこの国であっても俺は最高刑を受けるだろう。


「必要な犠牲です。佐月くんは正しい行為をしているだけですから」

「お前の方こそ、無理しているだろ。俺が寝ている間に出ているだろ」


 俺は最低限とはいえ睡眠を取っている。寝ないことによるパフォーマンスの低下は幹部との戦闘では致命的になる。

 だから、いつ襲われるか分からない状況でも睡眠を取っていた。


 それに対して伊代はここ一か月は寝ていない。


「ご心配なく。拷問中などに休息は取っています。悲鳴がいい子守歌になりますよ。佐月くんもやってみますか?」


 瞳孔がほんの少しだけ動いた。


 ……嘘だな。


 伊代は感情を表に出さない。嘘を言う時も1mmも揺らがない。

 だが、後ろめたい事を言う時は瞳孔が僅かに開く。ただ、この兆候すら一緒に戦い始めた時にはなかった。おそらく、この過酷な状況で精神がすり減っている。


 このままでは近い内に崩れる。


「じゃあ、俺は疲れた。お前と違って、追われる生活には慣れていないからな。まとまった休息が欲しい」


 伊代は異常なまでにプライドが高い。少なくとも弱音は絶対に吐かない。


「天使の目はごまかせませんよ。あなたの特技は順応ですから、既にこの生活にも慣れているのでは?」


 面倒だが、仕方がない。


「はいはい。天使サマの目は正しいですよ。ただな、俺は戦う意味を見失っている。あの時は感情的になって手を取ったが、俺の直接的な復讐対象はもう死んでいるからな。どうする? 俺を利用したいなら、天使らしくしっかり導いてくれよ」


 嘘だ。別に戦う意味なんて要らない。

 俺は死に場所を求めているだけだ。


「……見苦しい言い訳ですが、いいでしょう。一週間ほど休みましょうか。攪乱のためにも一回消息を絶ちたい時期でしたし」


 ーーーーーー


「こんな所に潜伏ができるんだな」


 俺たちは山小屋に来ていた。


 誰もいないが、既に誰かが使ったのか荒らされた痕跡がある。


 伊代は小屋の中に隠されたボタンを押していった。

 すると、床が開き、地下室へと続く階段が現れた。


「こちらです。手すりに触れないでくださいね。電気が流れていますので」

「ああ」


 降りていくと、地下室とは思えない高級ホテルの一室のような豪華で綺麗な部屋があった。


「すごいな。どんな用途で作られたんだ?」

「お金持ちの避難所ですよ。まあ、旧椋月財閥の遺産とでも言いましょうか」

「二人なら数年は持ちそうだな」


 装置の詳細は分からないが、水を浄化する装置や十分な量の魔石と発電機もある。

 食料も味にも追及された高級な保存食が一部屋を埋め尽くすほど入っている。


 さらに、入り口は内側からしか開けられず、警報装置も充実している。ここなら安全だろう。


「先にシャワーを浴びて来いよ。休もうぜ」

「……お先に失礼しますね」


 こびり付いた血の匂いを少しでもマシにするために念入りに洗った。


 俺は伊代が逃げないように至近距離で寝ることにした。


「佐月くんは18歳ですよね。私は1つ上の19です。いい年齢の男女が一緒のベッドにいるのはどうなんですか?」

「さあな。今はそんな青春チックな問題はないだろ」

「佐月くんはいいですよね。一応、ギリギリ高校時代を大切な人たちと過ごせたのですから」

「お前は違うのか?」


 俺は伊代の事をあまり知らない。

 せいぜい新魔教団を憎んでいることや《流れ星》のメンバーだったことぐらいだ。


「こちらだけが知っているのも不公平ですね。いい機会ですし、話してしまいましょうか」


 真っ暗な部屋で伊代は語り始めた。


「私は椋月財閥の家来のような家の出身で、椋月一族の護衛が使命でした。担当はお嬢様、あなたにも分かりやすく言うと《ほうき星》でした。一度、お会いしたことがあるはずです」

「ああ」

「あの時、私たちは死神と揉めていました。死神はお嬢の妹さんを殺していましたから」


 死神。教皇と並ぶ三神聖の一人だ。

 俺も関わったことがあるが、ろくな奴じゃなかった。


「お嬢は仲間を集めて死神を倒そうとしましたが、返り討ちに合って死にました」

「お前の復讐相手は死神なのか?」

「ええ。そうなりますね。戦闘力なら教皇よりも圧倒的に高い相手になります」


 死神は強い。装備が整った状態でも十回に一回を相打ちにするのが限界だろう。


「ただ、復讐したい相手はもう一人います」


 伊代が俺の手を掴んだ。


「……俺か」


 俺は椋月先輩のSOSを知らなかったとはいえ、振り払った。


「お嬢を見捨てた。あなたのことが一番許せなかった。だから、死神と殺すように誘導していました。結局、失敗しましたけどね」


 実際の所、俺は死神とは後一歩の所まで敵対していた。

 ただ、よく分からない理由で和解して、それ以降は敵対をすることはなかった。


「あなたが仲間を失った時、手を差し伸べたのは復讐の一環でした。楽に死なさない。あわよくば死神を倒すために利用にする。そんな気持ちでした」


 掴まれた腕が引っ張られた。


「あなたも分かった上で私の手を取りました。なのに、全力で私の為に働いてくださいました」

「勘違いするな。俺は仲間の為に動いているだけだ。お前も言っていただろ、天国で見ているって」

「信じてないくせに……嘘が上手になりましたね。そんな元来優しいあなたを私はもっと苦しめようと民間人も殺すように導きました」


 民間人を殺すといっても、相手は洗脳された相手だ。スマイルズや音楽屋を殺さないと洗脳は解けない。なら、せめて痛くないように殺すのが慈悲だ。


「あまり言いたくはありませんが、後悔しています。あなたと殺人でしか繋がれない関係を選んだこと。罪を背負わせたことに」


 俺に罪の意識はない。


「はあ、罪ってなんだ? 俺たちは正しいんだろ。天使サマが言ったことだし、俺は信じているぞ」

「佐月くんは想像を絶する化け物ですね。薄々気付いていましたが、普通ではないのですね」

「それはお互い様だろ」


 俺は手を引かれたから化け物になれたが、伊代は一人で堕ちて行った。俺よりもよっぽど怖い人間だ。少なくとも普通という言葉は当てはまらない。


「……結果はどうであれ、私はあなたを苦しめようとしました。それでも……まだ私と戦ってくれますか?」


 俺の腕を抱きしめた。


 俺の返答はここに来る前から決まっている。


「ああ。地獄まで一緒に戦ってやる」


 俺が死んだら、仲間たちと同じ場所には行けない。だが、それは覚悟の上だ。


「はは。天使に地獄でのデートを要望しますか。面白い男ですね。好きですよ。付き合ってくれますか?」

「ああ」


 仲間を失った人間同士、復讐者としてどこまでも堕ちてやる。


「話は変わりますが、敵からは勿論、天国からここは見えません。佐月くん。私の告白を了承してくださったということは、私たちはもうそういう関係です」


 伊代が俺の頭に触れた。

 こいつ。言葉狩りをしやがった――


「先ほどもお伝えしましたが、私は佐月くんのことをいろいろ知っています。頭を撫でられるのが好きなんですよね」


 体の力が抜ける。

 思考もできない。理性を捨てて甘えたい気持ちが溢れ出て来る。


「悪意のない母性に満ちた相手に撫でられたら、無抵抗ないい子になってしまう。知ってます。知ってますよ。私は年上の天使ですからね」

「ちょっと待て――」


 包み込むようなか弱い抱擁を振り払う力すら出ない。


「ご安心下さい。佐月くんは私の名前を呼びながら、ただ気持ちよくなっていればいいだけですから。こういう時は年上がリードしてあげますから」


 この一週間で感じた罪悪感は殺人をし続けた一か月間のよりも重かった。


 ――――――


 俺は完全に油断していた。

 目覚めた時にベッドに一枚の手紙と本のように分厚い紙束があった。


 手紙は伊代からのメッセージだった。


『親愛なる佐月くんへ

急にいなくなることを謝罪します。

わたしは死神と戦ってきます。

新魔教団の幹部と怪物の情報をまとめた資料を置いていきます。

本当はここでぬくぬく過ごして欲しいですが、きっと戦いに行ってしまうのでしょう。

オススメは憤怒です(なんと佐月くんの地元にいます)。せめて一体は倒してくれますよね。

地獄のデートはやめましょう。天国で綺麗なカフェでお茶をしましょう。

最期に――愛してます。 大洲伊代』


 信じられなかった。


「伊代! いるんだろ。伊代。おい。嘘だろ」


 きっと冗談だ。

 伊代の性根は腐りきっている。俺がこうやって苦しんでいる姿を見てほくそ笑むような腐った人間だ。


「頼む。出て来てくれよ」


 俺がこんなに苦しんでいるんだ。きっとどこかで見ているはずだ。


 情報を見てから外に出た。


 俺に伊代の居場所を特定する手段はなかった。

 ただ、人探しが得意な奴らを知っていた。


 情報を元に幹部に会いに音楽ホールに向かった。


「可愛くない足音だね。教皇殺しがなんの用?」


 演者がいない舞台に指揮者のコスプレをした女が立っていた。

 こいつは《音楽屋》と呼ばれる新魔教団の中でも上位の幹部だ。


「音楽屋。お前、俺の相棒を知っているか?」

「わたし、人を覚えるのが苦手なんだけど」

「お前ら敵に言えば《悪魔》だ。知っているな」

「ああ、あの自爆しに来た子だね。死神様はもう退場しているのに誰を狙ったんだろうね」


 自爆か。

 伊代は俺にも察知できないほどの隠密行動が可能だ。その技術を最大限に生かした最期の戦法だったのだろう。


「そうか。情報を言った礼だ。最期の言葉ぐらいは言わせてやる」

「教皇なんかに従うんじゃなかった。私の音楽は大衆向けじゃなかったみたい」


 鈍器で頭を潰した。


 鈍器で脳みそを潰すのが相手を苦しめずに殺す最良の方法だ。痛みを感じる脳みそが一瞬でぐちゃぐちゃになるからな。


 そうして、完全にすべてを失った俺は半ば死ぬために憤怒と呼ばれる怪物を殺すために地元に向かった。



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