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二八話 殺された恨み

「松枝? ああ、そんな奴もいたな。ただ、俺は人を殺したことはねぇぞ」


 『松枝を殺した』と言うと男は首を傾げた。


 この男。榎本刀夜は娘の名前すら忘れかけるような最低な男だ。


「お前に娘を語る資格はねぇ! 今すぐ殺してやる!」

「おい! 落ち着け」


 顧問の教師に羽交い絞めにされて攻撃できない。

 駄目だ。力が強い。


 簡単には振りほどけない。

 だが、やり方はいくらでもある。


「元気があるのも問題だが、俺は嫌いじゃないぜ。嘉納の奴を見ているみたいで面白しれぇ」


 強引だが、顧問を投げ飛ばして刀夜にぶつけてやる。


 生半可な投げでは顧問の拘束は解けない。攻撃する威力となると、顧問は致命傷を負う。


 無実の人を殺す選択肢になるが迷いはなかった。

 選択するまでもない。俺は仲間のためだったら何だってやる覚悟がある。


 足を運び、投げの体勢に入る。


「何やってるのー? テラも混ぜてー」


 テラが俺と刀夜の間に入って来た。


 死神相手に人間を投げ飛ばした所で無意味だ。


 俺は投げるのを諦めた。


「テラ様。なぜこんな所に?」


 刀夜はテラに向かって頭を下げた。倒れた状況からすぐに頭を下げたせいか、土下座のような見た目だ。


「ねえ。先生。私のさっくんを放してよ」


 刀夜の言葉を無視したテラは顧問の先生に対して目を合わせて言葉を発した。

 

「あ、あ」


 突然、俺を抑えていた顧問の体が震え始め、膝から崩れ落ちた。


 何が起こったか分からなかった。間にいた俺は何も感じなかった。


「テラ助かった」

「さっくんの役に立てて良かった」


 テラがすり寄って来る。

 だが、俺は手で制止した。


「あいつとはどういう関係だ?」

「んー? お世話係?」


 お世話係とテラは首を傾げながら言った。

 説明を理解せずとも状況から関係性は分かる。


 神と信奉者。

 前世の教皇はこの関係性の相手を大量に保有していた。刀夜の反応は信奉者たちと似たものを感じた。


「そうか。それはすまなかった。テラの仲間を攻撃してしまったな」


 現状。死神を敵に回すことはできない。

 松枝を殺したクソ野郎を今すぐ殺したいが、今はそれよりも死神との関係を崩さない方が優先される。


「……殺して欲しい?」


 鎌を出現させたテラは刀夜の首元に刃を向けた。


「さっくんの本気の殺気。何があったか知らないけどさっくんが不快な思いをするぐらいならこれを処分してもいいよ」


 突然、魅力的な提案をしてきた。

 死神が殺してくれれば、いろいろと都合がいい。


 だが、それでは意味がない。


「その必要はない。そいつは俺が殺す。まだその時じゃないってだけだ」


 テラの提案を断った。


 まだ俺の能力じゃあいつを殺せない。仮にも嘉納先生と同格の相手だ。

 せめて、前世で使っていた魔道具がなければ戦闘にすらならない。


 さっきは冷静さを欠いていた。ここで殺せば長期刑で世界滅亡まで牢屋の中だ。死神が来たことによって冷静になれた。


「それにテラの手を汚させたくはない。友達が人を殺す所は見たくないからな」

「うん!」


 テラは上機嫌になって俺に抱き着いて来た。

 相変わらず距離感が近い。


 刀夜が俺を睨んでいる。

 それもそうだろう。自身が信じている神にとこんなに馴れ馴れしくされて不快に思わない信奉者はいない。


「後処理はお願い」

「……はい」


 職員室前での俺の行動は皮肉にも襲われた刀夜本人が処理することになり、カバーストーリーとして実力確認ということですべての責任を刀夜が負った。


 武道部関連の話題に触れたくない学校側としては多少の問題となる事案であっても双方から文句が出ない結末になったこともあり深くは追及しなかった。


 ――――――


 放課後。

 武道部の部員が集められた。


 上級生は数人しからおらず、ほとんどが一年生だ。


 新しく顧問になった刀夜が武道場の畳であぐらをかいていた。


 冒険者に憧れて武道部に入った人間が多いせいか、刀夜の姿を見ただけで目を輝かせている。


「自己紹介の必要はないみたいだな。面倒だが仕事は仕事だ。才能のないお前らをそれなりになるまで鍛えてやる」

「「「ありがとうございます!!」」」


 部員たちが頭を下げた。


「佐月。お前は帰れ。必要なモノは持ち帰ってもいい。友達と遊んでおけ」

「はい」


 俺としても宿敵に指導されるつもりはない。

 それに薬さえ貰えれば学校の武道部で鍛える必要性もない。


 どういった策略があるかは知らないが、ここは乗ってやる。


 俺はカバンに入るだけ薬を詰めてから学校を出た。

 校門の前でテラが待っていた。俺を見つけるなり笑顔を振りまきながら俺の所に来た。


「さっくん。一緒に帰ろ」

「待っていたのか?」

「うん。だって友達でしょ?」


 友達だからって部活終わりまで待とうとするのはなかなか根性が必要だろう。


 少なくとも錦は先に帰っている。

 男女で違いはあるだろうが、普通は待ったりしない。


 だが、これは好都合だ。死神の事をもっと知ることができる。特に刀夜の野郎とはどんな関係なのかについて知りたい。

 それを知れれば必然的に松枝に関する情報も得られるかもしれない。


「じゃあ、丁度いいしテラの家で遊びに行ってもいいか?」

「き、来てくれるの!? わーい!!」


 なぜかオーバーリアクションで喜び、俺の腕に頬をこすりつけて来た。


 立場が特殊とは言え、昨日やそこらで出会った男に対してこんな態度なのはどうかと思うが……

 ふと、テラの見ると真っ白い髪が俺の目を占有してきた。


 白い髪を見るとふと光莉の事を思い出す。光莉とは出会って数時間で骨が折れるぐらいの抱擁をした。それと比べればまだマシな方か。


 これが光莉だったらと少し思ってしまったが、相手は宿敵のいる組織のトップ格だ。心を許すわけにはいかない。


「テラのおうちはね。とっても広くてね。いろいろあるから楽しいよ」

「そうなのか」


 こんな田舎にある広い家を構えれば目立ちそうなものだが、そんな情報はない。


 俺の家よりも学校に近い位置にその家はあった。


「確かに大きいな」


 マンションと見間違うような戸建てがそこにはあった。


 前世でこんな建物はなかった。

 こんな豪邸がいつ建った? 少なくとも一、二日で建つような規模じゃない。


「いつ建てたんだ?」


 素直に聞いてみた。


「テラが住みたいって言った日には建っていたよ。まだ少し工事しているけどね」

「工事をしている? 重機すら見当たらないが……」


 周りを見渡しても業者の車すら見えない。あるのは数台の普通車だ。


 そう思っていると、建物からヘルメットを被った五人が出て来た。


「どうも。異能建設です。工事が終わりました。使用人さんの方に住居の説明をしております。また御用があればご連絡ください」

「あ、あ。ありがとう」


 異能建設。噂で聞いたことがある。

 異能を使って建築建設をする会社だ。少数精鋭ながら、高速で施工をする会社だと聞いたことがある。


 五人のうち、一人の顔を俺は覚えていた。


「あっ。特級ダンジョンの時にお会いしましたよね」


 あっちも俺に気付いた。


「コンクリートを動かしていたお姉さんですよね」

「はい。これが名刺なんで何かあったら連絡してください。徳人様経由なら安くできると思うんで」


 名刺を貰った。

 使う機会はないだろうが、異能建設には少し興味がある。


 川谷家が関わっている異能集団。新魔教団と似たものを感じるが、この人たちその力を社会の為に使っている。あのカスどもとは大違いだ。


「すごいよね。人の命を奪うことに特化しているテラよりもみんなの役に立てる能力って」


 テラが俺の袖を握り締めて来た。

 異能持ちを取り巻く環境について当事者じゃない俺は詳しくないが、それなりの持論がある。


「異能はその人の本質じゃない。あくまで付属品でしかない。だって、異能がなくたって俺たちは通じ合えているわけだしな」


 異能は手足の延長に過ぎない。


「普通はそうだよね。でも、テラはね。異能が本体なんだ……お話を聞いて貰ってもいいかな?」

「ああ」


 ひょんなことから死神の秘密を探れそうだ。


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