表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/46

二四話 教皇

 俺は教皇が映った瞬間にカメラを切った。


『おや、恥ずかしがりですか?』

『先生は佐月くんのことを知っているのですか?』

『ええ。以前、お会いしたことがあります』


 光莉は教皇の事を先生と言っていた。

 前世で光莉が名前を出すほど仲の良いの教師はいなかった。こんなに親しげに話しているということは話題になって俺も覚えているはずだ。


 なら、考えられることは一つ。俺の行動であのクソ野郎の行動が変わったということ。


「なんであなたが光莉の所にいるんですか?」


 死神みたいに俺に直接関わるのではなく光莉の方に行ったということは重要な意味があるんだろう。


 人質だとしたら光莉以上の存在はいない。あいつは分かっていて光莉に近づいたに違いない。


『教育実習です。お伝えしていませんでしたが、私は大学生ですので』


 光莉のいる前では目的を語ったりしないか。

 

「そうですか。じゃあ、俺はそろそろ行かないといけないので」

『それではまたお話しましょう』


 電話を切った。

 あの女が何を考えているか。少なくとも人質を取って俺を脅し取ろうという感じはしなかった。


 だが、あいつは前世で仲間を殺したクズだ。変な期待はしてはいけない。


「おにいちゃん。お顔こわいよー?」

「すまない。嫌なことを思い出していた」


 あの顔を見ると苛立ってくる。

 ただ、今は光莉のことが心配だ。


「大丈夫ー?」


 由宇が頭を撫でて来た。

 妹に不安定な兄の姿を見せるわけにはいかないな。


「ああ。ありがとう。俺は大丈夫だからな」

「よかったー」


 今の俺にできることは限られている。


 仲間を失えば俺が回帰した意味はなくなる。

 慎重に慎重にことを進めなければいけない。俺が考えるよりも最適な人物を俺は知っている。


 ――――――


 夕食後。


『なるほど。事情は理解したよ』


 俺は自室で徳人に電話を掛けていた。

 死神の件は話さず、光莉の所に教皇がいることについて相談した。


『実は彼女から事情は聞いている。それに、学校にねじ込んだのは川谷の力だしね』

「事情?」

『ああ。やっぱりそっちの方が気になる? うちの事情とかには興味ない?』


 川谷一族のゴタゴタについてはどうでもいい。それよりも教皇の目的が重要だ。


『彼女ね。君の事が気に入ったみたいだ。可哀想に』


 あのカスに気に入られても気分が悪いだけだ。

 俺の気に入った理由なんてどうでもいい。ただ、光莉の所にいるのが分からない。俺を気に入ったのなら死神みたいに俺の所にくればいい。


「俺のことを気に入るのと、光莉の所にいるのは関係ないだろう」

『ははは。君の知能はそんなに低いの?』


 徳人が俺を煽って来た。


『もう。しょうがないなー。君が光莉ちゃんの事が好きなんてバレバレだよ』

「それはお前の目なら――」

『そんな高度な事をしなくても、リーダーを知らないネットの住民ですら君が好きな人は分かるよ。だってね。ほら、あんな紳士的な試合をされたらね』


 そう言われて、俺は他の試合を思い出した。

 笹井家の兄たちは出血を伴わせる苛烈な攻撃をしたが、他の選手は投げで痛みを与えないように気絶させた。


 俺は光莉の試合だけ場外に押し出して終わった。多少の打撃はしたが、光莉に怪我はない。


 確かに明らかに対応が違う。


「言われてみたらそうだな。だが、それが光莉の所に行く理由にはならないだろ」

『彼女はね。意外と初心うぶなんだよ。君に気に入られるために好きな人の行動を学習しているんだよ』


 無駄なことをするな。俺は何をしようとも教皇を認めることはない。


「分かった。俺にできる最善策を教えてくれ」

『リーダー。僕は教皇に頭が上がらない。それは知っているでしょ? そんな僕に頼っていいのかい?』

「俺はお前を信用している」


 徳人の考えた作戦なら、俺が考えたやり方よりも上手くやれるはずだ。


『嬉しいことを言ってくれるね。じゃあ、献策するね』


 天才の徳人が考える策。一体どんなレベルのものだろうか?


『君と光莉ちゃんが誰の邪魔もできないぐらいイチャイチャカップルになればいいんじゃないかな?』

「カップル? その真意は?」


 あまりに意味不明な策で俺はその意味を問いただした。


『鈍感なリーダーには教えてあげないよーだ。じゃあ、大変だと思うけど頑張ってね』


 電話が切れた。

 徳人を疑うつもりはない。


 光莉とイチャイチャ……か。

 まったく天才の考えることは分からないな。


「また電話か」


 今日は電話が多い。

 それに知らない電話番号だ。


「はい」

『面白いことをお話しでしたね』


 この声は――


「教皇! てめぇ! なんの用だ!?」

『大声を出さないで下さい。光莉さんが起きてしまいますよ』

「光莉が起きる? お前。光莉に何を」

『やはり、貴方の寵愛はこの子にあるのですね』


 電話越しに髪をなでる音が聞こえる。

 電話越しでも俺には分かる。あれは光莉の頭だ。


「おい。状況を説明しろ」

『私は光莉さんのクラスを担当することになりまして。光莉さんと親密な関係になったため、同衾している次第です。当然ながら、危害は加えておりません』

「目的はなんなんだ?」


 過程はどうでも良かったが、光莉の命は教皇が握っている状況だ。

 それに対して俺は交渉のカードを何一つ持っていない。無条件降伏しかできない。


『徳人くんと話した通りですよ。私はこの子から学びたいだけです』


 盗聴していたか。

 驚きはない。このクソ野郎ならもっと犯罪的行為をやりかねない。


「意味が分からないな」

『私はあなたを崇拝しています。なぜならば――』

「黙れ!」


 あいつの事情なぞ知ったことか。


「お前のことを理解なんてしてやるか。もし光莉に何かしたらお前を必ず殺す」

『憎悪は愛と近しい感情です。分かりました。試練と受け取りましょう』


 俺は電話を切った。

 意味不明な言動だが、俺にとってはどうでもいい。


 今日は精神的に疲れた。

 早く寝よう。


 そう思ってベッドに入ろうとしたら部屋の扉が開いた。


「眠れないから一緒に寝よー」


 由宇が今にも寝てしまいそうな表情で枕を抱きかかえていた。

 小学五年生なのに一緒に寝ようと言ってくる。この時期はまだ一緒に寝ていたこともあったな。


「分かった。おいで」

「ありがとー」


 妹と寝るのは何年ぶりだろうか。前世の分もあってか、かなり久しぶりに感じる。


「学校は楽しいか?」

「うん。友達がいるから楽しいよー」


 友達か。

 由宇は俺より二個年下だ。俺の知っている奴もいるかもしれない。


「久木は元気か?」


 俺は後輩の名前を出した。


 同じ中学校出身の男で、俺を慕って下徳の冒険科にまで来るような奴だった。

 あいつと関わったのは中学の時だったが、あの時は由宇の友達だったはずだ。


「カズくん? お兄ちゃんのことかっこいいって言っていたよー」

「それは嬉しいな。俺も会ってみたいな」


 久木は強い。

 はっきり言って俺よりも冒険者の才能がある。とても優秀な後輩だった。


 だが、あいつは怪物に狙われた。


 前世で俺が倒せた唯一の怪物『憤怒』は久木の体を乗っ取ろうとしていた。だが、あいつの必死の抵抗によって乗っ取りが不完全な状態だったから殺せた。


「今度つれてくるねー!」

「ありがとう」


 死線武道の全国大会は思っていた以上に上手くいった。

 光莉と徳人が仲間になったし、スマイルズを殺すこともできた。徳人の補助もない状態で動いた割にはすべてが上手くいった。


 だが、あと一人、松枝の奴を見つけられていないし、新魔教団のトップたちにも目をつけられてしまった。


 だが、まだまだ打つ手はある。


 俺たちが前世で使っていた魔道具の収集や仲間と後輩たちの指導。

 新魔教団の殲滅や仲間のトラウマとなった奴らの始末。


 俺のやり直しはまだ始まったばっかりだ!


 

※打ち切りではありません。


ここまでお読みくださりありがとうございます。ここまで毎日更新で追いかけて下さった方には感謝しかありません。そして、大変申し訳ないのですが、この話を持って毎日更新を終わります。


投稿頻度は三日に一度にしたいと思っていますが、私情が忙しく難しいのが現状です。

なるべく、早めに投稿再開できるように頑張ってまいります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ