十九話 特級ダンジョン
徳人と共に東京にある特級ダンジョンまでやって来た。
入り口の大きさはダンジョンのランクを示す。
特級ダンジョンのサイズは雲を貫くほどの高さだ。一級ダンジョンでも、一軒家ぐらいの大きさなのに対して遥かに高い。
一方、入り口は人ひとりが通れるレベルで高さも相まって極端に細い入り口をしている。
ここに怪物たちが封印されている。
前世で俺を苦しめた相手の根城。ここを攻略することが俺が回帰した意味でもある。
入り口は厳重に管理されており、見上げるほどのコンクリート壁で囲まれている。
「僕だよ。開けて」
徳人が声を掛けるとコンクリートが溶け、円形の空洞ができた。
不思議な現象だが、これは異能の力だろう。
穴から警備の人が出て来た。
「徳人様。お待ちしておりました。こちらへ」
俺たちが壁の内部に入ると壁の穴が一瞬で戻った。
コンクリートを操る異能か。前世で見た記憶はない。
「じゃあ、行こうか」
徳人は歩みを止めることなく入っていった。
特級ダンジョン。
現在、特級と名を冠したダンジョンは世界に四つしかないと言われている。
あとで見つかる三つはその国が隠蔽していた場合や地中に埋まっていたりと狡猾に隠れていた。
「特級もこの程度なんだよね」
徳人は魔物に対して雨のような魔法を浴びせて倒している。
まあ、今の徳人の実力なら特級ダンジョンの中層ぐらいまでは行けるだろう。だが、それ以上は無理だ。
怪物が封印されている特級ダンジョンには『黒い魔物』が現れる。他のダンジョンとは違い、特級ダンジョンの魔物は何度倒してもリポップしてくる。
「そろそろ、厳しいかも」
一体のブラックオーガを徳人の魔法の雨を耐えきり、目の前まで迫って来た。
「任せろ」
前に出てオーガのヘイトを取った。
ああ、前世なら魔道具を使って攻撃を開始していたが、今はそんなことはできない。
棍棒を避ける。
俺に攻撃をしていたオーガは徳人の攻撃によって死んだ。
「本当に攻撃できないんだね」
「ああ。装備さえあれば戦えてはいたんだがな」
「分かったよ。じゃあ、このあたりでいいかな」
徳人が歩みを止めた。
動揺はしない。
「俺を誘導してまでここに来たということは何か用事があるんだろ?」
元から分かっていた。徳人が特級ダンジョンを見に行くなんて無駄な行為をするはずがない。
「君に会いたいって人たちがいてね」
ダンジョンの奥から二人が歩いて来た。
「お前らは……」
俺はさっきの言葉で気づいていなきゃいけなかった。徳人が「会わせたい」という上から目線の言葉を使わなかった意味を。
一人は背丈の倍の大きさを持つ鎌を持ち、全身を黒いぶかぶかのフードを来た小学生ぐらいの背丈の女。その鎌から『死神』と名前がついている。
死神は無視する。関わるだけ無駄だ。
そして、もう一人。こいつは前世で『白の珈琲』を壊滅させた女だ。
真っ赤な長髪と憎たらしいまでに凛と整った容姿。その姿を見ただけで俺は飛びかかっていた。
「殺す!」
今の体で勝てないことは分かっている。だが、あいつにだけは俺の手で殺す。
「『待て』。おや」
「効かねえよ」
俺の拳は女の顔に向かって迫った。
「だ、だ。ダメだよー。急に喧嘩しちゃ」
死神が介入し、俺の拳を完全なタイミングで鎌の腹が止めた。
「ま、まず。は。お話して」
「お前ら三神聖とは話すことは何もない。特に『教皇』。てめぇは殺す」
「私が貴方になにかしましたか? いや、したから怒っている。じゃないと貴方はただの狂人でしかなくなる」
新魔教団という組織は一番上に三神聖と呼ばれる三人を据えている。
前世では死神はなぜか中立寄りであり、倒す必要はなかった。もう一人は死ぬまで存在が分からなかったが、人類に仇なしてはいない。わざわざ刺激をする必要はない。
はっきり言って『教皇』がすべての元凶と言ってもいいぐらい。あいつとその手下たちがずっと俺たちの邪魔をしてきた。
「徳人くんが言っていた通り、君は私たちが知らない過去を知っているみたいですね。『全部、話しなさい』」
「残念ながら、お前の能力は効かない」
こいつの異能は《教皇》という能力だ。大量の能力を内包しており、その一つに言葉一つで相手を支配できるというものがある。
スマイルズが使っていた洗脳のレベルをはるかに超えており。発動条件は声を聞く事のみ。強制力は本人の意思でその言葉に逆らいたくないと思わせるほどであり、操られる人間の全力の能力を引き出すことができる。
前世では『教皇』を殺すのに仲間を犠牲にした。
「なるほど。彼が欲しくなる気持ちが分かりました。私の抱擁を受け止められれば、君の意思をすべて受け入れましょう。どうですか? いい条件のはずですが?」
「俺はお前らとはつるまない。お前は必ず殺す。それだけだ」
『教皇』は殺す。
だが、今は死神がいて戦いにすらならない。
「え、あ。その。私も殺すの?」
「お前はどうでもいい。敵になるなら殺すが俺はあいつを殺せればそれでいい」
「じゃ、じゃあ。お友達だね」
俺は死神の戯言を無視して、ダンジョンから出ようとした。
「徳人。お前の家が新魔教団を手駒にしていることは知っている。だが、実態は『教皇』に乗っ取られているのが現状だろ」
「ご明察通りだよ」
「俺はお前を責める気はない。だが、管理できるうちはしっかり管理をしろ」
特級ダンジョンの怪物たち。それと新魔教団の『教皇』。俺が最終的に殺さないといけない奴らだ。
俺ひとりじゃ無理な話だが、仲間たちと一緒なら超えられる。
前世と比べて俺には様々な制約が課せられたが、それは些細な事にすぎない。仲間たちさえいれば世界は救える。
「覚悟しろよ! 俺がお前たちを殺す!!」
最深部にいるであろう怪物にも届けるつもりで俺は声を張り上げた。
俺なりの宣戦布告だ。




