十二話 一方的な暴力
トーナメントが進み、俺と笹井家の兄たちが対戦することになった。
「こ、降参だ。もうやめてくれ」
「謝る。謝るからやめてくれ!」
一方的な暴行によって、トラウマを植え付けた。
前世の感覚通りならあいつらにこのトラウマは乗り越えられない。
俺の顔を見るたびに今日の事を思い出し、拳を握ることすらも敬遠するようになるだろう。
「俺たちになんの恨みがあるんだ!?」
父親にそう聞かれた。
「恨みはそちらから先に作ったことでしょう。今後、気を付けて下さればいいですよ」
何か言いたげだったが、事情を知っていた故になにも言えないみたいだった。
「前も言いましたが、光莉さんはあなたの器じゃ成長できないでしょうね」
俺の私怨を混ぜた言葉を送った。
光莉の方はもう大丈夫だろう。
俺が死線武道の大会に来たのは光莉に会うことと、きょうだいを叩きのめすことだった。当初の目標は達成できただろう。
中学生以下無差別級のトーナメントは俺が優勝して幕を閉じた。
――――――
翌日。メインイベントのアンダー18無差別級が始まった。
前日までは観客席には空席が目立っていたが、この日は広い会場がお祭りのようにギッチギチだった。
「さて、一番の問題はお前だな」
「僕の応援に駆けつけてくれるなんて、なんて友達思いなんだろうね。君は」
川谷徳人。こいつは扱い切れない。
俺は観客席にいるのに試合直前にわざわざ俺のところにやって来た。
「お前の相手はあの冴先輩だ。お前でも苦戦するだろうな」
「へえー。微塵もそう思っていないくせに」
冴先輩は強い。それこそ、高校生までで冴先輩に勝てる人はまずいない。それほど規格外の存在が芽妻冴という人物だ。
ただ、この例えが正しいかは悩むが、冴先輩は十年に一度レベルの天才だが、徳人は千年に一度の天才だ。才能の格が違う。
「さっさと行けよ。冴先輩を待たせるんじゃない。あとで俺が痛い目に合う」
「じゃあ、楽しみにしていてよ。君の大好きな先輩を僕が『ボコボコ』にする光景を」
性格が悪いな。だが、徳人は素でこんな感じだ。むしろ言葉に出しているだけマシな部類だろう。
「よう。お前がオレの対戦相手だな。俺の可愛い弟になんか用か?」
なぜか観客席に来た冴先輩が徳人の肩を掴んだ。
そろそろ試合の時間のはずだが、こんな所にいてもいいのだろうか?
「あれ? 君には妹がいると思っていたけど、姉だったんだ。僕の目を欺くなんてやるね」
「分かっているくせに何をいってんだが。それより、二人はさっさと試合会場に向かって下さいよ。審判が時計を見てますよ」
「じゃあ、冴? 先輩。行きましょうか。どっちがこの人にいい姿をアピールできるかの勝負になりますね」
挑発された冴先輩は今にも殴ってきそうな目線を向けて来た。俺に向けられた訳じゃないのになぜか体が震えてしまう。
前世の恐怖はまだ体に染みついているみたいだ。
「いいぜ。お坊ちゃま。オレがこの手でギタギタにしてやる」
「ははは。あなたがこの僕を? 現実を見ないと分からない人みたいですね。それでは試合で会いましょう。ああ。勿論、逃げてもいいですけどね」
怖いモノ知らずな徳人は鬼をイラつかせるのに最適な行動を取った。
「久々にキレたぜ。おい佐月」
「はい」
「約束はちゃんと覚えているだろうな」
「え、ええ」
「丁度、こういう時にストレスを発散するおもちゃが欲しかったんだ。楽しみにしておけよ」
ここまで怖いと感じた脅迫は初めてだ。
大勢に命を狙われた時よりも何倍も恐怖を感じた。やっぱり冴先輩には敵わないな。
周りの観客はあの二人の殺気に怖気づいてしまい俺の席周辺が空いてしまった。
「隣いい?」
「ああ。勿論」
空いた席に光莉が座って来た。
「いいのか。俺といて。お父さんもお兄さんも怒るんじゃないか?」
「わたしはあなたを倒したい。たったそれだけ」
「じゃあ、いろいろ教えてやらないとな」
嫌われる覚悟はあった。今の光莉にとって家族は大事なものだ。それを傷つけた俺はまさしく親の仇のようなものだろう。
俺の隣に座った真意は分からないが、復讐の大義名分を言ったということは仲良しこよしをしたい訳ではないんだろうな。少し悲しいが、俺がやったことを考えれば、近づいてくれただけでも喜ばなければいけない。
「初戦の第一試合。この試合は笹井さんにとって一番重要な試合になる」
「なんで?」
「あの二人は超攻撃特化だ。もし、あのあの二人の攻撃を防げれば俺の攻撃なんてただのそよ風程度しかない。だから、どう受けるかを考えながら見るといいだろう」
「分かった」
光莉が俺の言っていることを聞いている。前世は光莉が戦うことに積極性になったのは出会って半年後ぐらいだった。
それが、今回は出会って数日で戦いに興味を持ってくれた。
「この戦いは世界でもトップレベルの戦いになる」
さっきまで俺の隣にいた二人が舞台に姿を現した。
今回は俺も観客の一人として試合を楽しませてもらおう。




