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女神な存在

 アイアンバンク。本社を王国に置き、世界へ金融業のハリケーンで席巻した元商人の集団。

 莫大な金と優秀が過ぎる営業マンの手によって集まる、金、金、金。

 金を元手に膨れ上がる、富、富、富。

 アイアンバンクが本気を出せば国を変えるとのうわさがある程膨れ上がった企業の末端。10代の内から営業を続け、今では王国の広いエリアを任されたゼラールはストレスをため込んでいた。

 理由は、新米ダンジョンマスターと、聞く耳を持たない王国アイアンバンクとその後ろに控えるずぶずぶ癒着の王国だ。

 新米マスター、アスヤは金になるが、王国は昨今かさむ戦費のせいで国債を大量発行。ゼラールの担当エリアは王国負債の回収と収益健全化を図るために、若い芽であるアスヤに目を向ける暇がない。

 回収できる金はすべて回収し、王国への戦費捻出に当たれという。その上で営業利益を上げろというのだから、悪い酒も進むというものだ。

 面白くもない状況で、向かっていたのは王城。胃の痛さを助長させる国王と大臣にアイアンバンクのエリア代表として謁見賜らないといけないのはストレスの極みだった。


「陛下、何の御用でしょうか」

「うむ。昨今の獣災や戦費の増加。仮想敵国である帝国の動きを鑑みて、我々に必要なものが何か、貴公に分かるか」


 現国王は、先代の治世を破壊したいわば暴君。ゼラールよりわずかに年上程度のまだ若き王。アイアンバンクを優遇することで商人ギルドを多数誘致。先王の福利厚生溢れる社会から一転して、重い徴税にも耐え得る資本主義国家の建立を掲げている。

 逆にアイアンバンクは倒れない融資先として王国との繋がりは命を懸けてでも繋げておきたいという思惑があった。

 どれだけクズクライアントでも、要望に応え、会社の利益を生むのがゼラールの仕事だ。


「金、ですか、陛下」

「違う。主の奇跡だ」


 一瞬の間、ゼラールの時間が止まった。

 先にも言った通り、国王の年齢はゼラールよりわずかに上、ボケるにはまだ速い。

 となれば、急な宗教に入信した。しかし、ゼラールは幾度となく王城へ足を運んでいる。

 国王も横の大臣もそんな素振りはなかった。それが、何故急に。


「あなたが、このエリアで一番情勢に詳しい人、でいやがりますか?」


 妙な言葉を使う少女……いや、幼女が玉座の傍から現れた。眼鏡をかけた金髪の幼女はなぜか神々しさすらある。妙な雰囲気。何百、何千、クズから経営者、果ては王まであらゆる人間を見たゼラールだからこそ、一瞬で認識した。

 天使、神の使いが、目の前に現れたのだと、認識した。


「驚いた、まさか生きていて、出会うことが出来るとは」

「あなたは、私の容姿に対して何も感じやがらないのですね、好都合です。聞きたいことは、ひとつ。こんな顔の男を知りませんか?」


 紙より厚く水晶版より薄い四角いものを取り出した。板に投影された映像のように鮮明な人相書き。ゼラールは人相書きに、あまりにも身に覚えがあった。

 新米ダンジョンマスターにして、金の生る木を持つ少年、アスヤだ。


「さあ。しかし、どうして天子様がたった一人の人間を探すのに、こんな探偵のようなことを?」

「ここは私の管轄外でいやがりますから、力が使えねえのです。ただまあ、はるかにこの世界の文明を越えやがった力は出せます。そこの王もそれで信じやがりました」

「なるほど、お話は分かりましたが、そいつは何をしでかしたのですか?」

「私を欺きやがりました。精査の結果、一度彼をこのままにしておくのもどうかという話になりやがりました。これで239連勤。定時には帰りたいので知っている情報は全て、話してください。ゼラールさん」

「私の名前を?」

「はるかにこの世界の文明を越えやがった力と言いました。これは個性ではなく技術の話していますよ、商人さん」


 とは言え、とは言えである。

 仮に相手が神だろうと天使だろうと、ゼラールが仕えるのは会社だ。

 アイアンバンクの社員である以上、会社の方針に従うのが彼の仕事だ。

 エース、敏腕ビジネスマン、金策名人。彼を評するありとあらゆる称号が、邪魔をする。

 アスヤはいずれ会社にとって富をもたらす。だからこそ、早々にダンジョン諸共手に入れる必要に駆られていた。


「もちろん、協力は惜しみません。私の情報網を使えばすぐに見つかるでしょう。しかし彼を殺すというのなら、人道的見地から、また、神の敬虔な信徒としても看過は出来ませんな」

「殺しはしないと約束しましょう。ただ、時空間のバランスが崩れるようなら、私は彼を殺します」


 確信に変わった。

 この幼女の天使が言っていることが半分以上理解できない。雰囲気で何となくこうしたらいいというのは分かる。

 だからこその確信だった。他者の理解度に完全に依存した勝手喋りを繰り返す雰囲気。

 間違いなく、幼女天使はアスヤと何かしらの関係者。となれば、話しも一気に真実味を帯びてくる。


「分かりました。陛下、これよりその者の捜索を第一条件としますので、一度取り立てを停止してもよろしいでしょうか」

「構わんよ。天使殿に協力して差し上げろ。同時に、アイアンバンクに通してほしい話がある」


 どうやらこっちが本題だと、空気の代わり方から聡く判断するゼラールは居住まいを正した。


「帝国との戦争に向け、有能な傭兵、冒険者を集めてほしい。金に糸目は着けない」

「……分かりました。上に通しましょう。では、天使殿はどうされますか?」

「私は姿を消してあなたを見守るとしましょう。期待しています、ゼラールさん」

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