衝撃のコント
スキル展開。暗闇の中に出現した、ステージ。木目調の床に赤い幕。客席はガラガラで巻き込まれたエクシアだけが座っている。
素晴らしい、ここまでも、スキルってのは俺の思い通りなのか。
不思議そうな表情で、ユイアもとい魔王ルシエルは俺の横に立っていた。俺たちが使って良い武器は、木目調のステージの上にある、たった一つのマイクスタンドだけだ。
「スキルが……封じられている? 馬鹿な、神の力だぞ」
「神の力を神の力で上書きしただけだ。現にスキル無効系のスキルはいくつもある。さて、始めようか、魔王。笑劇の劇場を」
「何を……」
「ぐーちょきぱーでー、ぐーちょきぱーでー、なにつくろー、なにつくろー、右手はパーで、左手もパーで、エイリアン―、あああああああ」
エイリアンの幼体が顔に飛びつく名シーンを、俺の名演技で完璧なものにした。
床に体を叩きつけると木が跳ねるいい音が響き渡った。
「何を……しているんだ、お前」
「ツッコミは、どうしたぁ!」
俺は会い方がボケているのにもかかわらずツッコむどころかスルー系の対応もしない。馬鹿が、そんなんでお客様は笑わねえ。
俺はルシエルをぶん殴ってステージの上に寝かせた。
「きさ……なんだ、体が、動けない」
「この世界でダメージを与える方法はツッコみか、ツッコミが失敗した時のボケの逆襲だけだ、そしてダメージは魂に直接透過する。屈強な男の肉の鎧も豪勢な装備も効かねえ」
「馬鹿な……エクシア、貴様、スキルの選定が甘いんだよ」
「無茶言わねえでほしいです。具現化した後でいくらでも適当並べて改変させたアスヤのセンスがいいだけです」
「ちっ――」
「ショートコント、スナイパー。ターゲット発見。ん? あれ、視えない。おかしいな。スコープが覗けない、あれ……ああ、スコープがちくわだ!」
「…………」
「若干覗けるじゃねえか、だろうが! 俺の視力は2.5パンチ!」
「ぐあ……ルールが、分からん!」
「ちなみに笑いの方も微妙でいやがりますね。ルシエ、ちゃんとツッコみやがるです。ボケが死ぬ」
「無茶言うな、私は、こいつの笑いがずっと分かっていない」
「ショートコント、チーズ。はーい写真撮りまーす、はい寄って寄って、ゴルゴンゾーラ。いや、チーズじゃないんかい! ってお前がツッコめや!」
両腕を固めて一気に頭上に叩き落とすトールハンマー。
尋常じゃない攻撃を受けたように、ルシエルは床を崩して沈んでいった。
「おい、私の……ツッコミの番だろ」
よろよろと立ち上がるルシエル。この空間ではボケとツッコミの際、普通の世界と比べてダメージがおおよそ108倍されている。痛い程度じゃすまないはずだ。
「ノリツッコみだ。すぐに反撃しろ。いいか、ツッコミはボケを殺し、活かす。瞬発力が大切なんだよ馬鹿が」
「つ……知らねぇ……」
「ショートコント、チーズ」
「はい。今のタイミングでまたチーズかってツッコみやがらないと」
「少し黙ってろ。こっちに集中する」
「ショートコント、なぞなぞ。はい、問題です、四匹のネズミが食べるものなーんだ。色々ありますよね、考え方とか。これ俺が最初聞いた時、チーズって聞いたんですね。そしたら違うって言われたんで、cheese? って答えたんですよ」
「……あ?」
「発音の問題じゃねえ、だろうが!」
「つ……クソ、ふざけるな……動けない」
「それがこの世界のルールだ。さあ、魔王様、お前の力を全部寄こしてみろ!」
「ふざけるな、こんなものに付き合ってられるか」
「お前の魔王と言う肩書をぶち壊す。大体なんだ、魔王って。流行んねえんだよ」
「流行る流行らないじゃない」
「ナンセンスだな」
「なんだお前は」
「ダンジョンマスター、はじめますたー!」
魔王の右頬をぶん殴る。
魂の一撃を受けて、魔王が吹き飛んだ。
敗北と同時に、劇場が閉演する。
魂吹き飛んだ状態でユイアが居酒屋の床に倒れた。
たたき起こそうとする前に、息を吹き返したように跳び起きた。
「え、あ、なに……」
「魔王と契約なんかするなよ。何を言われたかは想像つくが」
「……ごめん」
ユイアを立たせて、居酒屋で一杯やる。
「秘策がアレとは……無茶しやがります」
「まだ殺せてねえ。殺せてねえが、これで当分、あいつは現世に復活出来ない。百パーセント引き出して来たら俺でも勝てるか分からねえからな」
「私はしばらくここで貴様が死んで来るのを待ってやります。さっさと帰りやがれです」
「ああ。そうするよ。俺のダンジョンがどうなってんのかよく見ないといけないしな」
「ぶっ壊れてるよ、色々と。滅茶苦茶に」
「そうか。んじゃあ、また一から作り直すとしよう。エクシア、また来る」
「来ないに越したことはねえです」
「そりゃそうだ。また一から、やり直しになるし、何も解決してねえの超ウケる」
「おもんないよ、もうさ……アスヤ頼みだったのに」
「んなわけねえだろ。お前がいなきゃ、もうとうに俺のダンジョンもこの国も滅んでたよ。ありがとな」
「……どうかな。そんなのもう、わかんないけどさ」
「今は悲しいか?」
「当たり前でしょ」
「笑って、酔おうぜ」
「……元気、出たよ」
†
「さて、諸君。今回のルシエル復活劇、中々に喜劇で私的には面白かったよ。エクシアの落ちぶれっぷりも。中々楽しめた。エクシアには感謝しないとな。ルシエルの奴がようやく表に出て来た」
金髪の少女が、暗闇の中でただひとりだけスポットライトを浴びて高らかに笑った。
周りには多くの人影があるが、皆一様に沈黙を貫いていた。
金髪ツインテ―ルの少女に誰もが口を噤んで何も言えない状況は、異様なものと言って間違いなかった。
何もない場所にまるで君臨する少女の瞳には宇宙が広がっているようだった。
「では、仕方のないクソ後輩の尻拭いといこうか。これより世界の正常化と、ルシエルを狩る。奴が史上最高の天使だったのは数千年前の話だ。時代の厳しさを教えてやれ、馬鹿ども」
少女が笑い、次々にスポットライトが他の人影に当てられていく。
「我、ミカエルの元に集え。アザゼル」
「はい。ミカエルお姉さま、ここにおります」
「シェミハザ」
「呼んだ? お姉ちゃん」
「サタナエル」
「……なに」
「行くぞ、お前たち。天界の裏切り者がいつまでも幅を利かせているのが私には我慢できないんでね。ようやく見つけた得物だ、本気で、潰せ。天から降りるぞ!」




