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ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
ダンジョンマスターいなくなりマスター

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64/68

敵はいつだっていやしない


 縮地で距離を詰めて、腹を貫いて来る。


「あんたのそう言う軽いところが、大嫌いなんよ」

「ごほ……重いより、良いと思うけどな」


 亜空間が俺の内臓をグチャグチャにかき回し、絶命するかしないかの寸前に追い込まれる。


「下らない。どうせ私には勝てないんやから、おとなしくしとけばいいのに」


 半分に割られた。本当に人体破壊に対して躊躇が一切ない。

 復活すると同時に繰り出される無限の攻撃。起きても尚、終わらない。


「姫様」


 無限に続くと思われた攻撃は、ゼロネの一言で止んだ。

 すぐに抜け出して、適当な残骸を集めて軽く盾を作る。懐かしいな、ダンジョンを作る時、よくこうやって廃材を集めていた。


「ゼロネ。今良いとこやねん。邪魔せんといてや」

「外で暴動です。周辺のダンジョンマスターたちが冒険者と徒党を組んで、城を目指しています」

「なんでこのタイミングや」

「イレギュラーズが逃した、ショナと言うダンジョンマスターが手引きしたと」

「事前に話が通っていた……いや、もうええわ。帝国兵に当たらせといて。これを機に他の国が動いても敵わんんわ」

「はっ。フェルデス、お前が指揮を執れ」

「かしこまりましたっ。しかしっ、わたくしっ、先ほどから感じているのですよっ、熱い、熱い視線をっ」

「良く気付いたじゃんね。逃がさないよ。アシュリーさん、剣、貸してもらいますね」

「好きにしろ。私が外の指揮に出る。姫様、問題は」

「無いよ。私はこいつを黙らせる。勝って私を認めさせないとあかんねん」

「ああ、俺ってモテモテだね。んじゃあ、やろうか、エトナ!」

「また吹き飛ばしてあげるわ、アスヤ」


 俺の作った簡易盾を貫通させる掌底打。亜空間を付与した攻撃に防御は関係ない。

 そもそも、別に打ち込まなくても切断してしまえばいい。この掌底打は、女帝エトナの大きな大きなプライドが出した、一瞬の隙。

 後単純に俺は死なないわけじゃない。何度も死んでるだけだ。くそ痛いし、涙も止まらないしで情けねえことこの上ねえ。

 ただまあ、俺らしくてちょうどいい。丁度良すぎて風呂に入ってる気分だ。

 仕掛けは上々だ。ここまでやれること全部やった状態だ、ある程度のリスクは――


「承知の上だ」

「ごちゃごちゃと、死に体がよう喋るなぁ」

「おしゃべりだけが唯一の武器でございますんでな、ビャク!」


 さっきまで戦っていたゼロネが消えたお陰でフリーになったビャクが、鉄塊の隙間から跳んできた。

 人間離れしたバネで自在に戦場の足場を自分の物かのように使う変則機動。

 しかし、エトナに見掛け倒しのフェイクは通用しない。最悪なほどに噛み合いが悪い。

 その上で、白い獣の少女、ビャクはエトナに突貫していく。

 エトナ、暴挙とも思える攻撃に対して亜空間防御で対抗。

 ビャクの手が亜空間に吸い込まれ……ない。

 獣の一撃を腹にもろに食らったエトナだが、ほぼ同じタイミングでビャクを蹴り飛ばしていた。

 エトナの腹を打つと同時に既に横に飛んでいたビャクはほぼノーダメージ。

 エトナも腹筋で防いだらしく、ノーダメージ。

 何だこの超常対決は……こいつら化物かよ。


「……スキルが利かない? いや、効くとか効かないとかじゃない。食い破られた? ほんと、不思議な子やね」


 亜空間を発動しつつ砂塵をまき散らして下がるだけでノーダメージ。

笑っていやがる。

 たった一度打ち合っただけでなんでそこまで看破できる、か。本当にお前は強いよ。

 ただ、相手が悪かった。

 エトナはよろめき、手を付いた拍子に近くの残骸で掌を切っていた。


「ビャクのスキル、超自然だよ。万物あらゆるスキルを食らう、圧倒的破壊スキルだが、お前、ダメージ食らうと亜空間解除されるのか。良いこと知ったぜ。この前はすぐに吹き飛ばされちまったからな」

「厄介なことこの上ないわぁ。まあ、ええけど。だったら単純に殺してあげる」

「そう。お前のそれが厄介だ。ビャクじゃお前に勝てない」

「ん。勝てる。マスター、下がってて」

「落ち着け。そりゃ死闘の果てに相打ちレベルなら勝てるかもしれねえが、俺は圧倒して笑わねえと気が済まないんだよ」

「さっきからペラペラ言ってくれるじゃないの、あんたさぁ、一回負けてんの覚えとる? 悲鳴が聞けずに残念やけど、その口ももいだるわ」

「やってみろよ、メンヘラ転生者」

「殺す」


 ビャクが先に飛び出し、エトナに襲い掛かる。

 ほんの一瞬、差し込みがエトナの方が早い。縮地――

 ビャクは野性的な視野と動体視力を持つ。だからこそ、急に縮まる距離に対応できない。

 予想通り、ビャクは手刀で飛ばされ、横たわる列車に薙ぎ倒される。

 あいつの亜空間は確かに驚異的だ。ただ、以前ついたように目が弱点だったり、最初から遠距離でチクチクしてればいいのに拳で殺すことに執着する。

 気持ちは分かる。

 別にただ殺したいわけじゃない。エトナは全力を尽くして自分じゃ倒せない相手を探したいんだ。

 孤高に戦う癖して持ち合わせてしまった破滅願望。過去の辛い経験が、エトナを一人にした。強くした。最初に話した時から、ずっと思ったことがあったよ。


「お前、ぜってえ、笑わせてやる」

「下らない。本当に、イライラするわぁ、あんた」


 殴り合う――

 俺の数倍速い拳が頬に打ち込まれるが、気合いで拳を前に出し続ける。

 勝ちを確信したエトナがあまりに凶悪な笑みを浮かべて拳をさらに振りかぶる。

 俺の拳は当たり前に届くはずがない。

 勢いも死んでいる。カウンターにもならない。

 否、それでいい――

 エトナが踏み込んだ瞬間……彼女は苦痛に顔を歪ませた。


「な――」

「足元注意だぜ、お嬢様!」


 俺はエトナに抱き着いた。こんなこと、元の世界でやれば確実にお縄だ。

 しかしこの世界に、少女抱きついちゃいけねえなんて法律はねえ。そんな倫理観も持ってねえ。


「捕まえたぜ、おてんば娘」

「なんで……こんな……私、が……」

「足元に残骸で作った罠を仕掛けておいた。踏んだらクソいてえ釘の罠だ。お前の亜空間が剥がれるには十分すぎるダメージだろ?」

「……いつから、気付いてたの」

「ビャクとの戦闘で、亜空間発動中なのに砂塵が舞っていた。足の下は素のままってことだ」

「……ようやく、理解した。あんたがなんで、そんなちゃらんぽらんなのに、勝てるんか……そうか、そう言う事なんや……スキルじゃない。最後まで、どんな絶望的な状況でも、あんたは勝ちを探しとんのやな」

「辛かったんだろ、ずっと。そうやって、他人に触れられず、自分も触れるのが怖い。しんどかったな」

「……何なん? あんたほんまに、うっといんやけど……」


 抱きしめる強さに比例して、エトナも抱き返してきた。

 何をどう間違ったかも知らない。こいつが最終的にどれだけの被害を出したのかも、この世界を離れすぎていて知らない。

 ただ……敵でもなんでも、苦しそうにしてる奴は笑わせてなんぼだろ。


「エトナ、軍を引いてくれ。これ以上、無駄な被害を出したくはない」

「それは無理や。ごめんな、アスヤ。私にも私の守りたいものがある」

「そうか。残念だよ。お前をもう攻略した、今度は叩き潰してやる」

「はん、それはどうか――」


 ザシュッと、肉が斬れる音がした。一瞬、どこからしているのか分からなくて自分の腹を見た。ボロボロだが、別に何かが刺さっているわけじゃない。

 腹から顔を上げると、目の前のエトナの腹に、剣が深く突き刺さっていた。

 黒い刃の切っ先が、さらに勢い良く刺さり、次の瞬間には抜かれた。


「な……エトナ!」


 見上げると、エトナをゆっくりと見下ろすように仮面の黒騎士が立っていた。

 理解に、苦しんだ。俺はそんなにも長い間、この世界を離れていたのか?

 ふたりは、唯一無二に信頼し合う、姫とその騎士、ではなかったのか?

 俺はもしかしたら、大きすぎる間違いをしていたのかもしれない。いいや、むしろ、俺自身が、眠っていた獅子を叩き起こしたのかもしれない。


「ダンジョンマスターアスヤ。貴様に負けて以来、私は期待していた」

「何をだ? 姫の黒騎士」

「姫様のスキルを無効化してくれることを、だ。前回は至らなかったが、今回は見事に攻略してくれた。感謝する」

「話が見えてこないな。お前は、こいつの騎士じゃないのか」

「それが、なんだ」

「なんだ? だって?」

「私はそいつがいたずらに滅ぼしてきた村の一つに住んでいたある少女の妹だ。私こそ聞きたいものだな。姉はお前にとって、取るに足らない存在だったのか、と」


 腹から血を流し続けるエトナは、乱れた髪の奥で冷たく笑っていた。


「見るに堪えないな。そのまま死ね、悪党」


 紫色のオーラが全身から刀身へ移動していく。俺と戦った時はこんな技は見せてきていなかったが、そうか……全部、俺にエトナを殺させるためか。

 超展開過ぎてもう、何も分からない。ただひとつわかることがあるとすれば、クソ、面倒てこと。


「来な、お嬢ちゃん。俺が相手をしてやる」

「貴様にとってそれは、敵じゃないのか?」

「裁くのは俺じゃねえ。俺がいない中、必死に頑張って生きて来たあいつらだ。あとな、覚えておけ、黒騎士。俺に敵はいねえ」


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