あと少しで届きそう
瞬間移動に次ぐ瞬間移動。その辺の石ころとも場所を変えられる以上、ドラーゼはもちろんユイアも対応が難しい。
「私は竜人族として、帝国の騎士になる。私が、騎士になれば、皆を救える!」
「はっ、あんたの妹さん、夢見過ぎて現実見てないんじゃない? 帝国は魔竜と魔王を絶対殺す騎士団作ってんのに、竜人族にそんな地位渡すわけないでしょ」
「兄妹の中に入ってこないで」
「ダンマス代理として、従業員が就業に集中できてないから家庭の事情に首突っ込んでんのよ」
「ティアル。ここ一番だ、俺は全力を出す。お前も全力で打ち込んで来い。お互い、話せなかった時間を清算しようぜ」
(本気。それがあなたの出した最適解なの? ドラーゼ)
盤面的にドラーゼが勝つ。既に竜人族として格上と戦い、勝ち、死に、負け、勝ってきた。
妹であるティアルがどれだけ強いかは知らないが、まずもって勝ち目はない。
かと言って、ドラーゼがティアルを殺す覚悟を決めたとも思えない。
何をするつもりなのかと見守った次の瞬間、先に動き出したのはドラーゼ。
最適解とフィジカル強化。その強さと素早さは圧倒的。互いに持つのは自分の体、素手のみの戦い。
勝敗は……いとも簡単に決した。
ドラーゼの胸に、ティアルの両腕が、突き刺さったのだ。
「なんで……兄さん……」
「俺にはこれ以外、償う方法が分かんなかった、だけだ」
「馬鹿が……」
ユイアがヒールをかけようとした瞬間、抜け出してきたゼロネが怒りに任せた剣を叩き落としてくる。
瞬間的に加速して紙一重で避け……切れない。右頬に傷を負った。
「しつこいなあ!」
「黙れ、賊が!」
「俺に構うな、ユイア! 俺はこっから、俺の落とし前を付ける!」
立ち上がると同時に、自身の胸の傷を掌で焼き切るドラーゼ。ヒールによる治癒とはわけが違う。
傷も別に治っていなければ、致命傷に致命傷を重ねた荒療治。
血だけ止めて、ユイアの横に来る褐色の竜人族、ドラーゼの顔は笑っていた。
「笑って、酔おうぜ」
「……そうね」
互いに笑う異常事態。何も物事が好転していない絶望的状況の中で、活路を見出せぬまま、ふたりは抗った。
絶対的敵を絶対に倒せない理由など、ないのだから。
ドラーゼと共に、最強の黒騎士、ゼロネとマッチアップ。
「死に体がふたりに増えようとも!」
斬撃の軌道がオーラで読みにくい。一振りが多振りで大きいのに、隙を突いたらいつの間にか反撃されている。
大袈裟なで大ぶりな一撃必殺の一撃は掠れただけでも致命傷。どういうスキルのかもいまだによく分からない。
「死んでからが強いのがウチらの専売特許!」
「ヘボマスターは嫌いだが、あいつは一々正しい。やるかやらないか、迷うことすら考慮に値しない!」
迷いのない真っ直ぐな攻撃。逆に押し込まれたのはゼロネだ。
さっきまではフェルデスを使って盤面を常に有利に押し上げてきたが、フェルデスは今アシュリーにかかり切り。
その上、前回も価値は舌が圧勝したわけではない。
間違いは、常に正解と共にそこにいる。
高速世界に入りこんでゼロネの首を狙うユイア。
すかさず高速世界に割りこんで適応するゼロネに、ユイアは砕けた剣を投げつける。
既に一対一の状況。ユイアは膝をついて、奥から跳んできたドラーゼの足場になる。
力が強すぎて顔面から地面に滑り込んだが、すぐに起き上がって血だらけの顔を拭った。
ドラーゼのスイッチにすぐさま対応するゼロネだが、竜化した腕と剣が競り合って、硬直状態に突入。
敏感にその隙を狙うのがユイア。連続スイッチで食らいつく攻撃の応酬。
怒涛にして的確な攻撃の嵐。繰り出せるのは、ふたりがずっと戦って来たからだ。
別に会話はない。目指すべき者も全く違う。そんな二人が曲がりなりにも共闘出来ているのは、たった一人の言葉だった。
絶望の時こそ、笑って自分を振るいたたせ、酔ってしまえと。
酔いが回り、奇跡的に二人の思考は最適解へと至る。
「つ――」
攻撃がゼロネにヒットする。
両サイドからの攻撃を受け、両腕に斬撃を浴び、血が飛び散った。
ふたりが、完璧に押し始めた。
「調子に乗るなよ」
オーラを弾き飛ばし、ドラーゼを襲う。オーラ単体での束縛攻撃に、ドラーゼは一瞬捕まってしまう。
足早――
地面を擦り上げて近くまで寄りながら斬撃。砂塵が舞い散り、咄嗟にユイアは動けない。
知ってか知らずか、神の遊びか、ユイアにとって舞い上がった砂塵は高速で飛んでくる微小の弾丸。加速することが出来ない。
仕方なくとったのは、ゼロ秒にも満たない一瞬の横移動。
僅かにゼロネの斬撃を逸らせ、肩にもらう。
が、ユイアも砕けた剣を拾い直し、ゼロネの腹に突き刺した――
肉を切らせて骨を断つ――
「つ、離れろ!」
ゼロネに蹴り飛ばされるが、ユイアは転げ落ちながら次にアシュリーの援護に回った。
攻め手に欠けていたアシュリーの視界に飛び込み、負荷を受けながらも、フェルデスの首に噛みついた。
「がああっ、なんと、けだものがっ!」
ダメージを受け流し続けていたフェルデスは新たなユイアの攻撃を受け流せない。
だが、ユイアも負荷を受け続け、追撃は出来なかった。
それを知って、スキルを解くのではなく走り込んでくるアシュリー。
千載一遇のチャンス、剣線が、フェルデスの胴体を斬りつけた。
「ぐあ……ああああ……!」
「ナイス、これで、あと、一人!」
「ふふふ、ええよ、きんさい。私はいつでも相手をしてあげる」
決して、メルフィは負けてはいなかった。だが、勝つことは愚か、エトナの足止めすら、叶っていなかった。
後ろに置き去りにされたメルフィが急いで背後を狙うが、既にエトナは手刀を構えていた。
(この混戦で……化け物……!)
恐怖が瞳の奥にチラつく中、視界を遮ったのは……ドラーゼだ。
「ぐ……行け、ユイア!」
手刀を胸に受け、ユイアを庇ったドラーゼは、逆にエトナの腕を取った。
ドラーゼの背中を足場に、傷を負った仲間を踏み越え、ユイアは砕けた剣を握って強襲。
「邪魔」
ドラーゼを掌底打一撃で弾いて飛ばし、ユイアの剣を逆に握り返した。
ユイアが血まみれで握っているのに対して、エトナは傷一つつかず、涼しい顔だ。
これで、届かない。
「惜しいなあ」
「いいや、まだだ」




