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ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
ダンジョンマスターいなくなりマスター

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モテモテの秘訣

 一瞬で消えた。

 ふたりがいた場所には、こけし人形のような物が落ちていた。ユイアは見たことないが、恐らくどこかの民芸品だろう。それこそ、竜人族の。

 物理的な速さではない。覚醒したユイアは既に、スキルの内容を看破していた。

 人形と場所を変えるスキル。兄妹揃って、戦闘には不向きなスキルだ。

 ユイアは軽く地面を脚で叩く。音が、広がっていく。高速世界でユイアはあらゆるものを知覚できる。音が地表を通り、形を明確に捉えてくれる。

 いた。味方として最高でも、兄としては及第点あるか怪しい男、ドラーゼだ。


「おーい、生きてるかー」

「喋んな」

「あんたの妹は殺さないでおいた。連れて帰るなら手伝うから、起きなよ」

「……黙れ、分かってる」


 地面に仰臥していたドラーゼが起き上がるのを待たずに、ユイアはさっきまでいた広場に戻った。


「本当に、速いね」

「まあ、取柄なんで。アシュリーさん、手伝ってもらえますか」


 同時に取ってきていたシャベルを渡すと、アシュリーは何も言わずに受け取った。

 本当に嫌な作業だったが、ユイアのゴールは決まっていた。

 だから、今は割り切って向き合うことが出来た。いや、違うな、とユイアは首を振った。

 これはあまりに大きな開き直り。先を見ていると言えば聞こえはいいが、振り返るとどうしたって落ち込んでしまう。

 思い出すことも、メンタルが崩れることも今は許されない。傷つくのは後で良い。

 広場に残ったのは、少しだけ盛り上がった広場と、木で作ったお粗末な十字架だ。


「今はこれで良い。また、会おうね、ニフィア」

「……目的は決まったってことで良いのかな。僕は……君に全手の力を渡すよ」

「ありがとうございます。目標は当初と変わらない。迷宮遊戯を完成させます。ただ、少しばかり、ウチの馬鹿ドラゴンを助けてあげないといけないんで面倒ですけど。ええと、何だかんだ奪われたから、こっちには二つ? アシュリーさんが一つ。あと名無しの人のが一つ、か」

「迷宮遊戯は誰で出るんだい?」

「ウチと……まあ、ドラーゼかな。メルフィはここを見てもらわないといけないし。まったく、計画とか全部ぶっ壊れた」

「君、ちょっと落ち着いた方がいい。今……」

「そうですね、ユイア様。今、とても怖い目をされておいでです」

「目? ぶっちゃけどうでもいいでしょんなこと。予選でボロボロだけど、向こうももう二人しかいないわけだし……ああでも、一瞬寝る」

「ああ、それが良い。休んでくれ」

「ご寝所をおつくりしますね。燃やされてしまって、どこが安全かもわかりませんので」

「それでしたら、こっちがいいですよ」


 やってきたのは。今の今まで一切姿を現さず、安全な場所に隠れていたであろうファルマ。

 さすがの登場に、ユイアもメルフィも思わずため息を吐いた。

 みんなから離れて、少しだけ腰を着けた。こういう時、落ち着いたらダメだということは重々承知していた。

 ひとりになって考える時間があっても駄目だ。何かしないと、余計な事を考える時間が合っちゃダメだと、分かっていた。

 迷宮遊戯。他のダンジョンマスターと共に帝国を倒すつもりが、いつの間にか結局ユイアたちとアシュリー、あと見知らぬ誰かだけになった。

 目下の目的は既に帝国、女帝エトナの打倒ではない。エトナがどこにアスヤを消したのかを知る必要があった。

 アスヤさえ戻れば、ニフィアを生き返らせることができる。

 元通りになる、全部が。

ユイアは岩場に寝転んだ。背骨と肩が嫌になるくらい痛い。

それでも、胸の奥でずっと痛い何かに比べれば、何でもなかった。むしろ、少しでも忘れさせてくれるならそれでもよかった。


「……アスヤ……ウチは、無理だ。どこ行ってんのよ、馬鹿」


 寝返りを打った。

 寂しくてたまらなかった。自分の味方なんてどこにもいないかのような、虚無感。

 ぽっかり空いた隙間を、冷たい何かが埋めていく。自分が自分じゃなくなるような気分。

 いや、とっくに、自分は捨てていた。なり切らなければ、到底人を保てなかった。

 自分が、ニフィアを――


「少し、いいかな、ユイアちゃん」

「なんすか、アシュリーさん。めっちゃ眠いんで仮眠取ろうとしてたんですけど」

「それは悪かったね」


 苦笑しながら、アシュリーは木の根元に腰を下ろした。背中越しで、アシュリーの息遣いが聞こえる。相当に疲弊しているようだった。

 親友を失って、親友の仇を討つために利用されて、今はその目標すら失った。

 ユイアはまだ、自分の方が恵まれているのかもしれないとさえ思った。

 叶えないといけない、成さねばならない目的があるのだから。


「僕は随分遠回りをしたのかもしれないね」

「別に、ゴールには辿り着いてないんじゃないんですか」

「いや。あいつが誰かにスカウトされるようなことがあったなんて、昔からしたら考えられないんだよ。それだけ、自分を出して戦えたんじゃないかな」

「……まあ、ウチのダンマスはそう言う人なんで」

「まるで君は、そうじゃないみたいじゃないか」

「違いますよ。ウチは、リーダーの背中を追って来ただけの一般人ですから」

「そうかな。あのメルフィちゃんも、ドラーゼとかいう彼も、君じゃないとついて来なかったんじゃない? ニフィアだって」

「……かもしれないですけどね。ウチが真似ただけなんで。ていうかなんですか? そんなどうでもいいこと」

「どうでもよくない。君が君を誉めなくて、誰が褒めるんだい?」

「褒める? ウチを?」

「そうだよ。君は本当によくやってる。彼が滅茶苦茶にした後を良く立て直してるよ」


 アスヤが作って、アスヤが滅茶苦茶にした。聞こえは悪いが大体そんな感じだった。

 確かに、前まではアスヤが褒めてくれていた。認めてくれていた。だけど今は、何をしようと、正解が分からなかった。


「ウチは、真似をしてダンジョンを立て直そうとして、迷宮遊戯なんて大それたことをして、調子に乗った。結局、お金は中小ダンマスから支援してもらったけど、今回の件でみんな主を失ったからお金は返すから、借金生活逆戻り。挙句の果てに、ウチはニフィアを、この手で……」

「殺してない。殺したのは、フェルデスだよ。それにやっぱり、ユイアちゃんは頑張ってる」


 泣いたらダメだ。泣いたら、一気に弱さを認めてしまう。


「ここには僕しかいない。僕は君の弱さを嗤わないよ」

「つ……く……」


 こみ上げてくる涙を抑えることが出来なかった。せめて、声だけは聞かせまいと、自分の服を噛んで、殺した。

 今だけ。もう二度と泣かないから、今だけは、心の中で泣き続けた。

 ひとしきり泣いた後、ユイアは起き上がった。泣き疲れて寝るどころではなくなった。


「……アシュリーさん、モテるでしょ」

「いや。なんで?」

「優しいから」

「誰にでもって訳じゃないからね」

「そう言うところが」

「本当に違うって。大体、そう言うのは男性の仕事でしょ? それでキュンと来る男性がいるなら別だけど」

「……はい?」

「なに」

「え、アシュリーさんって……あの、性別って……」

「女だよ」

「え?」

「え?」


 あまりの衝撃に言葉を失い、何もかもがどうでもよくなって大きな溜息を吐いた。


「え、なに? ユイアちゃん」

「いや……だったらだったで、女として負けた気がして」

「そんなことないよ。ユイアちゃんは綺麗だから。毛先、また焦げちゃったね。終わったらまた手直ししようか」

「これ以上やったらハゲますって」

「て言っても髪が痛むからね。ハゲないように整えとこうか」

「またボロボロになるから終わってからでいいですよ。それよりウチらは今のところ、フェルデスを倒しきれなかったわけで、明日はもっとハードになる」


 いくら、ユイアが戦いの中で成長する前とは言え、イレギュラーズを減らし過ぎた。

 まず間違いなく、ゼロネが参戦してくる。そうなれば、フェルデス、ドラーゼ妹、そしてゼロネを相手にしなくてはいけない。

 ドラーゼ妹はドラーゼに任せるとして、フェルデスとゼロネを、単純にユイア、アシュリー、そして名無しで分ける必要がある。


「誰が誰を対応するか、だね」

「まあ相性的に、フェルデスはアシュリーさんで良いのでは? 見ておけば封殺できそうですけど」

「確かに。では、君は?」

「もう一人がどう出るかによりますけど、ゼロネですかねえ。めっちゃ嫌なんですけどねぇ……だってあの人強いし。うっわどうしよう」


 考えれば考える程詰んでいた。

 ゼロネとタイマンで勝てる自信がない。何せ彼女は、三人を一斉に相手して勝っている。

 ドラーゼの最適解を越え、ユイアの準神速を越え、メルフィでさえ寄せ付けない強さを見せた。

 どう考えても正面から戦って勝てるわけがない。

 まだある。ドラーゼにしろアシュリーにしろ、誰もが決め手に欠ける。最悪盤面が一切動かない。


「ああもうやめよ。こういう時、考えても無駄な時の方が多いんですよ。明日考えます」

「らしくなってきたじゃないか。最初に会った時みたいに自信がある」

「マジで目が悪くなったんじゃないですか?」

「言ってくれるね」


 言われた通りと言えばおかしな話だが、確かにユイアは自信を持っていた。

 戦う瞬間だけは、何とも言えない自信があった。自信と言うか、全てを理解できた。

 ただ今は、不安だけで一杯だった。戦いの中で脳が興奮して勝手に起こした現象だとしたら、随分と迷惑な話だった。

 とは言え、黙っていても明日は来てしまうから、寝るしかなかった。

 短い夜が、足早に終わった。


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