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ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
ダンジョンマスターいなくなりマスター

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53/68

アンチスキル過ぎる

 ユイアが感じていたのは胸を突くような、予見に近い想像。

 持ち前の素早さで王国もとい帝国を数周してようやく見つけることが出来た。


「すう……ショナ!」


 突然の叫びにびくっと肩を震わせたピンク髪の少女、ショナは振り返って目を見開いた。

 いるはずのない人間が目の前に。それも、絶妙にタイミングが良かった。

 ショナがダンジョンマスターを務めるダンジョンはライブ会場併設。階層タワー型ダンジョン。階層は三階層。ユイアのダンジョンとさほど大差はない。

 違いがあるとすれば、ショナの周りにはたくさんの人がいた。


「ちょっと、いきなりなに?」


 驚いた表情でユイアを見返す彼女の前で、黒翼の翼を持った人影が槍を振るった。

 ショナは落ち着いて槍を捌きつつ、ユイアの横までやってきた。


「いや、イレギュラーズの襲撃があるから伝えようと」

「もう、来てる」

「知ってる。だけどさ」


 疾風怒濤を優に超えた迅雷が如き素早さでイレギュラーズの一人の背中を取った。

 対人戦最強にして完璧な初見殺し。まずもって回避できる人間はいない。

 名も知らぬイレギュラーズが一瞬で屠られた。これで、知っているイレギュラーズの内ふたりが死に、残りはフェルデス含めた四人。ユイアはアルヴェンの持っていた枠をひとつ手に入れた状態。

 知らないダンマス三人と、ショナ、ユイア、アシュリーこれで六枠。

 この間隙をついてショナを屠って枠を奪うことも出来るだろうかとユイアが考えていたところ、背後にはいつの間にかショナが立っていた。


「あなた、なんでいつも助けてくれるの?」

「え? なに、いつもって」

「……この間、私らの代わりに、頭下げてくれたでしょ。それで、今も。私のダンジョン、前のダンマスが死んじゃって、守護者もさっきの翼野郎に何人かやらえて限界だった」


 傷ついた髪をクシャっと掻きあげて、無表情のまま、ショナはユイアを見る。

 初めて会った時から感情がよく見えない人だというのが印象だったが、ここまでくると筋金入りだと、ユイアは笑った。


「助けるのに理由いる? ていうかこいつら、ウチの迷宮遊戯台無しにしてくれちゃってさ。ムカつくんだよねえ」

「……そ。これ、あげる」


 ショナが手渡してきたのは、ひよこのオブジェクト。今回の迷宮遊戯への参加資格だ。


「え、なにこれ」

「あなたの。私は、ダンジョンを立て直さないといけないから。また気が向いたら、予選に参加するけど、あの子らをケアしなきゃ」


 視線の先にいたのは、ボロボロの少女たちだった。

 恐らく、ショナのダンジョンの守護者。見えている限り生きてはいるが、かなり疲弊している。ユイアが一撃で沈めた相手も実際はそこそこの腕があったのだろう。


「ありがと。助かるよ」

「お礼はこっちのセリフ。今度、ライブにでも来て。それより……これ、全部考えたの、あなた?」

「え、うん。そだよ。思い付きだけどね。にしてもぐっちゃぐちゃにされちゃってさぁ」

「……だったら、気を付けなね」

「何を?」

「連中、私らのダンジョンの攻略方法も、苦手な相手も選んで送り込んできてる。この国を乗っ取って一か月そこらにしちゃ、色々知りすぎてる」


 ショナは何か言いたそうな目をそっと逸らした。

 ユイアとしても何が言いたいのか大体は理解できた。理解できたが、それならそれでおかしなことがある。


「ウチらだって、会ったばかりも甚だしいでしょ。誰が何の理由で、ウチらを貶める必要があるのさ」


 ダンジョンの攻略方法も、それぞれのダンジョンが不得意とする相手も、ダンジョンマスターなら十分把握できる。

 ただ、出会って間もないダンジョンマスターたちが情報を帝国側に売って潰し合いになることで利益を得る人がいるとは思えない。

 それどころか、今回の迷宮遊戯で勝利すれば、鬱屈した現状を爆破するか役になり得た。

 邪魔をするメリットが一切ない。

 あるとすれば、ダンジョンマスターの誰かが誰かに対する個人的恨みを持っている事だ。


「今回死んだ、アルヴェンを恨んでるダンマスっている?」

「あのおっさん、死んだんだ。汚いことはしてきてるけど、別に恨まれるほどの悪党じゃないよ。よく知らないけど。私たちを繋ぎ合わせたのは、アシュリーだから」

「そっか……トーア君も?」

「彼に関しては本当に知らない。聞くなら、アシュリーに詳しく聞いたらいいかもね」

「……そうだね。そうする。じゃあ、アシュリーさんのダンジョンに走るね」

「ばいばい」


 ショナに別れを告げてアシュリーの元へ向かおうとしたが、いつまでもダンジョンを空けるわけにもいかない。

 一度ドラーゼと合流して事情を話すため、ダンジョンへ戻ることにした。

 嫌な予感とまではいかなかったが、ユイアは勘がよく利いた。

 まさかただの勘で、一歩だけ間に合うとは想像も出来ていなかったというのが本音だ。

 戻ればどんな馬鹿でもすぐに気づく変化が、ユイアのダンジョンに起きていた。

 燃えている。青い炎が、まるで生きているかのような炎の波が、ダンジョンを燃やし尽くしていた。


「何……これは!」

「ユイア様!」


 叫び、炎を見上げるユイアを呼んだのはメルフィ。傍には二振りの斧と……目を閉じているニフィアの姿があった。


「メルフィちゃん、ニフィア!」


 駆け寄ってすぐにメルフィが無傷であることが分かった。負けないという正体不明の異常なスキルを持つメルフィを心配する方が失礼だった。


「落ち着いてください。彼女は気絶しているだけです。お店にもお客様はいません。私たちだけです」


 ユイアが知りたい情報を全て教えてくれるメルフィに感謝しつつ、ニフィアを抱きかかえる。恐らく、炎を見て気絶してしまったのだろう。

 当たり前だ。アロマキャンドルであの怯えようだ。

どう考えても、この青い炎は……ニフィアの村を燃やしたイレギュラーズのものだ。


「いつ、襲撃されたの?」

「つい先刻です。本当にユイア様が戻るか戻らないか程の」


 なんてタイミングだと顔を右手で覆った。調子に乗って留守にし過ぎた。

 イレギュラーズが襲撃していたのは迷宮遊戯の資格を持つ者だけ。持たざるものであるユイアが狙われることはまずないと思っていた。

 そこまで考えてハッとする。

 違う。ユイアは今、オブジェクトを二つ持っている。ゲーム性を追求するために場所を分かるようにさせたが悪用された。


「このまま、ニフィアのことを見てくれる?」

「もちろんですが……まさかおひとりで彼らと戦うおつもりですか?」

「彼ら?」

「おーやっ、これはこれは、ユイアさんではありませんかっ、この間振りですっ」

「速く、帰りましょう」


 会いたくもない男との再会ほどうれしくないこともない。

 まるで道化師。相変わらずふざけた様子のフェルデス。

 そして、青い髪に黒いボロボロのローブを羽織った少年。見たことはないが、まず間違いなくイレギュラーズ。

 下らないことを考えている暇があったら、先制攻撃に全てを賭けべきだ。少なくとも、アストならそうする。

 剣を握って最速の初見殺し――


「なるほど。まさに迅雷だ」


 ぐるっと、背中を見せていたはずの少年が首を回して、ユイアの剣を、素早く打った。

 懐から取り出したぐにゃりと曲がる紫の剣。禍々しい光を放つ刃に炎が収束していく。

 紫に青が重なり、高速で動いているはずのユイアの世界をそのまま叩き割った。

 まるでガラスが割れるように高速世界から叩き出された。

 意味が分からないことが起きる中、目を白黒させるユイアに少年は追撃の斬撃を放つ。

 咄嗟に、ギリギリ回避できた。今までの戦闘経験がなければ、今の一撃でユイアは死んでいただろう。

 顎に滴る嫌な汗を手の甲で拭って、今一度剣を構える――


「余所見ですかっ」


 横から割って入ったデルフィスが長い脚を活かした膝をユイアの腹に打ち込んだ。

 強烈な一撃に、胃の中がグチャグチャになって思わず吐き出した。

 吐き出された胃液を踏み抜いて、横薙ぎに一閃。

 へらへらと笑う笑顔の残像だけ残して、フェルデスは一気に距離を取った。

 追いかけようとした背中を、今度は素早く近づいていた少年の剣が襲う。

 辛うじて振り返り、剣を思い切り叩きつけて弾いたが、その背をさらにフェルデスが狙う。

 交互、そして執拗に命を狩り取る連携。

 単純に捉えきれず、強い。

 溜まらず加速に意識を向けるが、どうしてもチラつくのが、加速世界の破壊だ。

 アレをされては、最早ユイアに勝ち目はなかった。


「燃えてください。これなら、一撃で」

「ふざけんな!」

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