一方的
ユイアが消えてから、ドラーゼは再び冷静な世界に身を投じていった。
「よそ見をする余裕が?」
「ねえよ。だからお前のことしか見てねえだろうが、嫉妬すんなよ早漏野郎」
「下郎が。死ね」
まだ、攻撃の速度が上がる。
ユイアと違って、加速に体が振り回されていない。
亜人族の中でも強靭なフィジカルを誇る鬼人族だからこその無茶。
スキルを最大限に活かせる状況はある意味羨ましかった。ドラーゼのスキルはドラーゼでなくとも使える汎用性が高い物だが戦闘には向かない。
結局、攻撃の手段は己の肉体でしかないのだから。
音を置き去りにするほどの斬撃。受ければ絶命必至の攻撃と比べたらあまりにか細い。
「おいおい、慣れてきたぜ、お前の動き。本気出さないと死んじまうぜ?」
「戯言を。追いついていないからこそ、傷が増えているのだろう?」
「傷? 何お前、傷もぐれだから弱ってるって? 傷があるから弱いって? 面白いこと言うじゃないの。ええ? 雑魚が」
「雑魚はお前だ」
さらに加速。もう、視えない。勘と最適解便りの最悪な回避。
スキルがなければとうの昔に死んでいる。圧倒的に完敗だった。
だからこそ、命を天秤にかけて、勝つしかない。
ずっと、いら立ちが募っていた。竜人族最強だと自負していたら、竜人族の女に殺され、アスヤに助けられた。
それ以降、ドラーゼは一人で勝っていない。女神にも、ゼロネにも、そしてユイアにも、負けに負け続けていた。
どんな、悪い冗談なのかと笑いが止まらなかった。
これ程力を持っていながら、一切の活躍がない。負けてばかりの今に大きな苛立ちを持っているのは、何を隠そうドラーゼ本人だ。
最適解はユイアとの共闘を促していた。ただ、ドラーゼが強く拒否した。頭の中で鳴り響く、まるでうるさい声をすべて無視して。
「もう終わらせよう、竜人族。竜を狩るには、鬼」
「そうさ、俺は、竜人族だ」
炎の翼が出現する。
ドラーゼの本気。肉体を竜化させることで身体能力がさらに向上する。
ただの脅しと捉えて男は剣を引き抜き一機に突貫。
攻撃パターンを全て、脳に叩きこんだ。最早見えていなくとも、攻撃が見える。
耐え忍んできたのは、最適解へ情報を叩きこむための必要な儀式。
終わるまで会話を長引かせてあらゆるパターン、攻撃の限界を引き出した。
ならばもう……竜を止める力は、ない。
「しまいだ」
ドラーゼの竜化した腕が、男の腹を貫いた。
一瞬の隙を狙った完全なカウンター。
剣の腕もスキルの使い方も、間違いなく、男はユイアより上だった。
唯一、男にユイアが勝ったものがあるとすれば、覚悟の違い。ユイアはかつて、スキルに振り回されて衝突死しかねないリスクを持っていた。
恐怖に打ち勝ち、怪我を恐れず、視えていないことに甘えない。
男がたった一つ間違えたのは、こころのどこかで、視えていないという余裕があった。
「まさか……こんな、ところで……」
「名前くらい聞いといてやるよ」
「ザンク……」
「そうかい。じゃあな」
腕を引き抜くと同時に臓物が外へ出て行った。どちゃどちゃと音を立てて地面に沈んだザンク。確かに強敵だったが、己の弱さを最後の最後まで知れなかったのは運の尽きだ。
散々負けていなければ、ドラーゼもザンクと同じ未来を辿っていたかもしれない。
二度と負けないと誓った。事実全く負けなかったドラーゼが負け続けたのは紙のいたずらとしか思えない。
ストレスとフラストレーションは今この場で、立ち消えた。
「さあて、あの小娘、どこ行きやがった?」




