戦闘に使えないスキルを進化させる時が一番いい
爆発的な衝撃が辺りの木々を揺らし、人を越えた加速がドラーゼを襲撃する。
ドラーゼのスキル、最適解は観察すればするほど、精度を増す。たった数度の斬り合いでしかないが、ドラーゼの最適解が速さに慣れるには十分だった。
剣を指先で軽く摘まみ、最悪な姿勢から跳んで腹に蹴りを打ち込んだ。
男はもろに食らった……違う、寸前で剣をさしこんで足を受けきっていた。
それでも衝撃波凄まじく、地面に打たれ……ない。
手で強く地面を押して回転すると同時に、急加速。
尋常ではない加速で立て直して勢いそのままに突っ込んできた。
「無茶な戦い方をしやがる」
「貴様のような奴はを乗せるわけにはいかない」
「分かってんじゃねえか」
剣と腕、剣と足、頭と剣、肉体と武器のせめぎ合い。
人間が就いていけない速度も、人間ではなく亜人のフィジカルが可能にさせる。
奇跡的に、速度と加速に対応できる肉体と、寸分の狂いもなく動く脳がマッチした結果。
ドラーゼは、速度を無視して戦えていた。
ユイアは速度と言う武器を無くした、純粋な技術と剣術だけでは男に勝てなかった。
同じ土俵で戦えば、勝てなかった。
ドラーゼは既に最適解で答えを導き出していた。
男の使うスキルは、音。音速になることで発生する衝撃波。この暗がりの中的確に切り結んでくる性格無比な音波。そして極めつけが、音の壁。
防御に転用可能な音の壁でユイアの攻撃を弾き、出来た隙に正確な一撃を叩きこむ。
このセットでユイアは封殺されてしまった。
「俺には、効かねえんだよ!」
蹴りが入り続ける。
音の壁を簡単に撃ち抜き、直接ダメージを与える強烈な一撃。
「では、もっと早く動くとしよう」
加速――終了後に再加速。
ほぼ直角の移動。目も頭も体もまるでついて行かない強烈な三次元機動。
背中、足、脇、死角から放たれる攻撃の数々。そのどれもが、重い。
「遅い。遅い。この程度では、何も出来ない」
「ドラーゼ!」
「黙ってみてろと言ったろ、小娘」
ドラーゼは無数の攻撃を受け続けていた。稲妻のような捉えどころのない軌道。
嫌らしく死角を突き、一撃で倒せないことを悟ったところで削りに来ている。
無論、一撃一撃が必殺級の威力であることに変わりはなく、気を抜けば一瞬で死ぬ。
目に見えて、ドラーゼが削れていく。ユイアとしては気が気ではなかった。
最適解は本来、戦闘に向いていない。思考の加速と言えば言葉は良いが、そこまで便利ではないというのがユイアの見立てだった。
最適解最大の弱点は、最適解が間違えるという可能性。最適解を選ばず自分で最善の答えを出せるという、汎用性の高さだ。
誰がどう見ても、今回の選択は間違いだ。
ユイアが戦い、隙を作ったところでドラーゼが止めを刺す。最適解はこれだ。
だが、ドラーゼは一人で戦いを挑んだ。
森の木々が悉く倒れ、アルヴェンのダンジョン、その入り口が崩れていく。
苛烈な戦闘。切り結ばれる暴力と剣術のぶつかり合いの衝撃に飛ばされそうだった。
考えられることがあるとすれば……1人で戦って勝つことで、証明しようとしている。
自分はまだ、魔王になる器なのだと。
過去を聞いてしまった今、ユイアは動かない。自分に出来ることは、ここにない。
「ドラーゼ、任せてもいい?」
「当たり前だ、どこへでも行け」
ユイアは決断した。あまりにドライで、あまりに現実的な、まさに最適解を。




