明日を生きる今のダンマス
ドラーゼから語られた過去に、ユイアは思わず言葉を失った。
アレだけ戦闘狂で、怒りっぽくて、自分のことしか考えてないというか、戦いのことしか頭にないと思っていたドラーゼ。
しかし実のところ、仲間のため、妹のために、動ける人間だった。
知らなかった。何も知らなかった。ユイアはドラーゼの優しさも、メルフィのこだわりも、アスヤのことも何も知らなかった。
逆にアスヤは、自分たちのことをよく知った上で、登用していた。いや、ぶっちゃけあまり知らないにもかかわらず、使いこなしていた。
過去なんて関係ない。今をどう生きたいかを、汲み取って。
(そんなん……敵わないなあ)
改めて思う。自分では、自分一人では、ダンジョンマスターなんてやっていけない。
認めなくちゃいけない。自分一人で、やれることがあまりにたかが知れているということを。
「ドラーゼ」
「なんだぁ、小娘」
「しばらく、ニフィアのお世話してもらえる? 大丈夫、素直だし、ドラーゼに懐いてるから」
「はっ。そんなもん、妹がちっこい頃からやってんだ。余裕だよっ。なあ、ちっこいの。それで、お前は何をすんだ?」
「一層のボス」
「あ? 戦いなら別に、ちっこいの見てても出来んぞ?」
「戦いたい気分なの。ウチは、自分のやることやってから、好き勝手やるから」
「……へえ、らしくなったな、ヘボマス代理」
「あんたも用意しときなさいクソドラゴン。楽しい楽しい、争奪戦は、すぐにやる」
ユイアの鋭い眼光。エゴむき出しの瞳に、ドラーゼも呼応する。
唯一、何も知らないニフィアだけが、無邪気に笑っていた。
もうじき戦いが始まる。しかも今のところ、ユイアたちは後手後手だ。今日の分の仕事を終えたら、ユイアも動く。
ただ今は、久しぶりの戦闘と、かわいい妹分のような存在が出来て久しぶりにワクワクしている。
今のユイアなら誰にも負けないだろう。実際、ドラーゼの代わりにユイアが交代し、チャンスとばかりにやってきた冒険者を一瞬で片づけていた。
その様子をドラーゼは笑顔でニフィアと共に鑑賞していた。
「お姉ちゃん……綺麗」
人目に見える程度に手加減した神速を、ニフィアは楽しそうに見ていた。
手加減しつつも切り伏せる姿に怯えはない。むしろ、舞っているようにすら思えた。
「綺麗、か。そうだな、あいつ、戦い方に無駄が無くなりやがった。ここ一か月位か? 随分と様になりやがったなぁ」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんのこと、よく知ってる?」
「知らねえよ。知らねえが、あいつがやりたいことはぁ、誰でもわかる。アスヤっていう、ヘボマスがいるんだが、お嬢ちゃんはそいつになりたいんだ」
「なる? アスヤ、お姉ちゃんの、家族?」
「みたいなもんじゃねえの? まあ、なれねえよな、普通は」
ドラーゼはわしわしとニフィアの頭を撫でる。
「だからあいつなりに頑張ってんのさ。人の力を借りて、ようやく見つけやがった。自分なりの答えに」
「答え?」
「なりたい夢ってのがあんのよ。ちっこいの、お前、俺と同じように家族を失ったんだって? 夢とかあんのか?」
「……わかんない……でも、アシュリーおねえちゃん、言ってた。ニフィアが、家族と思える人が出来たら、その時に、って」
「最初に出会ったにしちゃ、運に恵まれてんな。んじゃあ、お前の家族はユイアだ。よく見てな、あの馬鹿を」
「おにいちゃんは?」
「はっ、俺か? 俺は止めときな。守れなかったんだよ、大切なもんを」
「じゃあ、ニフィアが、お兄ちゃん、守る! お姉ちゃんも!」
「はっはっ、いいじゃねえか。期待しとくぜ、ちっこいの」




