魔法使い。本物の。
こうして、残りの枠の商会が終わったが、衝撃的な事実が一つだけ合った。
ユイアだのダンジョンは、何故か枠をたった一つも得ることが出来ていなかった。
実は12枠のが確定した後、ユイア、ドラーゼ、メルフィ、ファルマの四人分の票を加えていた。シンプルなズルをしているというのに勝てなかった。
心の痛みを感じつつ、大盛況のままユイアは水魔法と炎魔法をぶつからせた煙幕の中に姿を消そうと一礼する。
途端……会場が、静まり返った。
消えようとしていたユイアが顔を上げると……そこには黒マントの帝国魔法使いたちの姿があった。
全員が杖を構え、布で口元を覆い、前回は見なかったグラスのようなものを着けている。
つまるところ、今回は見世物でもなければこの騒ぎに参加しに来たわけじゃない。戦いに来ている。
「あなたたちのところのイレギュラーズさんには許可を得ているはずだけど」
「そのことではない。先日ここで行った処刑に貴様が関与したという噂がある。同行してもらおうか、ダンジョンマスターアスヤの腹心、ユイア」
腹心などと言われて、どうしてか嬉しくなってしまった。
状況としては全く好ましくない上に嬉しくもない。考えもなく一人の子を救うからこんなことになってしまう。
「証拠はあるわけ? 誰かが見たとか――」
魔法攻撃――
練りに練られた雷撃が杖の先から放たれてユイアを襲う。避けることは、簡単だった。
魔法攻撃の中でも速度だけなら断トツの性能を誇る雷魔法。かつて冒険者だったころ、雷魔法を使うモンスターにユイア以外が全滅させられた。
自分だけ生き残る臆病者のユイアを、他の冒険者は疎み、忌み嫌い、通常のパーティーから放逐した。
ユイアが孤立する原因を作った魔法。避け方はもちろん熟知していたが、ユイアは受けた。
雷撃が、右髪をちりちりと焼いて、肩に普通じゃない傷を負わせた。
傷口が雷撃で焼かれて、出血はなかった。しかし、傍から見ても大けがなのは間違いない。
何故、避けないのだと、目で語りながら駆け寄ろうとしたアシュリーを、ユイアも同じく眼光だけで制した。
来るな、ここは自分の戦場だと、知らせるように。
「で? 疑わしきは罰せよって? ウチが、その処刑人だか死罪人だかを逃がしたって証拠、あんの?」
まるで、手負の獣。小さな赤髪の少女から放たれている物とは思えない殺気を前に、歴戦の魔法使いたちはたじろいだ。
わざと、当たったのだ。恐らく魔法使いたちも証拠を掴んでいなければこんなことはしない。
ユイアが神速のスキルを持つなどと言うことは調べればすぐにわかる。なんなら、この会場に集まっている人間の中には実際相対したことだってあるはずだ。
強いダンジョンの条件はただひとつ。誰も返さず、情報を渡さず。
攻略者たちはどんな手でも、どんな小さな情報でも使って勝ちに来る。一切の情報を漏らさず殺す事。これは、実際にアカデミーで推奨されるダンジョンマスターの心得だ。
だからユイアは当たった。自分に少女を攫う力などないと言い張るために。
「彼女の治療をしたいんだけど、いいかな? それとも、また、証拠なく見せしめに殺すかい?」
アシュリーの言葉に、会場に集まった多くが声を上げる。
不満。怒り。恨み。
支配による統治を完成させてきた女帝エトナ。しかし、彼女の完璧な統治を、末端に至るまでが全て体現できるとは限らない。
魔法使い程度なら、この人数程度なら、恐怖よりも、怒りが勝るのだ。
群衆からの厳しい視線と、罵声が魔法使いたちに飛ぶ。
歴戦の魔法使いたちが出した結論は――
「全員殺せ。言い訳は後ですればいい」
最悪の結論だった。
既に臨戦態勢を整えた魔法使いが雷撃、火炎、水撃の魔法を一瞬で構築、放つ。
僅かな時間で多くの人間の命が飛ぶ……前に、全て片付いていた。
放たれた魔法が、全て魔法使いたちに直撃したのだ。
衝撃と爆散を浴びて、魔法使いたちは阿鼻叫喚の地獄絵図に足を踏みこみ、逃れられない。
戦場を経験した魔法使いだからこそ、奇跡的に何をされたのか理解できていた。魔法が、あろうことか魔法が弾かれた。神に近い速度で全員の魔法を完全に反射して見せた。
有り得ない話だった。そんなことができるのは、伝承に伝わる、魔王の所業。
攻撃の反射。スキルなのか技術なのかもわからない、技。
ただ、不幸中の幸い、弾かれた魔法を体で受けつつエネルギーに変換する方法を咄嗟に使った数人は、無傷のまま攻撃を続けたのだ。
「クソ、やはり貴様だけは殺さねば」
最後のあがきとばかりに、近くにいた群衆を殺戮しながら、ユイアに向かう魔法使いは、地面に崩れた。
「え……」
何が起きたのか知覚するより前に、魔法使いは自分の足が拉げている事実を見た。
「やりすぎだよ、君たち」
瞳を青く輝かせたアシュリーが魔法使いに近づき、首を斬る。
残った魔法使いは高速の中動くユイアの攻撃を回避する術を持っていない。
それもそのはず。ユイアとまともに戦える人間はもうほとんどいない。
可能性があるとすれば、自分のスキルを扱えず、自爆の恐怖に怯えていた、アスヤに出会う前のあの頃だけだ。
「ごめん。生かす理由をみつけられなかった」
「貴様、帝国に――」
「おっそ。辞世の句を詠むなら早くしな」
言い終わる前に首を撥ね、納刀と同時に死体がべちゃりと地面に沈んだ。
一瞬で、たったふたりのダンジョンマスターが猛威を振るう帝国の魔法使いたちを抑えた。あまりにも相性が悪すぎたのだ。
群衆の歓声が、最高潮に達する。王国の終焉、国王崩御の折に現れた救国のダンジョンマスター。赤髪の少女、神速のスキルを持つユイアをに人々は熾天使を見た。
膝を折って祈る者さえ現れる中、大けがを負ったユイアは笑顔で霧の中に消えていった。
「く……つ……はああ……」




