帝国の炎のまんとす
12件。思ったよりも多かった。倍率は約二倍ほど。予選のルール上、奪い合いは必至。
なら、とりあえず今はつかの間の休息を味わっておこう。お茶をするか、アシュリーさんに話を聞いてもらうか、ショッピングしたって良い。
しばらく休むとしよう。
ユイアは町に走った。スキルを完全に使いこなしたユイアの速度感だと、ウィンドウショッピングはまさに瞬きの間に終わってしまう。
少ない時間でリフレッシュが済む当たり、自分はもしかしたら恵まれているのかもしれないとさえ思った。
思えるようになったのはまず間違いなく、アスヤに出会ってからではある訳だが。
ただ、ひとりで回っていると、ふと思ってしまう。メルフィと一緒に美味しい物を食べたらどうか。ドラーゼはそもそもこういうものに興味があるのか。
アスヤと一緒に出掛けたら、アスヤはどんな顔をするのか。
前だけを向いて来た。ただ、休んでいる今だけは、少し先のことを余分に考えてみる。
自分の幸せって、何なのか、と。
「注目せよ!」
不意に平和な街へ轟いた大きな声。誰しも足を止め、作業を止め、おもむろに注目してしまう。
広場に集められた五人の男女。薄汚れた服に、絶望に満ちた瞳。今にも勝手に死んでしまいそうなほど、表情には影が落ちていた。
傍には漆黒のマントに身を包んだ……帝国の魔法使い。かつて魔王と魔竜を討つことだけを考えてき、今では戦場で大きな戦果を上げた戦士たち。
その実力は、多くの才能を抱える王国ですら勝負を決めきれなかったほどだ。彼らは生まれ持ったスキルではなく、単純に訓練により獲得した魔法だけで戦果を上げているのだ。
「この者どもは、愚かにもエトナ女王陛下に反旗を翻し、王国人であろうとした! だが、女王陛下直轄である、イレギュラーズの活躍によって見事に全員捕らえられた。今後も、我々は状王陛下への謀反の一切を許すつもりはない。もし犯そうものなら、こうなることを知れ!」
大声で叫ぶ男が腕を上げた。何をするのか、ユイアは咄嗟に理解した。
もしかしたら、何の勝算もなくぶつかった人々を見殺しにしていたかもしれない。少なくともアスヤならそうする。
だが、ユイアが見つけたのは……小さな女の子だった。
小さな女の子が自分の考えで女帝エトナを裏切り謀反に走るとは思えない。大人に騙されたか巻き込まれたか、としか考えられない。
ユイアの速度は普通を越えている。
男の手が空から地へ落ち、同時に杖を構えた魔法使いから魔法が放たれる瞬間――
小さな女の子をひったくった。まるで稲妻。疾風をとうに越えた速度は尋常じゃない。
ここで殺しをするわけにはいかない。だから心の中で謝った。
ごめん、救えなくて、と。
だが、彼女だけは救う。救ったまま、走り去る。
「ふう……ごめん、大丈夫だった?」
女の子を向くと、気絶していた。本気ではない。ギリギリ人が見えない速度でも、普通の人には十分すぎる衝撃だ。恐らく、骨の数本も折れてる。
ただ、生きているだけで十分偉い。
「どうしよう……ここからダンジョンまで結構あるけど走ったら今度こそ死んじゃう……」
ダンジョンまではまだ距離がある。すぐに治療が必要だが、急いで帰れば恐らく体がもう耐えられない。
途方に暮れていたユイアは選択に迫られていた。せっかく助けても、こんな状態では……どうしようもない。助けた先のことを考える力が圧倒的に不足していた。
ピンク髪の少女は項垂れた様子で表情も辛そうだが、助けることが出来なかった。
「ユイアちゃん?」
困り果てたユイアの前に現れたのは――アシュリーだ。
「え、アシュリーさん、ここ……あ、ダンジョン!」
「騒がしいね。その子は?」
「あ、この子、は、怪我してるんです!」
「こっちへ。すぐに治療しよう」
アシュリーに少女を預け、彼女の理容室へ向かった。
アシュリーのダンジョンはそこまで難易度が高いわけじゃないせいで、死人よりも怪我人の方が多く来る。
すぐに病床に寝かせて、治療を始めた。ヒール系の魔法をもちろん単純な薬草や包帯を慣れた手つきで巻いていた。
「ふう。よし、これで良し……にしても、酷い怪我だね。骨がボキボキに折れてた。何があったんだい?」
「あはは……まあ、ウチの加速が凄すぎてって感じですかね」
「と言うと?」
「いや、大通りで今、処刑されそうになってたのを寸前で助けたんですよ。速すぎて誰も見えてなかったはずですけど、そのせいで体にダメージが凄くて」
「……処刑?」
「女帝エトナに逆らった罪でってことで。そんな悪い人には見えなかったんですけど……帝国だとそうはいかないのかもしれないですね」
アシュリーは少女の手を優しく握りながら暗い表情を見せた。
「討たないといけないかもしれないね。だけど、君のお陰でイレギュラーズが掃討できれば、女帝エトナを討つ算段も組めるというものだ。ところで、この子はどこから?」
「さあ。さすがに全員助けることが出来なくて、一人だけ助けたので」
「そうか……まあ、元気になるまではあずかろう。何、僕も腕にはそこそこ自信があるからね」
「すみません……何かお礼でも」
「元冒険者どうしだ。硬いこと言わないでよ……気が付いたようだ」
病床に眠る女の子が目をパチッと明けた。すぐにユイアが近づくが、どこか不思議そうな表情のまま固まってしまった。
「気が付いた? ごめんね、ウチが下手に助けたせいで、体、痛いよね」
「お姉ちゃん……ううん。大丈夫だよ」
ピンク髪の中から、獣の耳がぴょこッと生えて来た。亜人。恐らくケットシー辺り。
メルフィもそうだが、亜人の体と言うのは不思議で魅力的だ。色々な違いがあってみんないい。ただ、魔竜や魔王が敗れてから、一方的に迫害された亜人族も存在する。
魔族や、竜人族だ。ドラーゼのように数を減らし、生きている個体数が少なすぎる。
魔族に関してはもう、ユイアは見たことがなかった。帝国の魔族狩りもそうだが、王国でさえ魔族は受け入れなかったのだから。
「良かった。あなた、お名前は?」
「ニフィア」




