ラブラブオムライス
「ええと、こっちは今回のダンジョンの収益で、こっちが支出……まあ、修理費かさんだし、でっかいなあ。中小ダンジョンマスターたちにお金借りてなかったら、ヤバかったなあ」
「ユイアさん。お茶です」
使い魔妖精、ファルマが小さな両手でお茶を出してきた。整理の欠片もない書類がばら撒かれた机。金の計算をすればするほど肩に余計な力が入ってはきそうだった。
「ありがと。ファルマ、こういうの出来ないの」
「出来ますが、全てマスターがやっておいででした。ユイアさんもお疲れでしょうから、ある程度頭に入ったら私が変わります」
「ありがと。これ、全部やりながら、あの人温泉掘ってたの?」
「はい。頑張りは見せるもんじゃねえ、勝手に見えるもんで憧れさせるって言ってました」
「馬鹿みたいだけど、らしいね……てか、アスヤってホント、自分のこと話さないよね」
「はい。私も全てを知る訳ではありませんが、恐らく心以外で弱音は漏らさない人です。自分が弱音をはけば、きっと頼られなくなるっていう人でしたので」
「……ウチら、そんな信用ないんかな」
ファルマは小さな首を横に振り、ふわふわと浮いた。
「ユイアさんも、ドラーゼさんも、メルフィさんも、信頼しておいででした。でなければ、全てを任せておひとり下にはいきません。マスターが私と会う前に会った人は、魔王様です」
「魔王……え、魔王?」
「はい。かつて、魔竜と共に世界を手に入れようとした魔王様。最後に向かわれたのは魔王のところ。借りを返すと、仰っていました」
「初耳なんだけど」
「言わないでしょう。知れば、あなたたちはついて行ってしまう。しかし、魔王の力は絶大です。マスターに黄泉還りを与えたのは魔王様です。地獄で何人もの英傑の魂と契約し、スキルプリセットを構築。そして魔王様に何かを頼まれ、地上へ上がった。マスターは、その事をついにどなたにも話されませんでした」
「なんで」
「ご自身が笑うためです。借りを返して、心の底からの笑顔をあなたたちに見せたかったんでしょう。それほど、大切に思っておられたのです。少々、妬いてしまいますね」
「……ばっかじゃないの。んなこと、思わなくても、ウチらは……あいつがいなきゃ……」
正体不明の怒りが込み上げてきた。アスヤが戦っていたのは王国でもなければ帝国でも、ましてやゼラールのような小者金貸しでもない。この世界を覇する力を持った、魔王。
言ってくれても確かに勝てる公算は全くなかった。吐きそうだった。
胸がどんどん熱くなって痛くなって、焼けてくる。
大切にしてると言えば聞こえはいいが、あまりに愚かなエゴでしかない。
「ウチらじゃ、力不足だってんなら、分からせてやる」
「ユイアさん?」
「ごめん、あとは任せるね。±の報告だけちょうだい。計画上はペイできるから」
「はい。ユイアさん、私が言うのもなんですが、気張りすぎないでください。あなたはあなたです」
「……それ、この間言われたばっかだよ」
音もなく、消える。単純な速度だけで消え去った。
向かった先はメルフィの店。移動時間がほぼない分、ユイアは本当に一人で数人お仕事をこなしている。
メルフィの店、今日はいつも以上に賑わっていた。噂が流れた結果、多くの人間が訪れ、単純に店の料理がおいしくてリピーターが増えた。これは予想通りだった。
「メルフィちゃん。どう?」
「オムライスが出て行きますが、私の味を目当てに来てはいないので複雑な心境でございます。弘法ペン字検定一級とはこのことです」
「……あ、え、そんなカジュアルだったっけその言葉。それより、バイト増やそうかなって」
「大丈夫なのでございますか?」
「何が?」
「ユイア様、最近寝ておられますか? 肌の通夜が少々」
「通夜まで言ってないです止めてください。大丈夫、心配しないでいいよ。ウチ、人より動けるから」
「動けるからと言って動いて良いとは限りません。ユイア様、私はマスターに非常に大事な時を借りて料理の腕を磨いてまいりました。それは、ユイア様のご期待に添いたいと考えたからでございます」
今日のメルフィは、良く喋った。相変わらず、何を話しているのか分からないが、今回はギリギリ何を話しているか分かる方が多い。
「ウチの期待?」
「はい。ここから先は、少々馬の耳に念仏ですが」
「ああたぶん絶対違う。あれでしょ、言うまでもないとか、言うべきではないって言いたいんだよね。さしでがましい、みたいな」
「あなたはもう少し、私たちを頼るべきでございます」
「え……」
「マスターですら、結局お一人で抱え込んで、今や行方不明でございます。巻き込んでおきながら、とんだ捕らぬ狸の皮算用。我々の溜飲もフルバーストオブレジェンドです」
「……信じてる、よ?」
「あなたはあなたなのです。ユイア様。そして私は、マスターよりも、あのトカゲの男よりも、あなたを信じてここにいます」
また、言われてしまった。
あの日から、帝国の騎士、ゼロネにボコボコにされたあの日から、ユイアは誓った。
自分が、アスヤの代わりにここを引っ張っていかなければいけない、と。
「嬉しかった。私を信じ、呼んでくださり、才能の扱いが上手いマスターに取り次いでいただいた。本当に感謝しています。今、私は料理において絶対の自信がございます。私を上手く使っていただきたい。バイトも、くださるのであればありがたく頂戴します。マスターの代わりになることも応援します。ただ……どうか、元気でいてください」
いつも真顔。いつも冷静、と言うかマイペース。何を言ってるのか分からないし、まともに会話したらアスヤのギャグ並みに意味が分からなくなる。
そんなメルフィが、微笑みを見せてくれた。ユイアを信じていると、言ってくれた。
それだけで十分だった。
「分かった。バイトは亜人で良いかな」
「私も鬼人族のハーフ。問題ございません。そう、私は鬼人族ですので、多少の無理はききます。ご心配はナッシングソーマッチ。よりクリエイティブなイニシアチブを以って、あなたはプロジェクトのアジェンダをイシューしてください」
「ああ、うん。ありがと。じゃ、ファルマに求人を出してもらうから、メルフィちゃんがえらんで。ところで、ラブラブオムライスはどのくらい出てる?」
「今日で三日目ですが、12件ほど」
「ありがと」




