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ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
ダンジョンマスターいなくなりマスター

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38/68

新たな敵の登場ですっ

「それで」

「なんだと?」

「ウチが謝って、あんたの気は済むん?」

「済むわけねえだろが!」

「そ。じゃあ、知ってる? ウチらのダンジョンがあった場所にはまあまあの町があった」

「知るかよ、んなもん!」

「そうだね。知らないね。そこには亜人がたくさんいた。帝国と違って、王国は自国民の人種以外のクラス場所が比較的多かった。と言っても、仕事はないわけで、ウチのダンマスはね、彼らに仕事と報酬と技術を渡して街を作り上げた」

「だから、それとこれと――」

「多くが死んだ。ウチもね、王国のやり方なんか許せないし、あんたみたいに、なにも見ないで自分だけ泣くのは、嫌」

「な――」

「勘違いしないで。ウチがそうだったから、嫌だった。この髪と一緒に、捨てるまでは」


 静寂が包み込む。決して心地いい物ではなかった。

 知っている。向き合う痛みも、変わる怖さも、何もかも。

 アスヤがいなければ味わうことのなかった痛み。アスヤが消えたから、乗り越えなくてはいけなくなった怖さだ。

 パン、と空気を壊すように、アシュリーが手を叩いた。向き直ったアシュリーの顔には、柔和な笑みが浮かんでいた。


「思うことはあるだろう。みんな、ね」


 どこか背筋が凍るような寒気。空気が、変わった。

 誰もが、アシュリーの一挙手一投足に注目した。ピンク髪の少女、ショナも水晶版を卓の上に置いて、ようやくやる気のない瞳を上げていた。


「まだまだ参加するダンジョンマスターが増えてくるだろうから、取りあえずここで話だけでも纏めたい。方向性だけでもね」

「と言ってもな、我々は全員違うことを生業にしている上にダンジョンマスターとしての地位も国家的なダンマスに比べて低い。アカデミーのエリート様とは違うのでね。扱うダンジョンの種類も規模も違う。集まったところで何が出来ようか」

「それを考えようって、話じゃないの? おじさん」

「それもそうだ。続けてくれ」

「さあ。私は、どうでもいい」

「んじゃあ、なんでウチらと会おうってなったのさ。ええと、ショナさん」

「さんはいらない。行って来いって、皆に言われたから。でも、良いと思えば、私は話しに乗る。そこのうるさいのと、おじさんと、違って、結局一番悪いのは、女帝エトナだから」

「俺はまだ納得しちゃいねえ!」

「謝ればいいわけ?」


 また、空気が沸騰しかけた時……小屋の扉が、ゆっくりと開いた。

 また新しいダンジョンマスターかと思ったが、違った。部屋にいた誰もが、ユイアでさえも、臨戦態勢を取ったのだ。


「おや、驚かせてしまいましたかっ。どうぞ、お話を続けてください。わたくしは、紳士、っですのでっ」


 黒いハット。涙のようなタトゥーが右目に彫られ、顔は傷だらけだ。左側に至っては、恐らく本人由来の皮膚じゃない。誰かの物が移植されているようだった。

 まるで現実味のない風体の男は鷹揚に手を広げた。まるで貴族のような黒スーツに金の襟。いや、貴族と言うよりはまるで、道化だ。


「この人もダンマスですか? 一応、聞きますけど」

「いいや、彼は全く真逆の存在だ」

「手前――!」


 怒りを拳に固めて殴り掛かった少年トーアを、アシュリーは止めようとした。

 が、トーアの襟首を僅かに掠めるに終わる。

 解き放たれたトーアは勢いに任せて自称紳士に殴りかかる。

 マウントを取り、タコ殴りにする。まさに悪鬼。まさに修羅。誰もトーアを止めることが出来ない。と言うより、急にこいつは何やってるんだ、と言うのがユイアの感想だった。


「トーア」


 ようやく、アシュリーが割って入る。力づくで引き剝がされたトーアは尚も暴れているが、対格差もあってか、封じ込まれた。

 ぶっ倒された紳士の顔を見ようとユイアが顔を近づけると、ボロボロになったはずの紳士は勢い良く立ち上がった。


「ひっ」

「おっと、驚かせてしまったかなっ、お嬢さんっ。いやあ、にしてもっ、随分とっ、熱烈な歓迎にわたくしっ、思わず興奮してきましたよっ」


 無傷――

 トーアの殴打が子供の駄々程度のものとは思えない。かと言ってこのひょろ長い体躯に攻撃を防ぐほどの強度があるとも思えない。となると、スキルだ。


「黙れ! お前が、お前が父さんを!」

「落ち着け、トーア」

「離せ! 殺す、お前を殺す、イレギュラー――」


 何が起きたか、ユイアは卓越した動体視力でしっかりと見逃さなかった。

 トーアの首を、紳士の手から放たれた何かが……一瞬で刈り取った。

 すぐに剣を抜いて紳士の首に突き立てるユイア。その間、トーアの首が落ちるよりも前の僅か1秒。

 一瞬で首を撥ねられたトーアはゆっくりと痙攣しながら、床に沈んでいく。


「やれやれっ、嫌いなんですよねっ、立場を見極めることが出来ない愚か者はっ。私はイレギュラー、エトナ様より直々の命令を賜った者。格が違うのですよっ」

「あの、ウチが剣を突きつけてるんですけど、それは虫?」

「ああああああ、これはこれは、失礼しましたっ。お嬢さん、わたくしは、フェルデスでございますっ。お嬢さん、お名前はっ」

「ユイア。それで? あんたホントに、喧嘩売りに来たんならちゃんと買うわよ」


 今まで多くの敵と戦って来た。挑戦する者、姦計に欠ける者、圧倒的な数で来る者。

 どれとも違う。殺気の種類と言うか、純粋に、殺すことに何の躊躇いもない。

 むしろ、殺しこそが快楽とでも言いたげな、気持ちの悪さがあった。


「とんでもないっ、お嬢様。わたくしはただ、妙な企てをしている方々へ、そんなことはおやめなさいと伝えに来たまでっ、これ以上はっ、女王陛下の目に留まりますよっ」

「だとしていきなり殺しておいて、この風呂敷をどう畳むつもりかな?」


 眼光鋭いアシュリーの眼差しを受けて、たった今人を殺しておいてニヤついていた。

 常軌を逸した空間の中で吐き気がする。濃密な悪意の巣窟で、ユイアは一人平静を保って冷静だった。

 こんなこと、慣れている。どれだけ人が死んだと思っているのか。どれだけ殺してきたのか。下らない。知らない人が死んだ位ではユイアは動じない。


「ああ、では帰るとしましょうかっ。わたくしはっ、警告に来ただけなのでっ」

「帰すわけがないだろう。ここはダンジョンマスターが集まる場所だぞ。そのうち一人を殺しておいて帰れると思うのか?」


 ここでアルヴェンがどすの聞いた声で低く、確かに強く唸るように言う。

 確かに、ここには今、ダンジョンマスター三人と、代理が一人いる。戦力としては、十分すぎる。

 多くの命を奪い、多くに夢を語る至高の迷宮、ダンジョン。彼らはその頂点に君臨し、多くを使役する存在。大した力のない人間がなれる職業ではない。

 故に、やる人間が少ない上に、やったところでアスヤたちのように上手くはいかない。

 イレギュラーズ。女帝エトナが各国で直接リクルートしてきた私兵。帝国、戦場、あらゆる場所で暗躍する組織。

 目の前の紳士はまるで分っていない。ダンマスが戦っているのは、戦場ではない戦場。


「おや、おやおやおやおやっ、いいでしょうっ、わたくしとしては是非もないっ、ここで見なさん、死んでいただきましょうっ」

「待って」



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