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ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
ダンジョンマスターいなくなりマスター

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37/68

徒党を組みマスター

「人の死なないダンジョンを作りたい」

「人が……死なない?」

「ああ。家族を奪われ、友を奪われ、なのに僕らはダンジョンから離れられない。ならもう、行くのは止められないんだから、せめて死なないようにしてあげたい。アカデミーで学べない人が多いなら、僕のダンジョンがよりよい練習台になろう」

「攻略されることが目標の……ダンジョン?」

「良いね、そういうことだ。傷ついたら君たちのところの温泉に行くのもいいし、ご飯を食べてもいい。デートで来るなら、僕がいつでもスタイリングしよう」


 寝耳に水な話だった。

 ダンジョンでは、人が簡単に死ぬ。また、ダンマスはどうやれば効率的に人を殺すかを考える。

 ドラーゼやユイアはアスヤの指示でなるべく殺さないようにして来てはいたが、以前あったルダウ戦では、リーダールダウ以外を全滅させている。

 全滅させなければ、逆にユイアたちが殺されていたからだ。全力には全力で向かう。

 アスヤは全ての責任を自覚しつつも、自分が笑えるための道として、ささやかな甘さを残した。

アスヤのダンジョンにはトラップがなく、理不尽な死、初見殺しの一切がない。

 それこそ、ルダウたちのパーティーや、ゼラールが送り込んできた冒険者パーティーのように事前に調査すれば十分な勝ち目があるという激甘仕様だった。

 ただ、誰もが死に得る状況で、唯一の利点はあるとすれば、アスヤは人を生き返らせる力がある事だ。


「夢物語って、正直思っちゃいましたけど……だからこそ、素敵です」

「君は、笑わないんだね」

「それはウチのダンマスが許さないし、ウチもダンマスを支持してるんで。そう言う絶望的な時こそ、彼は言うんです。笑って酔おうぜって」


 一瞬、アシュリーが伏し目がちに視線を逸らしたようだった。ユイアは他人の機微を敏感に嗅ぎ取る。そうやって他人の目を気にしながら生きていくのがユイアの処世術だった。

 動揺も、心の機微も、そして、人が人を殺す予備動作もユイアは神速の名に恥じぬ程素早く読み取る。

 アシュリーの顔が、心が叫んでいたのは、悲しみだった。

 夢の話をしていて、何故、そんなことを。


「すぐに、主要メンバーを集めてもらえるかな? 話し合いは、速い方が良いだろう」

「ウチのシェフはあんな感じですし、もう一人は馬の全員を殺しかねないほど頭に血が上りやすい馬鹿ですよ」

「では、君だけ来てもらうことは可能かな」

「分かりました。行きましょう。少し準備をしてきますお待たせしました」

「……本当に速いね、君は」


 鞄を持ってきたユイアに驚いた表情を見せるアシュリーは、それでも扉を開けてエスコートしながら集合場所へ向かった。

 場所は王都改め帝都から北へかなりの距離を移動した場所にある小屋だった。隠れ家的な佇まいだった。

 声を同時にかけているところだから全員集まるとは思わないが、数人は集まるという話だったので、少しの間待つことに。

 円卓と、円卓をぐるりと囲うように置かれた椅子。簡単な作りだが、お菓子と飲み物が用意されていて抜かりはない。

 暫くの時間が過ぎた後、見たこともない他のダンジョンマスターたちが集まってきた。

 思えば、ユイアはダンジョンマスターと言うものを、アスヤ以外知らなった。


「揃ってくれてありがとう。以前さらっと話した通り、僕たちはより一層――」

「ちょっと待ちな」


 声を上げたのは、赤い髪を持った少年だった。血気迫る表情と鋭い瞳。肩と腹筋が露出した軽装を着ている。オールバックも相まって、随分と若々しい。ユイアと変わらない。


「その前に、一言わびでも入れてもらえねえと、気が済まねえ」

「トーア、止めるんだ。ここは話し合いの場であって喧嘩の場ではない。彼女の非はない」

「はっはっは、非はないとは、面白いことを言うのう、アスラの」


 初老の男性が渇いた笑いでトーアと呼ばれた少年を応援するように指を組んだ。

 頭に白いものが混じった鷲鼻の男性。紳士よろしくスーツに身を包んでいる。おおよそのダンジョンは彼やゼラールのようなある程度経験を積んだ者が運営している。普通は。


「アルヴェン。黙ってくれないか、お願いだ、頼む」

「どうでもいい。速く、進めて」


 ピンク髪ツインテ―ルの少女がやる気のなさそうな瞳で水晶版を眺めながら呟いた。

 これで、急遽集まった全員が、どんな温度感ここに来たのか我おおよそ把握できた。


「ショナの言う通り、落ち着くんだ、ふたりとも」


 アシュリーに諭されて、取り敢えず矛を下げたかと思った少年はしかし、円卓を越えてユイアの胸ぐらを掴もうとした瞬間――逆にユイアが腕を取って円卓に叩きつけた。


「あの、なんですか」

「手前……手前らのせいで!」


 怒れる少年、トーアは卓から弾かれるようにどけると、ユイアの隣に降り立った。

 ユイアはもちろん、少年とは初対面だった。少年どころか、紳士アルヴェンとも、ピンク髪の少女、ショナとも初対面だった。

 ダンジョンマスターと言う者が碌でもないのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。


「これはどういうことですか、アシュリーさん」

「すまない。集まった顔ぶれを見てこうなることは分かっていたんだ。その前に止めるはずが、血の気が多いようだ」

「お知合いですか?」

「名前を知っている程度だよ。お互いにね。ここは初対面の集まり。だからこそ、ある程度の敬意は持っておいてもらわないと困るな」


 空気が凍り付いたようだった。アシュリーと初対面だからこそ、誰も知らないのだ。

 誰が、どの程度の実力で、一番強いのが、誰なのかを。

 だが、それは大人の論理だ。


「黙れ、一言、謝れよ、国壊しのダンマスさんよ!」

「だから、ウチはアスヤ……ダンマスの代理で来ただけ。それにウチのダンマスが何したって言うの?」

「とぼけんな! お前らが戦争を始めたんだろうが! 王国守備軍はお前らのダンジョンを攻略に向かって返り討ちにあった! しかも、その後お前らが連れて来た奴が国王殺してここが帝国だって言い張って! 何もかも滅茶苦茶なんだよ!」

「何も知らないで――」

「はっはっは、それは御嬢さんの方かもしれんぞ」

「え? 何が」

「彼の父親はダンマスでね。筋トレと言ったかな。設備併設型のダンジョンで、多くの筋肉馬鹿に愛されてきたんだ。だが、事情が変わってね、イレギュラーズと呼ばれる、女帝エトナの私兵に介入された。ダンジョンクリア報酬の金のダンベルが金に該当するとしてこれを排除しようとした。もちろん、トーアの父親は抵抗し、あえなく殺された。全てを作った君のダンジョンマスターにある程度恨みを持っていても仕方がないだろう?」


 アルヴェンの説明にユイアは明確に、動揺した。

 自分たちの行いのせいで、自分たちが、ゼラール率いる王国軍と女神に対抗する策を打ったことで……人が死んだ。

 ある程度言葉を飲み込んだところで、それでもユイアの心は、涼しかった。


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