ダンジョンと出会いと
「ではこちらとしては、連合に加入してほしいかな。伝説を色々残している君たちが表立って役に立ってくれるのは嬉しい話だ」
「分かりました。他のメンバーにも伝えておきます」
「頼んだよ。新しいのが出来るのを楽しみにしてる」
「来ますか? ウチに。ボロボロですけど」
「それはありがたいね」
アシュリーを連れて戻った先では既に工事が進められていて、破壊された本ダンジョンの修繕と街の復興工事が始まっていた。
とりあえず、ダメージが少ない第一層を開いて、レストランを開業。温泉事業も上々。逆に癒しを求めてやって来る人が前より多くなっている。
「と言うのが説明です」
「へえ。良いところじゃないか。温泉なんて、気持ちよさそうだ」
「ドラーゼっていう、武闘派もいますけど」
「レストランの方がいいかな。案内してよ」
「はい。ええと……メルフィちゃんいるかな、あ、いたいた」
厨房へ向かうと、一人で切り盛りしている限界料理人の姿が見えた。
声をかけるか憚れたが、気付いたメルフィの方から声をかけて来た。
「ユイアさん。お客様、でございますか? 今、両手に花状態でして」
「ああ、忙しいってことね。一皿美味しい物を用意してくれるとありがたいかなあ」
「かしこまりました。席へご案内してください。一皿ねじ込ませていただきますので」
「だ、そうです。少しお話でもしながらどうですか?」
「お言葉に甘えようかな」
開いている席に座る。ぐるっと見渡すと、木目調の店内にあるテーブル席とカウンター席はある程度埋まっていた。テーブルの上にはメルフィが休憩時間に彫った木彫りのモンスターの人形が置いてあってかわいい。調度品の調達はユイアも担当しているので、掃除が行き届いているか、皆が使いやすい食器化などに自然と目が向いた。
そろそろ、メルフィのアシスタントを雇おうと頭の中でメモをする。
「さて、ユイアちゃん。君は冒険者からなんでダンジョンの守護者に?」
「ダンマスのダンジョン攻略したんですけど、ウチ、味方に使い捨ての盾扱いされてて、声をかけてもらったんですよ。一緒に働かないかって」
「そうか……それが、君の分岐点なわけか……私も最初は君と同じように冒険者だった。色々回ったよ。王国もそうだし、帝国や東方諸国連合とかも」
「へえ、確かにそれは回ってますね。でも、なんでダンマスに?」
「当時のパーティーが全滅してね。行く当てがなかったんだ。そんなとき、アカデミーに出会った。冒険者として学ぶことはもちろん、ダンジョンマスターを学ぶことも出来てね。もし、最初から冒険者として学んでいたら死なずに済んだのかな」
「そうですか」
ユイアの答えはあっさりとしていた。別に珍しくはない話だ。冒険者パーティーが全滅することは。単純で、情報と経験が足りない。
可能なら学ぶか、師匠のような存在を作ることがベストではあるが、そううまくもいかない。
アシュリー・アスラも辛い過去を持つ。持っていながら、前を向いて今はダンジョンマスターになった。
少しばかり、輝いて見えた。かっこよく、美にも精通した男性と言うのは魅力的だ。
「僕はアカデミーである親友と出会ってね。若いが、才能に溢れていた」
「今でもお付き合いが?」
「いや、無いんだ。音信不通でね。戦争に行ったらしい。才能を使いたがる人間だからね、まあ分からないでもない。僕も冒険者だったから。だが、ダンジョンに関わっていればいずれ会えると思って、彼が唯一楽しそうに話していたダンジョンをやろうと思ったんだ」
「良い話ですね。じゃあ、なんで美容室を」
「趣味だよ。綺麗なものが好きなんだ。意外と思うかい?」
「いや、そんな。素敵です」
楽しい会話が過ぎていき、いよいよ本題と言う空気を、美しい彼は纏い始めた。
「僕たちは資金を合わせ、何か一つ、大きな事業を起こしたいんだ。君たちがやったような、国造りを」
「アレはダンマスのアイデアですし、女神を出し抜くのが目的だったみたいですよ」
「女神を出し抜くというのは実に考えにくいというか、豪胆な人なんだね」
「アイデアでは今のところウチが知る中で一番のわけわからない人ですよ」
「そう……彼が戻ってくると良いね
「まあ、帰ってきたらぶん殴ります」
「お待たせいたしました。揚げ玉のおひたしです」
テーブルに運ばれたさらには、黄金色のスープに入った、丸い球状の食べ物。こんがり小麦色な通り、恐らく小麦粉で使っている。小麦の上に茶色いソースと緑色の香草が散らされているようだった。黄金色のスープにぷかぷか浮かぶ不思議な料理。
アシュリーは食器とスプーン、フォークを交互に見やって最後にユイアの顔を見た。
「召し上がれ。当店のシェフは一流です」
「いただきます」
アシュリーがスープの中でナイフを入れる。じゅわっと、スープに何かしらの出汁が沁み込んで、黄金色のスープが何故か透き通った。
スプーンですくって口に入れたアシュリーは目を見開いた。
「甘い……え、待って、小麦粉じゃない……甘いお芋、かな。この上のソースは……お肉のミンチ……スープのこれ、玉ねぎだ。玉ねぎがめちゃめちゃ甘い! すごい、見た目と味が合ってない!」
「よかったです。味は確かなのと、脳が馬鹿になるのが病みつきになるそうです」
「それは間違いないね。このお店は黒字なのかい?」
「ここと温泉はバリバリに儲けてますね。ダンマスはこのお金を使って本気で国を作ろうとしてたみたいですけど、詳しくはよく分からなくて」
「それだけで建国できるとは思えないから、元手にしてどこからかお金を引っ張ろうとしたんだろうねぇ……さて、ご飯をご馳走になったところで本題だ。君には資金と人手を渡し、他のダンジョンマスターたちを紹介する。そこで、企画を一つ作ってくれ。何でもいい、お客さんが集まってくれればそれで」
ハンカチで口を拭い、足を組み直してアシュリーは言う。さも、簡単かのように。子供にお使いを頼むような、優しい口調で無理難題をぶつけて来た。
本題が直球過ぎて分かりやすいが、同時にほぼ不可能だということも分かる。
「二つあります」
「どうぞ」
「アシュリーさんの人脈なら、あなたが直接まとめた方が話が速いのでは?」
「ごもっとも。だけど、僕も知っているだけで深い知り合いと言うわけじゃない。となれば、我々の間でも話題性のある君の話しなら、興味を持って話を聞くかもしれないと思ってね」
「興味があるのはウチのダンマスでしょう? ああそうだ、ふたつめ。集めるだけ集めてどうするんですか?」
「そこだよ。僕たち中小ダンジョンは王道では戦えない。だからこそ、併設でいろいろやることが多いんだ。僕たちは自分たちがやっているビジネスを知ってもらえればそれでいい。今や、ダンジョンは娯楽ではなく生活のため必要な行為になってしまった。でも、ダンジョンはそうじゃないとは思わないかい?」
ベストタイミングで水を持ってきたメルフィにお礼を言い、アシュリーは水をごくりと飲んだ。どことなく色っぽい所作に、改めていい男だな、とユイアは思った。タイプではなかったが、こんなイケメンと食事をして、バチバチに髪を決めて、充実していた。
そう。この充実感。生きるために戦ってきた、冒険者だった頃のユイアにはなかったもの。
アスヤと、ダンジョンと出会ってようやく見つけた、自分のために生きる日々。
オシャレやメイク、食事、日々を頑張る糧になる物のためにお金を稼いでいる今、アシュリーの言う事はよく理解できた。
「ダンジョンは元々、魔王が宝物庫として作り出し、また魔王軍根城として要塞化した物勇者が魔王を討ち、魔竜を封じた後。いつしかダンジョンを作って賞金を勝ち取らせるビジネス、ダンジョンマスターが誕生した。命を懸けて攻略する過激な娯楽が冒険者たちの生活手段になって、青春を多く投じた者も多いだろう」
「確かに」
「今はまた時代が違う。我々は多くをダンジョンに殺され、また多くをダンジョンで殺してきた。賞金が無くなった今、ダンジョンは憧れよりも畏怖や憎悪の方が多いだろう。そのイメージを払拭したい。僕はね、ユイアちゃん」
いい顔が真っ直ぐに、ユイアの瞳を貫いた。




