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ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
ダンジョンマスターいなくなりマスター

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34/68

ダンジョンマスター

 体格差を活かしてホールドを解除、立ち上がると同時に手刀が降って来る。

 落としていた剣を拾って元の場所に戻る離れ業を見せたユイアは手刀を剣で迎えるが……剣が、砕けた。

 ドラーゼの腕は既に、ドラゴンの物とすげ変わっていた。赤々と燃える炎を突き破り、見えるのはドラゴン族の覚醒の片鱗。

 時が止まったような、妙な感覚。相手は覚醒を成した、ドラゴン族。魔竜のお陰で迫害され続けた一族の果て、戦いを求めた竜太子(ドラゴンプリンス)、ドラーゼは逆行を武器にする。最適解と討論することで、読み合いを制する。

化物を前に、ユイアは冷静だった。

砕けた剣の一部を、ゆっくりと見ていた。何か破片が語り掛けてくるような妙な感覚。

理屈じゃないが、何か行けそうだった。ユイアは剣の破片を宙で掴み、ドラーゼの手刀を右肩で受けつつ、ドラーゼの顔面に破片を突き刺した。

相打ち……とはいかない。

先に背中を地面に着けたのは、ドラーゼだった。

肩と手を斬り割かれたユイアは、最後の最後まで、立っていた。

雌雄決する――


「……手前の勝ちだ、ユイア」

「あんたにクソ楽しい世界を見せてやる。お顔、大丈夫? ドラーゼ」


 ドラーゼは熱せられた手で顔の傷を炙ると、僅かな傷跡を残して傷が癒えた。ドラゴン族秘伝の技。ドラーゼを殺すなら、首を撥ねるしかない。


「さあ、ダンジョンやるよ。稼ぎ方を変えないと、ウチらはゆっくりと帝国に飲まれる」

「どういうこった、それは」

「ファルマ」

「はい。王国内には元々軍隊がほぼいません。各戦線に主要戦力が分散しているためです。有事の際は冒険者パーティーやダンジョン経営者たちが国防、というか、自分たちのダンジョンを守ることで結果的に国を守る形になるのです。

 しかし今回、ダンジョンの多くは襲撃されていないし、冒険者パーティーは戦う前に国王崩御によって何も出来ないままそっくりそのまま国内に残っています。暫定国王、女帝エトナは国内の弱体化を図っているのです」

「そ。おっきいダンジョンは別にそれでもやっていけるしね。不満を漏らす小さなダンジョンはさっきみたいなゼロネが潰しに来る。帝国の精鋭、余剰戦力は計り知れない」

「その通りです、ユイアさん。現在、突然国内を襲った女帝エトナは内政を掌握。ダンジョンマスターや冒険者パーティーに対し素早い対応を見せています。さらに、前線にいる国王軍もとてもいい判断を下しました。すぐに反転攻勢するのではなく、一度体勢を立て直し、息を潜めて期を狙っているのです。もしも、王国軍がすぐ王都へ戻った場合、内部の女帝エトナの軍と、外の帝国軍に挟まれ、希望はありませんでした。もしかしたら、女帝エトナそれを狙っていたのかもしれませんね」

「へえ。それはすごいね」

「何言ってんだぁ、お嬢ちゃん。手前が言い出したことだろうが」

「知らない。アスヤの真似。アスヤならこう考えるって思っただけ。んー……まあ、ダンジョンは開けとくとして、ウチらは運がいいことに最高の料理人を誇っているから、収入源はあるしね。あと温泉。そうだ温泉だ。横に広げて大きくしようよ」

「俺らは温泉の堀方なんて知らねえよ」

「ご主人様が素手で何百回も挑戦して掘り進めた人力温泉なので、再現は難しいですが、横に広げるなら行けそうです。破壊の限りを尽くされましたが、町にはご主人様が育てた亜人族の職人が多くいますし。報酬にお金を出せないなら、そのまま使ってもいいかと」

「いや。町の修繕もいるでしょ。アスヤが作った街を直すのに使いましょ。ウチ、ちょっと行ってくるから、ドラーゼはダンジョン一層まで降りて参加者を適度にボコして。ファルマは職人さんに連絡を取って。町を作り替えるから」

「あいよ」

「わかりました。ユイアさんは?」

「お出かけ」

「優雅なもんだな。俺らはいつ、帝国共に殺されるか分からねえ。正解は、雲隠れかもしれねえのに」

「絶望は座り込むだけの時間じゃないっしょ。こんな時こそ、笑って酔おうぜ」


 状況は、絶望的だった。

 いつだってマイナススタート。最悪スタートを、アスヤは潜り抜けて来た。

 たった一人でダンジョンを作ることなんて、正気の沙汰じゃない。上位種、神に近い噛神である女神を出し抜き、王国を一人で掌握した女帝と対峙して行方不明。本が書けるような人生だ。

 ユイアが出来ることはたかが知れている。足で稼ぐだけだ。


「ダメだな」

「今は戦争中……いや、終戦か? とにかく無理だ」

「帰れ」

「お姉ちゃんだったら、どうだ? 10万で買ってやるぞ?」


 足を使って金の無心。

 その全ては徒労に終わった。時期が悪い。戦争が終わったのかどうかも分からない状態で金貸し業は営めない。

 ユイアはダンジョンマスターでもない。ただのダンジョン勤めの少女には交渉の余地はない。それどころか、身売りを勧められる始末だ。

 女であることが、既に舐められる要素となってしまっている。

 不甲斐なさに、拳を握った。同時に、苦笑もした。アスヤも全く同じ状況で金を借りて来たんだ。本当に、化け物じみた行動力を持っている。


「どうしよっかな……」


 高速であらゆる場所を探し続けた。その度に突きつけられる現実は全く嫌な気分だ。

 お金がなければ、町の再興なんて出来やしない。このままだとダンジョンは赤字で終わる。

 なんとか、お金を工面する必要があった。昔なら、アストがやったように王国三大ダンジョンをクリアして金銭の報酬を得ることができたが、今は無理だ。

 いや、もしかしたら、可能性はあるかもしれない。

 早速、三大ダンジョン改め、新三大ダンジョンへ向かうことにした。

 かつての三大ダンジョンの一つはアスヤが、残り二つは帝国軍が攻略。そして破壊。

 急増で作られたのは、森に作られたダンジョンと、王国一五尽くしいダンジョン、そして堅牢な塔のダンジョン。

 真っ先に向かったのは、クリア経験のある階層方式を採用したダンジョンである堅牢な塔、ザロック。

 王国の王都ほど近くに作られていながら、警備は帝国兵。参加者はまばらだった。戦争が起きたとは言え、ダンジョンを攻略することで生計を合ってる冒険者パーティーは生きるためにもダンジョンに参加する必要があるのだ。


「ええと、報酬って、何ですか?」

「勇者ホロウシスの剣です。かつて勇者と呼ばれた六人の内の一人が使っていたとされる剣」


 受付が提示した報酬は正直眉唾物だった。クリアすることで伝説的な剣を手に入れて売ればある程度の価値にはなりそうだった。

 ドラーゼとメルフィでパーティーを組んで攻略すれば……急増ダンジョン程度は攻略できる。

 ユイアが考えていたのは、ダンジョンラッシュ。今なら、新三大ダンジョンを全て、クリアできるかもしれない。

 凶悪な笑みを浮かべるユイアの肩を、トントン、と叩く人影があった。

 青髪の男。小柄なユイアが見上げる程度には背が高い。ウルフヘアで右側からおさげが流れ、優し気な笑みを浮かべていた。

 何者かと、見上げたユイアの視線の先で、男性はぐっと顔をおろした。


「綺麗な髪だけど、このままじゃもったいない。僕が懇意にさせてもらっている理容室を紹介させてくれないかい?」

「ええと、どなた、ですか?」

「僕はアシュリー。アシュリー・アスラ。君と同じ、ダンジョンマスターだ」


 不意に投げかけられた言葉の意味がよく分からず、しばらく呆けていた。


「あれ、新ダンジョンルール適用のために他のダンジョン、特に肝いりの新三大ダンジョンを調査士に来たのかと思ったんだけど、違ったかな?」

「あー、ウチ、ただの冒険者なんですけど」

「そっか。なら僕の勘違いだ。クリア報酬を聞いた時、クリアできるかどうかより、お金になるかどうかを考えていたようだよね」

「それが何か?」

「どうするの?」

「……詰んだ。詰んだけど、ウチはダンマスじゃないんですよ」

「代理みたいなものかな? マスターは今どこに?」

「それが知れたら苦労しないんすよねえ。ウチとしては、お金がとてもほしい。ダンジョンの改造に資金が入用で」

「中小ダンジョンはどこもそんなもんだよね。全く、女帝エトナ、大したものだ。このダンジョン、作ったのは女帝で、宝物も女帝預かり。ダンジョン内には中小の宝がいくらかあって、別に奥を目指さずとも日銭は稼げる。冒険者も、今は特に不満はない。このまま僕たちは、買い殺されるのかな」

「それは嫌なんですけど」

「そうだよね。まあとりあえず、行こうか。そのままだと、せっかくの美人さんが輝かないからね」


 優しい笑顔。優しい言葉。荒んだ心に痛み入る優しさ。帰れば馬鹿だの死ねだの暴言が飛び交う男くさいダンジョンだ。ほんの少し休んでも罰は当たらないだろう。

 アシュリー・アスラに連れていかれたのは、帝都の端にあるお店。おしゃれな白を基調とした場所で、椅子と鏡が数隻並ぶ小さなお店だ。

 驚くべきことに、おしゃれなお店の横に、禍々しいオーラを放つ祠のようなものが立っていて、しっかりと歓迎ムードで開かれている。恐らくここは……


「ダンジョン……」

「そ。ここが僕のダンジョンだよ。そしてここは僕のお店。さ、入って」


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