敗北の確認
たかを、くくっていたと、ドラーゼは地面を爪で抉り取った。
アスヤがいなくなって数刻、最初はいなくなったことさえ知らず、ダンジョンのフロアでいつものように参加者を待っていた。
だが、ファルマに呼ばれて表へ出てみれば、王国の軍勢の襲撃真っ最中だった。
初激で全て蹴散らすつもりが、出会ってしまったのが運の尽きだった。
思考が濁る。最適解が途中で邪魔が入ってなにも出来ない。思考が濁る中、馬鹿に硬い機械の腕に足を取られ、攻撃も通らない。ハッキリ言って詰んでいた。
最近の自分を振り返って、ドラーゼは襲い来る悔しさを前に歯を噛んだ。
(どいつもこいつも、舐めた強さしてやがんなぁ、本当に)
スキルが無効化され、攻撃も通らない。謎の幼女に抑えられて赤っ恥も良いところだった。
「あなたは、クソ野郎の仲間、でやがりますよね」
「クソ野郎? アスヤのこと言ってんなら外れだぜ?」
「肯定と取ります。それと、お嬢さん。私の裏を取りたいなら、もっとましな速さで来てください」
ドラーゼですら見つけることのできなかったユイアの一閃を、機械椀がいとも簡単に防いだ。
しかも、尻もちついて倒れるユイアの剣を機械椀が拾ってそのままへし折った。
「ちょっと、強すぎない? 何者よ、あんた」
「名乗るほどの者でもねえです。クソ野郎を回収しようとしたら魂が消えていました。何か知りませんか?」
「知るかよ。あいつは殺しても生き返りやがるからなあ!」
起き上がり様に回し蹴り。
最適解なんて関係ない。スキルじゃなく、手数で押し通せば、幼女プラス二本の機械椀なんて怖くはない。
「無駄です。言葉通り、次元が違います」
幼女の周囲に張られたフィールド。ドラーゼには見えていた上、最適解が警笛を鳴らしていた。それでも、自分を信じて貫いた。
「ドラゴン、メテオ!」
炎を纏った蹴りが炸裂するも、フィールドに触れた途端、動きが鈍くなった。というより、流れる時間が、あまりに遅く感じるようになってしまった。
「無駄だというのが分かりませんか?」
機械椀が足を貫き、ドラーゼはそのまま地面へ落下していく。
スキルを熟知した戦い方。無効化するというよりも、邪魔をしてくるのが逆に厄介だ。
唯一、魔法だけは通ると、最適解が導き出す。
だったら――
無理やり空中で体を捩じって回転。
(魂を、滾らせろ、昨日の自分を笑って越えろ)
こんな時にチラつくアスヤのムカつく顔に、ドラーゼは窮地の最中で笑った。
敵が強いことは、ドラーゼにとって関係のない話だった。自分が頂点に立つまでは、そんな物はいくらでもいると思った方が良い。
同族程度に後れを取っていた時点で、自覚はあった。自分はまだ、弱いと。
磨いた、強化した、洗練した。
魔力を惜しげもなく吐き出し、己が足を斧とする。
「ドラゴンコメット!」
回転炎蹴り。
確実に死角と虚を突いた、人間ではまず放てない離れ業。
しかしこれでも、最適解は幼女が防ぎ切ると回答を叩き出している。
それで良い。馬鹿で直上的なドラゴンの攻撃、そう見せることが、ドラーゼの最適解。
今、この瞬間、ドラーゼは生まれて初めて、自分を犠牲にした。
「器用でやがりますね」
機械椀をクロスさせて、防ぐよりも前に押し出して弾く。
とてつもない防御力の鞭が助走も貯めもなしで爆発的な加速力を生み出した。
速度と速度、足と腕、どちらが上か――
競り勝ったのは、機械椀。
しかし生まれた、背後の隙。
伺っていた、小さな猛獣、獰猛な殺意を引っ提げて、砕けた剣で、幼女の背中を狙う。
これは、通った。
最適解とドラーゼの意見が合致。
ユイアが放つ、死角からの必殺の一撃は、幼女の化け物を戦き切る――
金切音。鼓膜が破れかねない甲高い音と共に、ユイアの剣が一瞬で砕け散った。
攻撃は、間違いなく当たっていたはずだったのに、である。
同じタイミングで、ドラーゼは地面に叩きつけられる。地中にワープしていた機械の腕がいつの間にか背後を取っていた。
「物には固有の周波数がありやがります。振れればそうなるのは当たり前ですよ、ボケ」
ユイアを機械椀が掴み、同じようにドラーゼの方へ捨てた。
厄介なことに、知っている強さのベクトルが違いすぎる。フィジカルは勝っている。スキルを使っている様子はない。なのに勝てない。
ある意味で、今まで会って来たどの相手よりも強敵だった。
「まあ良いです。クソ野郎はまた、探すとしましょう」
機械椀が再び二人を捉えたその時だった――
「待たせたな、第二ラウンドといこうか、エクシア」
(おせえよ、ヘボマスター)




