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ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
笑って酔おうぜ

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27/68

居酒屋に来ました

「……全て、ダンジョンを中心に設計されているのか」


 黒剣士がここへ来て初めて言葉を発した。

 口は悪いけど目が良い奴だなあ本当に。気づいてくれて嬉しいよ。人からすれば、ただ開発が進んだ街を一望できるデートスポット程度の感覚しかないんだから。


「それだけじゃないよ、ゼロネ。町の導線が全てここに向いてる。この町は、ダンジョンへ通ずる大きな広告宣伝塔。しかも、亜人や他の人たちが共存していて、自足が十分可能な街が二つ。あっちの方はまた発展しそうね。にしてもこの人口、モンスターの被害はもちろん、私らとの戦争で家を追われた人たち、かしら」

「俺は別に王国の人間って訳じゃない。金と土地と仕事を渡して住み着いてくれないってことはまずなかった」

「あの舗装された道、少し色が違うけど、なに?」

「亜人が踏んだら魔力をちょっともらえる仕組みです。町の発電を賄ってるんで自給自足もおっけー」

「これが、アスヤさんの隠し玉? これだけ王国に色々作って、どうするん?」


 だーれも知らない。ユイアもドラーゼもメルフィ知らない、聞かれてないから答えてもいない、俺だけの計画。


「独立する。いずれは、王国と帝国の間に国を作る」

「へえ」


 楽しそうに、歪んだ笑みを浮かべるエトナお姫様。良い顔するじゃないか。

 ずっと、楽しくなかった。ずっと、詰まらなかった。

 強すぎるスキルのせいで大した苦労もなくここまで駆け上がってきた。俺が本当におもろいと思う世界を作り出す。

 契約を果たすためにも、死ぬ気で勝ち取らなければいけないところに追い込んでこそ、俺の真価が発揮される。


「それって、別に私たちの敵にならないって保証はないんでしょう?」

「金の切れ目が縁の切れ目だ」

「ふふ……まあ、ええわ。戦争になった時、ちょっとでも有利になるのなら、別にかまへんかなって。でもね」


一瞬で背後を取られた。

 歴戦演舞は切ってるとは言え、この速度、普通じゃないしスキルでもない。

 まさか、黒剣士よりもいくらか格上の戦士だとでも?


「私が帝国最強の騎士なら、姫様は帝国最強の姫だ」

「それで? あんたの答えをまだ聞いてない」

「ええよ。お金なら好きなだけ貸したげるから、アスヤさんは国づくりを頑張ったらええ。最後まで笑わせてくれれば。ほな、私たちは一度帰るから、また面白い話があったら聞かせてもらおかしらね」

「ああ。楽しんでくれよ、俺たちはいつでも歓迎するよ。話の分かる出資者は、な」

「運営に口出ししないから、好きなようにして。じゃあね」


 黒剣士と帝国の姫はゆっくりと踵を返して帝国へと戻っていった。

 俺たちのダンジョンは胴やらお眼鏡にかかったらしい。実際金が送られてくるまでは安心できないけど、取り敢えずは良いか。

 俺も踵を返すと、メルフィが佇んでいた。メイド姿の鬼の子は、どこか納得がいかなそうな表情だ。


「どうしたよ」

「残されて、行きました」

「いや、カレー……違う、サラダだっけ。アレは食ってたぞ」


 メルフィは首をフルフルさせると、俯き加減で言う。


「ひとりだけ、ずっと残す人がいるんです。オムレツソバフライを」

「オム……ごめん、そもそもそれどんな料理だ?」


 立ち話もなんなんでとりあえず店に向かった。店の中はピーク時間を過ぎたのか、鬼人族のバイトとまばらなお客さん。

 バイトがメイド服を着ているせいでコンカフェみたいだな本当に。どういう客層に人気が出てるんだ? デートスポットではなさそうだけど。

 店内をぐるっと見渡すと、オムレツソバフライが何かわかった。

 黄色いオムライスはオムライスだけど魚の形をしている。目と鱗をケチャップで描いて可愛らしい。

 少しナイフとフォークで斬った形跡があって、中はライスじゃなくて焼きそば。B級グルメっぽくておいしそうだけど……


「何がフライなんだ?」

「かたちはフライフィッシュです」

「ああ、トビウオ……もう、大丈夫です。んで? これ、一口位で残されてんな」

「はい。一口食べられた後、お題を置いて帰られました。何か、気に入らなかったのでしょうか」

「おーん、よいしょっと。味は美味いな。てことは、まあ気にすんな」

「どういうことですか?」

「いるんだよな。ラーメンの湯切りの回数が違うからだとか、先代の味と違うだとか。俺たちは一流料理店じゃねえんだから一々付き合ってられないんだよ」

「アスヤ様、私が目指しているのは、一流、世界一の料理人です。お客様が味わい、最高の時間を過ごしてくださるのが夢です。ダンジョンの管理人になることじゃございません」

「……なら、どうするんだ?」

「少しお店を暇にしてもよろしいでしょうか? 私の技術を向上させる必要がモニュメントです」

「……インポータントか? いやまあ、いいけど、店は?」

「オペレーションを忠実に遂行すれば彼女たちでも十分可能です。私が目指すのは、私しかできない完璧な一流の一品です」


 メルフィの表情は初めて会った時と比べ物にならない程真剣な表情だった。

 従業員のスキルアップしたいという意思を無下にも出来ないし、こいつなりに色々考えてるっぽいから、まあいいか。


「分かった。誰か連れてくか? ファルマでも」

「味見役には最適ですね。本当は、アスヤ様をお連れしたいのですが、お忙しいですものね」

「おーーーーーん、うん。うん。あーー、どうしよ、行けなくはない」

「一人でやりますから心配しないでください。それよりも、契約書類を見てないので、可能かどうかを聞きたいのですが」

「ああ、大丈夫。一か月位は出て行っても」

「ありがとうございます、アスヤ様。それでは準備を整えますので」


 お出かけをするらしいメルフィの背中を見送って、ようやく一息つけると温泉に足を向けた。

 いい具合にまとまったな。これから先、俺の覇道を邪魔する者は誰一人いはしない。

 ここまでやってきた。あと少しで、腹の底から笑えそうな新しい世界が――


「やっと、見つけました。こんなところに居やがったんですね、クソガキ」

「……お前にだけは言われたくねえな、クソ女神」


 ああ、いたな、そう言えば、お前。

 風と共に不意に現れた女神は、最初に出会った頃と同じように不遜極まりない不機嫌顔だった。

 名前も分からない女神の顔を見ながら、俺は構えた。契約スキルは十分にある、戦えるレベルにまでも育っている。

 戦うレベルになっているかどうかは定かではないが、俺にはこいつが脅威にしている切り札が――


「ゼラールとかいう男が教えやがるのに随分時間をかけたせいでこちらも見つけるのに苦労しました。私の連勤を終わらせに来ましたよクソ野郎」


 不満そうな表情で、奴の背後から伸びる三本爪のロボットアームが俺の腹と背中を貫いた。馬鹿がこいつ、速すぎんだろ。

 アームがドリルのように回転し、深く俺の体を切り裂いていく。どこから出したか……ああなんか、ワープホールみたいなものから直接出してるのか。

 これはスキルと言うより、圧倒的な、科学技術……技術の粋に、ぶち殺されかけている。


「スキルユーザーに対する対抗措置位はいくつか用意していますですよ。死角、速度、ありとあらゆる条件であなたが死にやがるに相応しいタイミングを突きました」

「ああ、そうかい……そんで?」

「この世界から取り除きます。事前情報では、何故か蘇生技術を手に入れやがったようですが、問題はねえです。殺さずこのまま持ち運びますので」

「笑って、酔おうぜ」


 べっ。

 出したベロを噛み砕いて、大量出血の俺はそのまま意識を失った。馬鹿幼女が、俺を殺せたら殺せたで別にいいとでも思ったんだろ? それがお前の運の尽きだ。

 意識が消える。深い闇に沈んでいく。

 暗転した世界で見えるのは、天へと昇る階段。周りを浮かぶ光り輝く魂が、ふわふわと階段を上っていく。

 ついて行けば、俺も天国へ行けるんだろう。だが、俺の魂を握って離さない黒く、おぞましい腕は、そのまま地面へ俺を連れ去った。

 暗転から暗転。怨嗟と憎悪の腕に迎えられながら、俺が降り立ったのは小さな居酒屋だ。

 暖簾がかかった、小料理屋の様な佇まい。暗闇を照らす行燈の光に釣られるように、俺は扉を開いた。


「いらっしゃい。なんだ、アスヤか。久しぶりのご登場だ」


 中にいたのは、頭に二本でかい角を生やした銀髪の男とも女とも分からない忠誠的な顔立ちのガキだ。どっかで見たことあると思ったが、あのバカ女神に似てる気がする、かな。顔には何かの模様なのか刺青がある。おしゃれと言うよりは呪いに近い感じがする。

 俺が初めて契約スキルを使った、張本人だ。


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