皇女様ご来店
「そのために、あなたが私を守ってくれはるんやろ? ほな、行こか。アスヤさん、もしそこまで面白くなかったら、私、あなたを殺してしまうかもしれへんけど、ええ?」
「ええで」
どうせ金を借りられなかったら、俺は首をくくるしかない。金を得たら使え。ゼロよりもマイナスにすれば金の方から勝手に寄って来る。
ウェルカムトゥマネーレッツゴー。
隣国だからと言ってすぐサクッと戻れるわけじゃない。しかもお姫様と護衛一人を背中に従えているんだ。丁寧に、道の枝を払いながら進んでいく。
「久しぶりのお外は楽しいなあ」
独り言みたいになっているのは、黒剣士が答えない上に俺は俺で俺に話しかけられていると思わなかったからであって、決して無視しているわけじゃない。
「最後に出たのはいつなんだ? お姫様」
俺はエトナ姫にタメ口を使い続けているが、このことに黒剣士は文句を言わない。
ふたりの関係は、一般的な騎士とお姫様じゃないのかもしれない。
「そうやね……停戦の時?」
「はい」
「あの頃は若くてなぁ、私、転生組なんやけど力の使い方が分からなくってね」
凶悪な笑みを浮かべるお姫様。
言葉を真面目に受け止めるのなら、こいつ、まあまあの歴史がある王国と帝国の戦争を片手間で終わらせやがったのか? 停戦させるってどんな力を持ってるんだ。
「ゼロネはその時出会ったのよね。瓦礫と死体に埋もれていたところを」
「感謝しています」
「良い出会いじゃないか」
話していると、如実に感じる余裕はふたりが強いからだろうか。
こんなどこの人間とも知らない奴についてくるんだ。相当な自信があって然りだろう。
国内にもう敵はいないと思っていたら、国外にまだこんな、英傑が隠れていたとは。
楽しくなってきたよ、たまにはお外に出て空気を入れ替えて見るもんだな。
長いようでめちゃめちゃ短い旅路を終えて、俺たちはダンジョンに戻ってきた。
親ばかみたいな話になるけど、ウチのダンジョンがいっちゃん可愛い。山を切り崩して作ったダンジョンの見た目は大きくない。奥行きがあるタイプだから勘弁してください。
「ちいさいなぁ。ダンジョンって、貴族や、大きな企業が作るからもっと大きいとおもっとったけど」
「ウチは山を買うために借金したくらいであとは基本現地調達なんだ」
「なんでそれで、やってけるん?」
「最初は、めちゃめちゃ腕が建つ奴を倒したいって腕試しの奴から金を集めた。次は温泉や小料理屋のサブ事業。今は育った守護者が可愛いからそれ見たさに来る奴もいる」
「一代で作り上げたにしては、立派なもんやね。後で温泉でも料理でも食ってみてくれよ。戦いたいならVIP待遇で喜んで殺そうとするやつがいるぞ」
「おもろいなあ。そしたらゼロネにあとで攻略してもらおかな」
メルフィの店に寄って、事情を軽く話した。これは融資してもらえるかどうかがかかった査察だ。とりあえずインパクトと美味しさ、あと簡単に食べられるものが来ればベストだ。
最悪オムレツでも良い。メルフィに空気を読めという方が確実に無理なのだから。
「いらっしゃいませ、お客様、そしてお嬢様。まずコースの一品目ですが」
「おいおいおいおいコースはダメだ。期待はしてないが期待を余裕で下回るなよ」
「私はええで。時間あるし。どんな前菜なんやろ」
「スパイスをふんだんに使ったライスサラダです」
出されてきたのはホカホカのルゥがかかった……やべえ、白いのに、カレーの匂いがする。間違いねえ、これカレーだ。馬鹿な、題名と品物が相違している。クレーム必至の料理。
馬鹿は焦る俺とは裏腹に、悪い笑みを浮かべている。
こいつまさか、気の利いた新作料理を出した最高のシェフの風格でも纏っているのか?
馬鹿が。とんだシェフの気まぐれ最悪パレードだ。大体、どういう脳内解釈をすれば前菜にカレーが出てくる。
待て、このゴロゴロとは言った野菜とクリーミーさ。
食感をあえて残した野菜と、煮込んでホロホロに溶けた野菜の融合……馬鹿が、野菜があればサラダだと思ってやがるなこいつ。
「これは、がっつりメインとちゃうん?」
「ウチのシェフは腕は一流です。腕だけは」
「お客様の前で失礼ですよ、オーナー」
「マスターだ」
「マスターは私です。ここは私のお店、セイントクック街角です」
「どこまでが形容詞でどこまでが名前だそれは」
「大体わかったからええよ。その子、ちょっと残念なんやろ?」
「その通りでございますお客様」
深々頭を下げて、顔を上げると、ぺろりと完食されておりました。丁寧に付近で尾奥地の周りも拭いております。
ふっほ、いいね。若いのに気取ってなくて。
さすがにコースを平らげる時間はないので、残りは中断。料理はおいしかったとのこと。
次いで向かった先は、閃光撃のユイアのフロアだ。
「あ、マスター……そちらの綺麗な方は?」
「あらうれしいなあ」
「素晴らしいお世辞だ」
「ふっは、ちが、今笑ったのは、だとしたらマスターので全部台無しなんだけどって意味で……いや、ホントに綺麗っす! あーしが見てきた中でもめちゃ綺麗っす!」
「この人たちは帝国のお姫様と騎士だ」
笑っていたユイアの表情が少しばかり曇った。
こいつは馬鹿だが、人一倍考える。考えることを止めないから、俺はドラーゼと同率として並列フロア方式に変えた。
気づいたらしい。そんなお偉いさんがここに来た理由と、今のウチの財政状況を照らし合わせて。
「え、国交回復したん、ですか?」
頭が良すぎる。確かにそっちの可能性の方が高い。
期待しすぎて、期待の上を飛び越えてきやがった。
期待通りの奴はいないのか、俺の周りには。
「違う。金を貸してくれるかの視察だ」
「ああ、なるほど……え、あーしが負けたら金貸してくれないとかそういう? うわ、超いやっすわぁ、マスター」
「あんまりそいうこと言うな」
「私と踊る? お嬢さん」
「いやあ、ドラーゼの方が良いんじゃないかぁって」
なんて問答を続けていると、エトナ姫はくるっと踵を返して出口の方へ向かっていった。
「大体わかった。良い守護者をもってるんやね、アスヤさん」
「良いのか?」
「一フロア並列方式。それにあの美味しい料理を作るシェフも相当な手練れ。自転車操業の割には、その辺のダンジョンよりも余程、強い。大体わかったけど、私を楽しませるには少し足りない」
「そう言うと思ってたからほら、こっち」
連れて行った先は、ダンジョンすぐ傍にある復興した町だ。最初は小さな崩壊した村だった。それが、いつの間にか巨大な街に広がっている。
金と仕事と人を流し込んで完成した町。ダンジョンの上から一望しただけで見えるその数ふたつ。
亜人というのは働き者で、まさかこうまで大きく街を発展してくれるとは思わなかった。
そしてこの町は大きなからくりがある。




