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ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
笑って酔おうぜ

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24/68

こんにちは、帝国

「すごいな。唐揚げを出汁につけたのか?」

「おばあちゃん秘伝の技でございます、アスヤ様。料理とは、有り得ないと思う選択肢を三つ作り出して、その中から選び取った一つを捨てて油断していた別の選択肢を選べ、って。夢で」

「じゃあおばあちゃんの言葉じゃなくてお前の頭だよ。おばあちゃんもいい迷惑だろ」

「おばあちゃんの子どもでした」

「おばあちゃん子だろ。おばあちゃんの子はお前のお母さんだ」


 今日も平常運転のメルフィ。つい最近、S級冒険者集団、ルダウを倒した事件の時、こいつに店とダンジョンを任せていた。

 あとで確認したが、ゼラールはこの隙にとS級冒険者パーティーを送り込んだようだ。

 全部、メルフィ一人に阻まれていた。

 もう、こいつ一人で良いんじゃないかとさえ思った。神に与えられたとしか思えない奇跡の噛み合いスキル。

 こいつは負けたと思わないと負けないし、斬れると思えば何でも斬れる。

 天は料理の腕と冒険者としての腕と言う二物を与えたが……


「経営者としての腕はお与えにならなかったか」

「失礼ですよ、お客様。天は私に、料理人としての腕と、スキルと、技量と、テクニックをお与えになりました」

「全部ほぼ同じだ馬鹿。これで賢かったら……ダメだな、アブね。料理も、美味いと思うからうまいのか?」

「ご冗談がお上手ですね。私が美味いと思うかではなく、お客様が美味いと思うかです」

「う、ん。そうだな。おっけ。深く考えるのは止めるよ。店も繁盛してるな」


 もう、昼時にふらっと入って行けるような状況でもない。運営側と言って無理に入る訳にもいかないので並ぶんだが、悪い気がしなかった。

 誰の顔も笑顔で、あれが美味しいだのこれが美味しいだの、新作メニューがどうだのって目を輝かせて、楽しそうだった。役得だよな、タダで人の笑顔を見れるんだから。


「ごっそさん。バイトはどうだ?」

「しっかり頑張ってくれています。同じ鬼人族ですので、一連畜生です」

「……一蓮托生か。ごめんごめん、ぼーっとしてたわ。次から本気出す」

「おもしろいですね。冗談から出汁は取れませんよ」

「ははは、料理人ジョークおもしれ」


 鬼人族のメイド。彼女の戦闘スタイルは巨大な戦斧を振り回す物だが、さすがに納得の腕力だった。バイトは彼女の出身地から直接リクルートしてきた。

 亜人族の賃金は死ぬほど低い。だから普通の人間よりも高い給料で雇ってやったよはっはっはざまあみやがれ最低賃金のクソ野郎。

 店を後にして、今度はダンジョンの視察だ。参加者は増えた。強くなったユイアは可愛く強く、赤い閃光と呼ばれていた。

 三倍どころか数千倍の速度で動いて決して捉えることのできないユイアを一目見ようと馬鹿が金を落とす。

 ちなみにダンジョンのシステムも変えて、第一層をフロアふたつに作り替えた。

 右がドラーゼ、左がユイア。これで、オープン当初からずっといる、ドラゴン殺しの異名欲しさに来る馬鹿と、ユイア目当ての馬鹿、二つの勢力が金を落とす。

 S級のパーティーの襲撃を越えて、二人もまあまあ育った。そこまで驚異的な相手はいなくなったはず、だ。


「あ、ご主人様~。温泉の増築計画何ですけど、資金、どうしますか?」


 クマリス犬妖精、ファルマがいつものようにふわっと浮いて来た。


「お前、俺のことを打てば金出す小槌か何かと思ってんのか?」

「いやですよ~、ご主人様。小槌を打ったものが金を出すんです」

「ああ、お前ぼっこぼこにすれば出てくるか?」

「ほんっとに止めましょ! それより、ほんっとに、お金、どうしますか? アイアンバンクにお金を返したせいで、色々と開発計画と舞っちゃってるんですよ?」


 そう。ゼラールに金を返して完全に縁を切ったせいで、アイアンバンクや王国はもう頼れない。だったら、一つだけ頼れる場所は存在する。


「頭が痛いが、営業するか。ファルマ、ダンジョンを任せる」

「そうやって任せて、この間はわけわからないことになっちゃいましたけど?」

「大丈夫だろ。もう、この国に、あいつらの敵はいねえよ」


 いなくなっちまった、って言うのが、正しいんだろうな。

 俺の声音から何かを感じ取ったのか、ファルマは何も言わずふわっとどこかへ消えた。

 世界を股にかけ、王国すらも飲み込みかけている金貸し銀行、アイアンバンク。

 ダンジョン運営までしっかり手を出して、本当に隙が無くて大きな企業だ。

 もうちょい、悪い噂を出すなり妨害工作があるかと思ったけど……何もなかったな。

 ダンジョンの運営を任せて、国外へ飛び出した。

 もうここに、俺の欲しいものは、無いから。

 飛び出した先は、国境を越えて、もう一つ別の国境を越えた先にあった。

 隣国だからこそ、隣国故に、何度も王国と衝突した国。ルダウ、ソレドラス、ヴィアンが命を懸けて戦っていた戦場を作り上げた巨大国家。

 帝国。


「お待たせ。待った? 帝国君」


 もうちょい後で、ちょっかいかけるつもりだったが、運営って言うのは上手いこといかないものだ。もう、行く先は帝国しかありえなかった。

 さて、ここで帝国の情報を少しだけおさらいしておこう。

 規模、経済発展の度合い、文明レベル、全てが王国とそこまで変わらない。拮抗しているからこそ、先の戦争ではとりあえず停戦という形でお互い内政固めを優先した。

 その間、王国はダンジョン経営とスキルの習熟で国力を増強していった。

 逆に帝国は魔法をこれでもかと開発したらしい。

 王国のダンジョンと違い、帝国のダンジョンは魔力と魔法で解き明かしていくノットフィジカル、イエスロジカルな傾向が強いとか。

 結果として、帝国は魔力を重視し、世界から魔王や邪竜の再来と恐れられている、らしいですはい。


「さーってどうすっかな。帝国の知り合いは少ないからな……」


 森の木々を抜けて長い坂を見上げながらとぼとぼ歩いて行く。

 魔力と折り合いをつけた帝国は、亜人が多く住んでいる。それも、人種問わず誰もが平等に、暮らしている。最低賃金ももちろん一緒だ。

 亜人の知り合いはいるけど、帝国の人間は一人もいないんだよなあ。


「止まれ」


 気づけば到達。ノープランで国境付近の検問所だ。

 黒い兜にボディアーマー。何か物々しい機械的な槍をクロスさせ、俺の侵入を防いだ。番兵としては完璧な対応に思わず感嘆の声を上げた。

 ゼラールの様な金貸しが横行してまかり通る王国とは違うな。帝国人は真面目て堅物だ。

 槍の前で首を傾げて、番兵の次の言葉を待った。


「ここを帝国の国境と知った上での違法通行が望みならば、槍の味を知ることになるぞ」

「イチゴの味でもすんのか?」


 素晴らしい速さで槍を回転させ、両サイドから逃れようのない突きが来る。

 速さ、反応、態度、対応、どれもこれも真っ直ぐで、俺の心の方が痛くなる。

 見えない斬撃はふたりの意志ごと、槍を寸断して見せた。ルダウに看破されたが、弱点破壊と併用することで、俺の斬撃は見えない癖に防げないバカみたいな代物に進化している。


 即座に俺を、帝国に仇名す敵とみなし、炎が迸る。

 切れた槍を熱で圧着し、逆に炎を纏わせ振りかぶる。

 力の差は分かっているはずなのに、本当に良い判断だ。従業員に欲しい。

 だけど――」


「火力が足んねえなあ。チャーハンも炒められねえぞ」


 炎を纏った槍を素手で掴み、引いて背中に番兵を捨てる。

 余った方は仲間を庇いつつ、低い姿勢で俺を牽制する。人としては正解だが、敵を殺すっていう強い気持ちがない時点で、もうダメだな。


「止まれ」


 騒ぎを聞きつけ現れた、同じく黒の鎧に赤いマントを羽織る数人の……番兵じゃなく、騎士か。

 白銀の剣を持ち、手足には黒く塗った機械式のアーマー。

物理的に腕力や脚力を底上げしつつ――


「いきなりだな」


 斬りかかってきた兵士の剣を脇から背中に通して腕を固めた。

 魔法か何かでそもそもの身体能力もブースト。面白い、ルダウたちをもってして戦争を停戦に持ち込んだまでのことはある。ただの兵士だけでこの強さか。

 すぐさま他の兵士が囲い、俺に腕を取られた兵士は逆に俺の肩を掴んだ。

 自分を犠牲に味方に止めを刺させる。

 最大の防御は何も聞かない上での速攻殺害。その判断は正解です。

 肩を持つ腕を逆にとって一本背負い。向かってくる中でやや速度の速い奴を逆にタックルで懐へもぐりこむ。

 体を盾にした状態で、集団から抜け出した。

 歴戦演舞。惜しかったな、お前たちの戦い方は、教科書通りで真っ直ぐすぎる。


「貴様、王国の冒険者か」

「また、S級を……今月で何人目だ」

「ん? それってどういう意味だ?」


 聞いた途端に帰って来たのはご機嫌な答えではなく、斬撃。

 俺のよりも、下手をしたら速いかもしれない斬撃が上から降ってきた。

 漆黒が、空から堕ちて来た。

 兜も、待とう貴族の様な服に、蝙蝠のようなマントも、左手に持つ剣も、全て黒。まるで夜空を切り取ったみたいな、そんな雰囲気の奴。


「いいじゃんか。雰囲気あるね、あんた」

「……黙れ」


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