表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
笑って酔おうぜ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/68

ヘボマスター

 ここへ来て勢いと鋭さが増した。攻撃の幅も広がり、体の使い方も上手くなった。

 伊達に戦争で活躍していたわけじゃない。頭脳派だと思っていたがそうじゃない。


「なあ、楽しくない人生って、どう思う?」

「いやです」

「そうだろ。だから、俺は、せめて周りが笑える世界を作りたいんだよ」

「なんでそれで、ダンジョンなんですか。まあ、確かに楽しい場所ってことは認めますし、人気があるのも間違いない」

「ダンジョンってさ、完成してんの? お前の中で」

「……ふっ、面白いこと言いますね」

「だろ? 俺って、笑いのセンスだけはあるんだよ」


 ぶつかり合う。

 スキルが歪められるとは言え、歴戦演舞で対人格闘ごり押しはこいつに通る。

 考えるのは止めた。もう、俺かお前が死ぬまで、世界一酔狂な殴り合いをしようぜ。

 笑って、酔おうぜ。

 べっ。


「不思議と、あなたと話していると笑えて来ます。悩んでるのが馬鹿みたいで」

「俺ってば、自己肯定感アゲアゲニキってこと?」

「かもしれない。あなたは、人が目指している目標を笑わない。笑ってしまうのは、あなたが目指しているものが見えない人だけだ。とんだピエロ野郎です」

「そうだぜ。ピエロはどんだけ泣いててもメイクが笑ってるんだ」

「あなたは、笑ってませんけどね」

「いいや、心が大爆笑だよ」


 戦いの終わりが見えてきていた。

 ルダウも対人戦と場数で鍛えただろうが、俺の背中に宿る英雄の魂には決して、届かない。

 かくいう俺もそれくらいしか攻め手がない。ここから先は、集中勝負。


「強すぎるスキルに見えますが、あなたは恐らく最弱スキルの部類ですよね」

「ああ。俺もたった一人の幼女を騙すために作ったスキルがあとでこんなことになるとは思ってもねえ」


 そう。俺のスキルは弱い。

 何故なら、契約しないと力が使えない。


「俺のスキル、契約スキルは契約するスキルだが、死んだ奴とも結べる」

「本当に、強すぎますよ」


 死者の魂と契約し、スキルを使う。トンボの精霊だって、ドラゴンに食い殺されるまでは空の覇者だった、らしい。こいつは意外とジョーク好きでモテそうだ。

 深化、深いところまで契約を行使すると、一定時間だけ実体を取り戻して共闘してくれる。トンボの精霊が一番強い。


「でもやはり解せない。最初にあのトンボさんをどうやって倒したか、もしくは、契約したんですか?」

「最初はトンボじゃねえよ。ちなみにトンボはゾンビアタックで殺した」

「何ですか?」

「782度の挑戦。781回死んで、根負けした魂と契約しただけだ」


 蹴り飛ばすと、管理室の穴からちょうど落ちていった。

 豪奢な作りのステージ。西洋風の洋館の廊下。さっきまでと趣が違う戦場。モブモンスターに襲われる中での戦い。

 誰も、邪魔できない。

 間に入ろうものなら刃の前に何も出来ず沈むだけだ。

 激戦、熱戦を越えて、あと一歩だけ、到達できない壁があった。

 こいつ……何かを待ってるのか? これだけ死闘を繰り広げているっていうのに、こいつからは必死さが伝わらない。

 何を待って……ああ、そうか。


「お前、仲間を待ってるのか?」

「……それだと、何か問題が?」

「いや、お前さ、戦えるタイプの指揮官だと思ってたんだよ。まさか、最後の最後で来るともしれない仲間任せとは思わなかった」

「……僕にも、信じてみたいものはあります。彼らにとって、僕は、命がけで守りたい、大切な物かどうか」

「面倒くさい奴だな、お前」

「あなたには言われたくありません」


 こいつと話していると調子が狂う。もちろん、攻めを潰されているのもあるが、変なところで甘いというか、不確定要素を入れ込んできている。

 理由はもうわかった。俺が信じちゃいない物を、平気で信じて待てるところが、こいつの強さだ。

 恐らく、俺とこいつの勝因を別つのは、たった一つだけ。

 運だ。


「よーう、随分と苦戦してるみたいじゃねえか、ヘボマスター」

「マスター、遅れたけど、まだ生きてるよね、死んでないよね」


 背中にかけられた言葉に、俺は間髪入れず腕を伸ばした。

 運を、掴み取るように。


「俺に力を寄こせ、馬鹿ドラーゼ」

「へっ、初めて俺を見たじゃねえか、おもろい物、見せてくれるんだろうな、クソアスヤ」


 ドラーゼの力、最適解を、契約スキルで使う。深化と同じだ。俺はドラーゼのスキルを、短時間だけ使うことが出来る。

 来い、夢幻の思考時間。答えを導き出せ、違和感全てを破壊しろ。

 最適解は俺が思った以上に、答えをあっさりと導き出した。こいつが一番チートだろ。


「スキルの無効化か」

「……鑑定系のスキルでも看破する前に無力化するはずなんですけどね」

「これは俺の頭脳が出した答えだ」


 スキルが無効化されるなら、スキルは使わない。手数で攻める。

 俺はルダウと違って、石橋は叩き壊して新しいレインボーブリッジ建てるタイプだ。

 無力化程度なら、もう恐れる必要もなければ、こちらの奥の手を奥に隠しておく必要もない。手前に、全部出してやる。

 これが、たった一日で王国三大ダンジョンが一つをクリアした力。


信頼契約(オールプロミス)。全てのスキルをぶつけて新しいものを作り出す技だ」

「……ごほ……見えない案撃、衝撃、触れた物の破壊、それ以上は、わかり、ません」

「複数に見えて実はたった一つなんだよ。スキルをぶつけてあらゆるスキルを無力化する斬撃を飛ばす。お前の無効と俺の無効が中和されて、残った斬撃だけが通った。運が悪かったな。俺の……仲間の方が強かったらしい」

「……そう、ですね。確かに運でしょう。まあ、戦略的にあなたが勝っただけの話ですが、勝った方の理論を推しましょう」


 よろめく、立ってられない状態のルダウ。

 俺は、何度目かな、とある感情が胸の中を埋め尽くすのを感じた。

 だからこそ、紙と、ペンを、差し出した。


「俺と来い。お前の力は、俺が使う」

「……親殺しで、戦争の英雄と呼ばれるほどの人殺しですよ」

「今まではな。それを言い出したらこのドラゴン族は誰彼構わずの辻斬りで、そこの赤いのは守護者殺しだし、俺はツッコみ殺しの違法ボケ職人だ」

「うっは……あ、ごめんなさい、分かってる。もう笑わないから、うん」

「あ、おばあさん落としましたよ、右えくぼ」

「ふっは、ごめ、もう、わかった、あっち行ってるから先やってて」

「楽しい雰囲気の職場です」

「俺は全く面白くねえけどな」


 今一度、手を差し伸べた。過去がどうかなんて関係ない。

 今のこいつは、仲間を信じる一か八かに出る程度に、変わろうとしている。


「でもいいのか? 俺ら、こいつの仲間をぶっ殺してんだぜ。ああそうだ、お前、ヘボマスターを一番近くで殺せる特等席だと思うぜ? ここは。俺と一緒に寝首をかこうや。もちろん、俺を殺したきゃそうしろ。誠心誠意ぶっ殺してやんよ」

「あ、あーしは……その、出来れば、平和が良いかなって」


 馬鹿どものアシストを受けて、よろめいていたルダウは、鎌を落として壁に手を付いた。

 武器を、捨てたという意思表示。それだけで十分、答えを貰うことは出来た。


「そうですね、あなたの楽しいを、一番近くで見て、美しく出来上がったものを、最高のタイミングでぶち壊したいですね」

「やってみろ、ウニ頭野郎」


 ルダウがゆっくりと手を伸ばした瞬間――


「青春ごっこは、もう良いか?」


 ゼラール――

 不意に現れたゼラールが、ルダウの腰元にナイフを突き立てた。

 ルダウの口の端から血が流れ、目から光が、消えていった。命の灯が、消えていく。

 対するゼラールの瞳には、最初から光なんてありはしない。

 全く悪気なさそうな顔をしたゼラールはナイフを拭いた。ルダウの、服で。


「目撃者は、これだけだ。悪いが立ち去ってもらおうか」

「こーいつ、クズ野郎だな。どーするよ、殺すか?」

「あーしも、いい気は、しないよ」


 覇気すら纏い始めた二人を片手ずつで制して、俺は踵を返した。

 本当に、笑えないし、下らない。いつもいつも、俺の邪魔をする。最初に会った時もそう。

 金を借りた時も、馬鹿みたいに利子は高いし契約書と金額違うし、舐められてるとは思っていたが、やりすぎだ。

 金の切れ目が、縁の切れ目だぞ、ゼラール。


「運営側が帰れって言ってんだ、帰るぞ、お前ら。ゼラール、金は渡したぞ。次ちょっかい出したら、殺すぞ」

「やってみろ、ダンジョンマスター。もう、俺様もお前に用はない。ここまで滅茶苦茶にしてくれて、ありがとう。お礼にあとでアップルパイを送ってやる」

「果肉は多めでな」


 急に、興味を無くした……いいや、あいつも所詮は営業マン、会社の方針には絶対ってところなんだろうな。

 久しぶりに疲れたな。あーあ、金貸してくれるところ、探さないとな。俺のダンジョンプランはまだ、もう少しお金がいるから。

 首を鳴らすと、ボロボロになったドラーゼとユイアの姿が見えた。こいつらそういえば、良く勝ったな。


「おい、クソアスヤ。手前、俺らが死んでも生き返らせるからいいやと思ってたろ」

「だとしたら?」

「下らない、マスターの考えを、あーしらに課した壁を、越えてやったよ。どうだ!」

「……ったく、馬鹿だな、お前ら」


 疲れてるからか、笑っちまった。

 契約を破棄するチャンスは渡した。それでも俺についてきて、何も言わずに、巻けたばかりの相手と対峙して勝った。

 課したつもりはない。ドラーゼの言う通り、死んでなければ俺は完璧に蘇生できる。死んでも、まあ無茶すればどうにでもなる。

 越えて来たこいつらを、どこまでも背中を追ってくるこいつらを従わせるために、俺は越えさせるわけにはいかない。

 もっと、強くならなくちゃいけねえよな。


「わらった! 良かったぁ、最近元気なかったからさ、これで一安心」

「飯食って、風呂入ればどうにでもなんだろ。てか、留守にして大丈夫なのか? メイドとダメ妖精しかいないんだろ?」

「大丈夫だろ。メルフィに俺は全幅の信頼を置いている。あいつのスキルがこの世で一番馬鹿だ」


 帰ろう。まさかダンジョンの問題がダンジョン外で解決するとは思わなかった。

 これじゃ本当に、あいつの言う通り、俺はヘボマスターだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ