速すぎた反撃
「失敗したという解釈で良いんだな? ルダウ」
王国三大ダンジョンが一つの管理室でモニタを眺めていたルダウは溜息を吐いて見上げた。
つい最近、三大ダンジョンをあっさり一日で失い、損失を補填するために小さなダンジョンの攻略を依頼してきた悪党の顔がそこにあった。
怒っているわけでもなく、かといって焦っているわけでもない。錯乱状態なのかと心配になる程だった。
リクライニングを起こして、薄暗い管理室で明滅する数多くのモニタを見ていた。
「おい、聞いているのか」
ルダウの不遜極まりない態度に耐えかねてか゚、ゼラールはデスクを強く叩いた。
「聞いていますよ。別に、失敗って訳じゃありません。あなたからもらった情報では、ドラゴン族のドラーゼ、後は低級冒険者のユイアしかいないという情報でしたが、こちらのS級を片手で屠る逸材がいました。戦略的撤退です。むしろ、アレだけの豪傑を見過ごしていたんですか?」
「分かってないな。奴は馬鹿だ。何を隠しているのか、俺にもわからん。だからこそ金のかかるお前を雇ったんだ」
「あなたの目的は、あのダンジョンを手に入れることであって、別に彼の暗殺ではないのでしょう?」
「殺せるもんなら殺してほしいって言うのが正直なところだ」
一々喋る度に動きが大きく、ゼラールと話すことに疲れていたルダウは大きくため息を吐いた。
「こちらもふたりやられています。ビジネスならお互いある程度の被害は理解された方がよろしいかと」
「ほう。ビジネスと来たか。では、お前は、今すぐ! 俺様の望み通りの、結果を出せ!」
「大丈夫です。威圧と牽制は終わりました。もう1人の謎メイドの強さも大方把握しました。次のアタックまでの時間でどの程度準備できるかも把握済みです」
ルダウにして見れば、ソレドラスとヴィアンと言う隠し玉さえあれば、そもそもこんなにも綿密な計画を立てる必要もなかった。
そのはずが、逃げ帰る結果になってしまった。
管理室を抑えたまでは完璧だった。
管理室へ帰って来たのは情報に会ったヘボマスターじゃない。
まさに、悪鬼だった。彼はその気になれば、その場でルダウを殺せていた。
だが、やらなかった。まるで、自分が手を下すことをあえて嫌うように。
ルダウに美学があるように、ダンジョンマスターアスヤにも美学があるようだった。
見て見たくなった。あの場で思い知らされた。自分たちは、圧倒的なまでの挑戦者であったことを。
初めて精神的に敗北したのだった。
「把握しているだと? なら、ありがたいS級冒険者を補充するなりなんなりしたらどうだ。俺からしてみれば、子どもが駄々を捏ねているようにしか見えないんだよ。ママに宿題をするよう叱られている、ガキにな」
言いえて妙で思わず笑ってしまった。
確かに、今、駄々を捏ねているのは間違いない。ルダウは自分の頭に絶対の自信を持っていた。
これまで多くのダンジョンを攻略して来た時も、そしてこれからも、自信は揺らがない。
ただ、美しいものを見ると、最初からぶち壊したくてたまらなくなってしまう。
だから、追撃に最適なタイミングをあえてずらして全力で破壊しようとしている。
細工も仕掛けも謀も、どれもこれも砕いて最後に見下ろされるというのならそれでも構わない。
だが、アスヤの命が消える瞬間の光を、見たくて見たくて、溜まらなかった。
「……そうですか、あなたの方から、来ますか。ダンジョンマスターアスヤさん」
「馬鹿な……こいつら、全員でダンジョンに乗り込んできやがったのか」
モニタが映した入り口の映像には、アスヤ率いる一行がきちんと参加料を払っている姿があった。
椅子から腰を上げて、ルダウはモニタを注視した。
「いいえ、全部って訳じゃないでしょう。恐らくあのメイドの子は残してそれ以外で攻めて来たようです」
「だったら、留守の内にダンジョンを攻略してしまえばいい。ここは私に任せて、お前は攻略に行け」
「少し、黙っててくださいよ、楽しくなってきたところなんです」
「お楽しみの時間は、終わりでいいか?」
モニタの奥、カメラへ向けて笑顔を向けたアスヤは次の瞬間……管理室をぶち抜いて、画面の奥のルダウの前に現れた。




