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ダンジョンマスターはじめマスター  作者: 聖音ユニア
笑って酔おうぜ

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11/68

激突

 やべ、寝そうなほど、集中力が死んだ。

 しかもここ、気温と湿度が高くて暑いし喉も乾いた。

 汗を吸った服を脱ぎ捨て、俺はいよいよ真剣にモグドラの攻撃を避けなくちゃいけなくなった。

 無理な手段で倒そうとした結果、数時間の時が過ぎた。


「ほんっと、お前も体力は無尽蔵だな」


 当たり前だけど、人間とモンスターとでは体力の限度が違う。あいつ、あの巨体をこんなに動かし続けるなんて、代謝が良すぎる。

 何度も掘ったせいでこの辺ボコボコだし、モグドラの攻撃も単調になってきた。

 疲れている、か。

 何度も、何度も、無理と困難にぶつかれば、ノックを続ける。

 空かないと思った扉も、鍵がかかってんのか錆び付いてんのか、はたまた居留守を使われているのか。

 何だって構わない。挑戦は、平気な顔して何百回も裏切って来る。

 だから、バカみたいにノックを続ける、挑戦を続ける。その姿勢、姿に満足はしない。結果が伴えば、バカも天才の策略に化けやがる。

 感謝する、ゼラール、敵ながら、お前の姿勢は嫌いじゃねえ。


「272回だ、俺の挑戦は」


 砕け散る――

 モグラドラゴンの堅牢な盾が、砕け散る。

 無駄だと分かっていても、その先に成功があるのなら、俺は何度だって挑戦する。

 今回は運がよかった。たったの、272回の挑戦。

 同じ場所を常に傷つけることによって、ノックし続けることによって、扉は開いた。


「楽しそうなことしてんじゃん、ヘボマスター」


 だが、俺の挑戦をあざ笑うかのように、縦穴を降りて来た馬鹿ドラゴンが一撃でモグラドラゴンを屠りやがった。

 あいつの足には1億ドルの価値があるなホントに。最近、戦闘経験を積んだせいか最初に会った時よりも強くなってやがる。

 厄介だな、経験を積み、思考回数と試行回数が乗算されるせいで最適解が純度を増した。


「なあ、俺さ、なんで、ずっとお前の下なんだろうな」

「負けたからだ」

「一回はそうだな。だが、今同じことをして、俺はお前に負けんのかな。最初に言ったな、俺を楽しませれねえなら、殺すって」

「楽しくないか? ダンジョンの守護者は」

「ねーな! 穴ぐらで雑魚を蹴散らしても、俺の目的は果たせねえ! 俺の渇きも癒えやしねえんだよ、なあ、ヘボマスター!」


 小ジャンプ。俺の頭を狙った側頭馬鹿速度蹴り。

 腕で防ぐと同時に体を回して回転。衝撃をいなしつつ、片手をついて足を狙う。

 払う俺の足を最速で押し潰す蹴りを放つが、ここまでは想定内。

 払う足の裾を片手で掴んで急停止。まるでブレイクダンスの一幕みたいな格好になったが、これで良い。

 ブレーキで擦り付けた足で立ち上がり、下手な体勢から拳を打ち付ける。

 これを上からの打撃で完璧に封殺し、両者、一度距離を取った。


「はっ、ヘボマスター、俺はもう、お前に負けねえ! こいよ、全部出してこい!」

「雑魚狩りで気が大きくなったか? 馬鹿ドラゴン。尻尾切ってやるから逃げろよ雑魚が」

「ぴきーん、からの、ぶっころ!」

「やってみろって言ってる!」


 見えない斬撃を飛ばして距離を稼いだ。貧乏なことだ、俺はこうでもしないと考える時間を捻出できない。

 見えない斬撃はある程度の射程距離がある。逆に間合いに入りすぎると俺ごとやられる。

 最適解を叩き出す奴は無限の思考時間の中で、俺だけ死んで自分はいくらでも回避可能な、絶対的な領域で張ってやがる。

 まるで「やってみろ、だが殺す」とでも言ってるようだな。

 現状、見えているカードでは俺は完全に後手。小規模の回復手段があり、なんなら信じまっても生き返る俺の方が継戦能力が高いように思えるだろう。

 だが、回復は即死には何の意味も持たない。逝き返りも無条件で使えるわけじゃない。

 となると、受けが限られている上に攻めても欠いている俺がやや不利。

 誘ってるわけか、馬鹿ドラゴン。


「お前の全部見せてみろ、じゃねえと俺はもう、お前の下で働く理由がねえんだよ、ヘボマスター!」


 楽しそうに、笑いやがるな、このバカは。

 俺がこいつを従える絶対条件は、契約なんて俗っぽいもんじゃない。

 こいつの……ライバルで居続けることだ。

 ならば見せなければなるまいな、俺は最大の身内も笑顔にできないようじゃ、この世界を笑顔で溢れさせることなんて出来やしねえ。

 べっ。


「はっ、らしい顔つきになったじゃねえか、お前の、なんだっけな、ボケだかギャグたかは笑えねえが、戦いは、おもしれえ!」

「まさに次元が違うんだよ、俺の笑いは。まあ良い、お前を一瞬で笑顔にさせてやる。逝き返り、治癒増強、見えない斬撃。これは俺のメインプリセットだ」

「お前、俺相手に手でも抜いてたってか?」

「だからおめかししてやろうって言ってんだ、デート用にな、お嬢さん。エスコートされるのはお好きかな?」

「優しくしてください!」


 契約スキルの本懐を教えてやるよ。

 お互いに飛び出す――

 奴が戦闘の初っ端で見るのは、俺の動き全て。呼吸からか体の動き、指先ひとつ、スキルの前情報、全てから最適解を導き出す。

 だが、俺とお前は相性が悪い。俺のスキルは、今までのスキルとは全く関係がない。

 攻勢に出ない俺にしびれを切らしたか、ジャブ程度の瞬殺蹴りを放つ馬鹿ドラゴン。

 足の起こりを掌で止めて、横腹を蹴り飛ばした。

 初手の一撃で、骨が嫌な音を上げて馬鹿ドラゴンの顔が苦悶に歪む。


「種明かしだ、バカが。歴戦演舞、伝説の戦士の戦闘データを蓄積し、反映させる。俺の思考に合わせた戦い方に体が自動的に動く。そして、弱点破壊。少ない力でウィークポイントを破壊出来る。あと一つあるが、それはそうと、歴戦演舞は使い続けると使ってなくてもある程度体に染みつく。契約スキルの副産物、時効さ」

「ああ? 手前、俺のスキル分かってんのか?」


 若干の不機嫌さ、鋭い瞳を向けながら、長い手を腰に当て、長い脚で地面に立つ。

 最適解スキルは分かったところで攻略できるものじゃない。攻略しようと思ったら、やることはたった一つ。マジで本気で情報を与えない事。

 少しの動きからも洞察されるからこそ、スキルの詳細を口にするのは馬鹿のやること。

 知ってるよ。

 知った上で俺が自分のスキルの詳細を話した理由は、ただひとつ。それは奴も分かってる。


「挑戦してこい、馬鹿ドラゴン。笑って、酔おうぜ」

「一人で酔って絶頂してな、ヘボマスター!」


 近接戦闘、それも1on1でこいつを倒すのはほぼ不可能。

 だが、圧倒的な戦闘経験と、筋力強化。触れることさえできれば俺に分がある。

 分があるだけで、どうって話でもない。

 お互いに一定の距離を取り合い、奴の動きをトレースする。

 蹴りが必殺級だがそもそも手足のリーチが長いせいで接近戦は奴の庭。

 かと言って、遠くからちまちま魔法なりスキルなりで攻撃するのは、おもんない。

 ここは――


「へっ、これは」

「痛み分けだな」


 クロスカウンター。お互いの頬を抉り合った殴り合い。

 防御も回避も捨てた、ただの殴り合い。

 血が飛び、肌が切れ、思いの欠片も乗ってない無機質な拳が互いをひたすら打ち付ける。

 戦術を捨てた俺に最適解が導き出したのは、我慢比べ。笑える選択肢だ。

 俺とお前の体力、どっちが上か、それだけの話し。


「どうした、戦闘プリセットってのは、そんなもんかよ!」


 無理やり拳で開いた隙間に蹴りを打ち込まれる。

 がら空きの防御に最大の火力を打ち込まれるが、そこは俺の天然腹筋が守る。

 死した英雄の純粋な戦闘力の高さから生み出された戦術が今の俺の中にはある、

 その上筋力増強。正面から、言ってのける。

 お前の力じゃ、俺は倒せない――

 捉えた、はずだった。

 勝利を確信した俺の拳を、奴は体を捻って空中で見事な回転。

 いなすと同時に腕を奪ってヘッドバッド――

 あぶな……一瞬、意識が持ってかれるところだった。ぐらついた思考を覆すように、奴はさらに頭を両手で掴む――

 やらせない。

 咄嗟に肘を挟んで弾いて膝を腹に打つ。

 すかさず超反応が掌で受けとめられ、バカみたいに手を軸に半回転、俺の後頭部を脚先で狙いやがった。

 この土壇場、空中戦でこいつ……最適解を見つけた?


「墜ちろ、ドラゴンメテオ!」


 避けきれない。完全な詰み。

 俺が狙ったのは最適解のミスリード。

 最適解が導き出した答えに向けてカウンターを放つ。それで終わりのはずだった。

 なのにこいつ、超えてきやがった、この土壇場で……最適解を無視して自分で選び取りやがった。

 挑戦を踏み抜いて、困難な壁を越えて、夢幻の思考から自動で出力される答えを拒絶。

 さらに自分で思考してセンスで選びやがった。最適解の限界を……天才が。

 敗北――

 目の前に突きつけられた現実。迫りくる、奴の足。

 耐え難い威力と、回避不能な天才的速度。これは直撃したら死ぬ。

 この間とは違う。勝つための死と、奴の勝利を決定づける死。全く、別物。

 奴を得るための死と、奴を喪う死……そんなもん、おもしろくも、なんともねえ。


「戦闘プリセット……最後の一個を教えよう。名前は、見えない斬撃(セイクリッド)だ」


 見えない斬撃だったものが、奴の足を、捉えた。

 黒い腕が伸び、ドラゴンメテオが不利抜かれる途中で足首を掴み、止めた。

 黒い巨躯に四枚の羽根。六つの瞳を持った筋骨隆々の人型モンスター。


「最速の昆虫を知ってるか? それはな、トンボだ」

「手前、プリセット被ってるじゃねえか……ヘボマスター」

「手数も手札も本心さえも、見せないのが勝利へのカギだ、馬鹿ドラゴン。んじゃあ、墜ちろ」


 最後の一撃は俺の足。挑戦はしっかりと、叩き落としておかないといけねえよな。


「こうやるんだったか? お前の技術。これは防御用プリセットだが教えてやる。鏡面反射」


 ドラゴンメテオ――

 竜が、墜ちる。

 地面を抉り、噴き出す、暖かな、癒しのお湯。温泉。

 ああそうだ……そういや、俺って今……温泉、掘ってたんだよな。


「汗流すか、バカドラゴン。俺の故郷じゃ、傷も色々治る効能があるんだ」

「……あー、そうだな、ヘボマスター。疲れちまった。また、遊ぼうや。お前を俺が、ぶっ殺すその時まで」

「やってみろ、バカ」


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