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アディントン王国の王宮にて

数週間後アディントン王国 王宮


 だまされた。


 チャーリーは嘘つきである。


 なにが王家の遠い遠い遠い遠い遠い親戚よ。


 めちゃめちゃ王族の一員じゃない。


 祖国から立派な馬車で連れてこられたのは、ウイルクス帝国の帝都よりずっとずっと立派な王都で、皇宮よりもずっとずっとずっとずっと立派な王宮だった。


 チャーリーは、王子だった。


 厳密には、王子であり外交官である。


「おれは、いわゆるお手つきの子でね。現国王の若かりし頃の過ちの結末ってわけ。はやくにして亡くなった母は、王宮の下級侍女だった。だから、王子とは名ばかりさ。ほら、書物だけでなく現実でもよくあるだろう? 正妃や身分の高い側妃やその王子王女たちから蔑まれるとか虐められるとか。あるいは、無視されるとか認められないとか。おれは、そういう存在なんだ。だから、国王も含めすべての王族は遠い遠い遠い遠い遠い存在さ」


 チャーリーは、問い詰めるとあっさり白状した。


 だけど、まあ彼の言うことはわかる気がする。


 わたしの祖国ウイルクス帝国の現皇帝は、側妃を置いていない。というのも、正妃の実兄が宰相として権力を握っているから怒らせるようなことをしなかったから。


 しかも、正妃は男児一人しか産まなかった。というか、産めなかった。


 それが元婚約者にして愚か者のブラッドフォードである。


 あんなのが皇太子でいられるほど、いまのウイルクス帝国は平和で無関心状態。


 それにくらべれば、チャーリーの置かれている状況が気の毒でならない。


 だから、口ではブーブー言ったもののだまされたことは水に流すことにした。



 王宮内のほとんどの人は、妻として突如現れたわたしを見ても驚かなかった。


 というか、あまり関心がないようだった。


 まあ、いいんだけど。


 最初から悪目立ちすぎてもよくない。徐々に悪女っぷりを披露すればいい。


 というわけで、まずは異国の王宮での生活に慣れることから始めた。


 あてがわれた部屋は、チャーリーの寝室の続き部屋だった。


 文字通り身ひとつで嫁いできたわたしは、衣服の一枚も持っていない。勘当された身である。屋敷に自分の物を取りに行くことも出来なかった。


 それはともかく、部屋には大きなクローゼットがあり、すでにそこに公式の場で着用するドレス、普段着用するドレスを始め、シャツやスカートや靴や装飾品等、すでに数えきれないほど準備されていて驚いた。


 ランダムに試着してみたけれど、まるであつらえたかのようにピッタリなので余計に驚いた。


 ドレッサー、姿見、立派な机に椅子、長椅子にローテーブル。バルコニーにはテーブルと椅子のセットが置いてある。もちろん、お風呂とトイレもある。そして、圧巻なのが壁一面の本棚。専門分野の参考書からいま流行りの小説という書物まで、じつに多種多様な本がびっしり並んでいる。


 これは読みごたえがありそう。


「大聖母」として、宮殿の「祈りの間」にこもって日中祈り続けていたので、大好きな読書の時間はほんのわずかしか取れなかった。だけど、いまからは充分時間が取れる。


 たくさんの本を見ただけでもテンションが上がる。


 専属の侍女や執事までいる。


 しかもウインザー公爵家の使用人たちと違い、やることはちゃんとやってくれる。悪女らしく不愛想かつエラそうに接しているけれど、彼女たちはめげずにこちらの要望に応えてくれる。


 一応王子の妻だから、言うことをきかなくては、というのもあるのかもしれない。


 それでも、すくなくともわたしへの態度は驚くほどいい。


 内心、うれしくなってしまう。


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