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チャーリーを問い詰めよう

 ジャニスとカイラが就寝の準備をしてから、「おやすみ」の挨拶をして出て行った。


 今夜こそ、チャーリーに尋ねるのよ。


 今度こそ、かたい決意は揺るがない。はず、である。


 自分のこの不安感やモヤモヤした気持ちはさることながら、これ以上周囲をだまし続けていることに疲れている。チャーリーの愛する人に交代するのなら、いまの立場を引き継ぐのならすこしでもはやい方がいい。


 それは、わたしに為にするのではない。チャーリーの愛する人にとっても、その方がいいに決まっている。


 悲しすぎるし、正直嫌だ。しかしわたしが新しい人生を進むには、一歩を踏み出すには、チャーリーにはっきり「さよなら」を告げてもらった方がいい。その方が覚悟が出来る。


 だからこそ、今夜こそは彼ときっちり話をして問い質すのよ。


 その勇気と覚悟を持ち、チャーリーの部屋へと続く扉をノックした。


 昼間、チャーリーの愛する人と思い込んでいたのが、じつは彼の同腹の妹のイザベルだったということがわかったばかりの日の夜のことである。


 彼は、意外にも素直に応じてくれた。


 主寝室に入ると、彼は長椅子に座るよう言った。


 長椅子に座ると、葡萄酒とグラスが二つ準備されていることに気がついた。まるでわたしがやってくることがわかっていたかのように……。


 困惑しているわたしをよそに、彼はそれぞれのグラスに葡萄酒を注いでその内の一つを手渡してくれた。


 そうして、それぞれのグラスを打ち合わせて乾杯をした。


 口中に広がる味は、あいかわらずなんと表現していいかわからない。美味しい、ということくらいしか。


 グラスをローテーブル上に置いたタイミングで、口を開いた。というかズバリ尋ねた。


 そうしないと、また気が挫けてしまうかもしれない。


「チャーリー、あなたの愛する人ってだれなの? そろそろ周囲にほんとうのことを話さないと。というよりか、もうずいぶんと周囲をだまし続けているわ。陛下や妃殿下をだまし続けているのよ。いったい、どうするつもりなの?」

「ラン、ちょっと待ってくれないか。いったいなんの話をしているんだ」


 彼はグラスをローテーブル上に置いてから、慌てて尋ね返してきた。


「契約結婚のことよ。偽装結婚だったかしら? とにかく、わたしたちはほんとうに結婚しているわけではない。あなたにはほんとうに愛する人がいて、わたしはその人に妻と王太子妃の座をバトンタッチする為、土台を築いている。そのことをよ」

「なんだって?」


 彼は、わざとらしく絶句した。


「おれたちが契約結婚だって? きみは、おれたちの関係をそんな薄っぺらなものだと思っているのか?」

「はいいいいい? あなた、最初にわたしに持ちかけてきたわよね? 『契約結婚しないか』、そんなふうに。あら? 『偽装結婚しないか?』だったかしら? とにかく、すくなくとも『愛している。結婚してくれないか』というよくあるプロポーズの言葉ではなかった。というか、あなたのほんとうに愛している人に対しても不誠実だわ。彼女をよくこれだけ放っておけるものよね」

「ちょちょちょ、ちょっと待って。おれの愛する人ってなに? いや、たしかに言ったよ。最初にきみに言った。だが、あれはきみを誘う為だった。そうだ。ああ、なんてことだ。すっかり忘れていた。きみとの関係がすっかりいいものだとばかり思いこんでいたから、きみもおれにすこしは興味を持ってくれているのだとばかり……。そうか。きみは、おれのことをなんとも思っていないんだね?」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ。どうしてそんな解釈になるのよ。あなたこそ、愛する人がいるでしょう?」

「愛する人って、その意味がわからないよ」


 彼は、美しすぎる顔を左右に振った。


「そんな人、いるわけがない。いや、間違いだ。たしかにいる。この世でただ一人、愛する人が」

「ほら、その人よ。その人のことを言っているのよ。それがだれなのって尋ねているの」


 いよいよだわ。かなりかみ合わなかった気がするけれど、なんとかききだせそう。


「きみだよ」


 彼が言ったことをきき逃してしまった。一瞬のことだったから。


「きみのことだ」

「はいいいいいい?」


 きみ? チャーリーの愛する人がきみ?


 きみって、わたしのこと?


 彼の愛する人って、わたしのこと?


 いったいどういうことなの?


「ちょ、ちょっと待ってって。『きみ』って?」

「『きみ』って、きみのことだよ、ラン。ラン・ウインザー公爵令嬢。いや、すでにラン・ラザフォード王太子妃殿下だね」

「なぜ? なぜわたしなわけ? あなたの愛する人がわたしって信じられない。チャーリー、嘘よね? 冗談よね?」


 チャーリーは、これみよがしに溜息をついた。


「こんなこと、嘘や冗談で言うわけないだろう? すまない。そもそもおれがちゃんと伝えなかったことが悪かった。きみにどうしてもいっしょにアディントン王国に帰国して欲しくて、おれに興味を持って欲しくて、つい『契約結婚』などという言葉を出してしまった」


 彼は、立ち上がるとローテーブルをまわってこちらにやってきた。そして、ストンと隣に座った。


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