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チャーリーの愛する人が現れた

 この日、わたしは最大のピンチに遭遇した。というよりか、最大かつ最悪な状況に陥った。


 ついに対決することになったのである。


 例のレディが、つまりチャーリーの愛する人が乗り込んできたのだ。


 この日もまた、執務室で慌ただしくランチをとっていた。


 最近、ランチについてはまともに食べる時間がない。執務室でサンドイッチやスイーツを頬張る程度。それでも、大満足である。忙しいことはいいことだから。


 それはともかく、サンドイッチを頬張っていると、王太子の補佐官であるチェスター・ウオーターハウスがやって来た。彼は、チャーリーの子どものときからの唯一の親友らしい。その可愛らしい童顔は、抱きしめたくなるほどである。背丈も可愛らしく、本人はかなり気にしている。


 ウオーターハウス家は伯爵家で、彼は三男。しかも彼の両親はありえないほどお人好しらしく、親類や友人の借金の肩代わりをしたり、だまされたりして没落しかかっているというから驚きである。上の二人のお兄様は優秀らしいけれど、どちらも両親以上にお人好しらしく、官僚としてキャリアを積んではいるけれど経済的にはかなり苦しいとか。


 今回、チャーリーはチェスターを補佐官に抜擢し、おおいに手助けしてもらっている。しかし、実家の借金の返済等はまだまだ続くらしい。


 そのチェスターが慌ただしく報告した。


 チャーリーにどうしても会いたいと面会を求めている人がいる、と。


「断ってくれ」


 チャーリーは、きっぱりすっきりはっきり言った。


「断りました。が、きいてくれるわけがありません」

「きいてくれるわけがない? きかせるべきだ。違うかい、チェス?」


 チェスは、チェスターの愛称である。


「チャーリー、やめてくれよ」


 チェスターは、可愛らしく頬を膨らませた。


 わたしたちだけのとき、彼はざっくばらんな態度をとる。


「近衛隊だって彼女を止めることは出来ない。知っているだろう?」


 チェスターの「彼女」という言葉で、面会を求めているのがチャーリーの愛する人なのだと知れた。


「ああクソッ、勘弁してくれ……」

「チャーリーッ!」


 その瞬間、執務室の扉が力いっぱい開けられた。


 その凄まじい音で、おもわず飛び上がってしまったほどである。


「チャーリー、チャーリー、チャーリー、ねぇまだなの? チャーリー、きいているの? この前、もう待ちきれないって言ったわよね? どれだけ待たせたら気がすむの?」

「イ、イザベル? いったいどういうつもりだ? いいかげんにしない……」

「それはこちらの台詞よ。嘘ばっかりついて、もっと誠意をみせてくれてもいいじゃない」

「だからそれは……」


 とんでもないことになってしまった。


 こんなところに乗り込んでくるなんて……。


 いてはいけない。とりあえず、ここにいてはいけない。


 長椅子からそっと立ち上がった。さりげなく執務室の外に出ようとすると、同じ考えらしいチェスターもじりじりとうしろに下がりつつある。


「待て、待ってくれ。二人ともいてくれ。おれを一人にしないでくれ」


 チャーリーに気づかれてしまった。


 チェスターもわたしもその場に固まってしまう。


「なんですって?」


 驚きの声とともに、チャーリーの愛する人がこちらを振り返った。


「やだ。気がつかなかったわ」


 そして、わたしを見て言った。


 いえ。いくら小柄でも見えないほどではないのですが。そんなわたしに気がつかないってどういうこと?


「もしかして、あなた? ねえ、あなたなの? あなたなのよね?」


 彼女はズカズカと近づいてきた。


「なんてことかしら。まさかこんなところで会うなんて」


 しかも両腕を上げ、わたしを叩こうとしている。いいえ。殴ろうとしているかもしれない。


 たしかにそうされても仕方がないかもしれないけれど、初対面でいきなり物理的な攻撃って……。


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