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いよいよ大恥をかく

 披露宴というのは、あくまでも建前。だれもチャーリーとわたしの結婚を祝おうという気持ちは持っていない。それどころか、わたしたちの存在を認めてさえいない。


 第五王子であるチャーリーは、王子たちの中では一番優秀である。それは、すべての面においていえる。だからこそ、外交という大切なポジションにいるし、実際様々な国々に出向いてやり手の外交官や官僚や王侯貴族たちを相手につねに優位に立てている。


 他の王子たちといえば、王宮でちょっとした政務に携わっているだけである。たとえば簡単な問題が解決する認可をするだけとか、書類に印を押すだけとか。

 たしかに、祖国の元婚約者ほどバカで愚かな王子はいない。というか、元婚約者ほどの愚か者は、古今東西どこの国を捜してもそうはいないに違いない。


 それはともかく、他の王子たちより優秀で王太子になってもおかしくないのがチャーリーなのに、その存在を認めてもらえないというのが現実。その妻のわたしに関しては、ただのいじめといびりの対象でしかない。


 いずれにせよこの披露宴は、わたしたちに「大恥をかかせる」だけのもの。


 だったらいっそ期待通り「大恥をかきましょう」といきたいところだけど、悪女としてはそんなサービス精神を発揮するわけにはいかない。


 というわけで、いま、チャーリーとわたしは大広間の大扉の前で二人並んで立っている。


「ラン……。なんと言っていいか、その、とにかく、とにかく美しいよ。いや、いつもは美しいというよりかは可愛いって感じだけど、今日のきみは最高に美しい」


 大扉の前でチャーリーと向かい合った瞬間、彼が感極まったように言った。


 正装姿の彼は、いつにも増してキラキラ輝いている。そのまぶしさにも慣れてきているとはいえ、やはり目がチカチカしてしまう。


「チャーリー、あなたこそキラキラ感が半端ないわ。だけど、ありがとう。そういうことを言ってくれて、素直にうれしいわ。おそらく、あなたが準備してくれていたこのドレスのお蔭ね。それと、ジャニスとカイラのメイクと髪のセットのお蔭かしら」


 いつもの恰好と違い、チャーリーが準備してくれていたドレスの中でも一番派手でセクシーなドレスを選んだ。それから、ジャニスとカイラがメイクと髪をセットしてくれたのである。


 メイクは、ふだんいっさいしない。「大聖母」のときは、そもそもメイクじたいよろしくなかった。だってそうでしょう? 聖女が真っ赤な口紅や頬紅をつけたり、睫毛がパッツンしていたりする?


 ここにきてからも、いっさいしなかった。顔になにか塗ることが好きではないということもある。


 だけど、今夜はそうも言っていられない。


 ジャニスとカイラは、口は悪いし態度はでかい。だけど、最高最強の侍女である。ふつうの侍女がしないことでもやってくれる。したがって、ふつうの侍女がするメイクや髪のセットはお手のものなのである?


 あっという間に作ってくれた。


 そう。それはもう画家が肖像画を描くかのように、わたしをまともなレディへと変身させてくれた。


 そこにこのド派手でセクシーなドレスである。


 オレンジ色のドレスは、小さなわたしでも多少は大きく見せてくれる。というか、膨張色だから太って見えるかしら。とにかく、胸のカットも大胆なデザインのこのドレスは、今夜の勝負ドレスにはピッタリなはず。


「妃殿下、ほんとうにお美しい。わたしは、あなたの執事を務めさせていただいて鼻が高いです」


 ジャニスとカイラとともに立っている執事のロビンまで、そんなわたしの変身姿を褒めてくれた。


「胸パットを何枚も重ねないといけませんでした」

「五枚だっけ?」

「六枚よ、カイラ」

「ちょっとあなたたち、やめてよ。そんな報告、必要ないわよね?」


 ジャニスとカイラがいらないことを言うものだから、おもわず苦笑してしまった。


 チャーリーとロビンも笑っている。


 すこしだけ緊張していたみたい。


 二人が冗談を言ってくれたお蔭で、って冗談よね? とにかく気持ちが少しだけラクになった。


「ラン、何度も言うよ。きみは美しい。見た目だけでなく、内側も。おれの自慢の妻だ」


 チャーリーの真剣なまなざしに、胸の辺りが痛んだ。


『おれの自慢の妻だ』


 この言葉は、わたしではなくあのバラ園の東屋で見たレディに送られるものである。


 契約妻、かりそめの妻であるわたしにではなく。


 わかっている。そうとわかってはいるけれど、わたしに送られた言葉だったらよかったのに。そう思わずにはいられない。


「バカね、チャーリー。そんな言葉は、ふさわしい人に言わなきゃ」


 出来るだけ笑顔にしつつアドバイスしたけれど、ちゃんと笑顔になっていたかどうかはわからない。というか、自信がない。


「さあ、行きましょう。大恥をかかされにね」

「……。ああ、そうだね」


 肩を並べると、チャーリーが自然な動作で腕を差し出してきた。その腕に自分のそれを絡める。


 そのタイミングで大扉が開いた。


 いよいよである。


 気合いを入れ直し、一歩踏み出した。


 チャーリーとともに。 


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