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愚か者のいま

「ラン、いよいよ明日だね」


 いよいよ明日、わたしは公の場で大恥をかくことになる。


 夕食後、今夜はチャーリーの部屋で寝る前の一杯を楽しんでいた。


 ローテーブルの向こう側でグラスを傾けているチャーリーは、今夜もキラキラ輝いている。


「ええ、そうね。明日は、わたしが大恥をかく日ね」


 わたしもグラスを傾け、さっぱりとした白葡萄酒を一口飲んだ。


 この白葡萄酒は、辺境伯が手土産にと持たせてくれたのである。


「ラン、それは違う。おれたち二人で、だろう?」

「そうかもしれないわね。楽しみだわ」

「ああ」


 視線が合うと、どちらからともなく笑い始めた。


 そういえば、チャーリーは愛する人に会っているのかしら?


 バラ園の東屋で会って以降、彼はわたしの相手や外交官としての仕事で忙しくしている。ここ数日間は辺境伯のところにいたし、会う暇はそうそうないかもしれない。


 彼女、きっと寂しい思いをしているわよね。


 というか、わたしを恨んでいてもおかしくない。なにせ彼を独占しているのだから。


 まさか、恨みが募って危害を加えてくるとかないわよね?


 ありえそうなシチュエーションにゾッとしてしまった。


 罵倒される程度? それとも、殴られるとか蹴られるとか?


 あるいは切られるとか刺されるとか? ということは、殺されるわけ?


(それはちょっと割に合わないわよね)


 もっとも、愚かな元婚約者の婚約破棄からの追放にくらべれば、ずっとまともだけど。


 書物に出てくる嫉妬深いレディたちのことを思い出した。


 婚約者を、あるいは夫をとられそうになった奥さんが夫の愛人を痛めつけるという筋書きはすくなくない。街のごろつきに金貨を与え、ボロボロになるまで痛めつけるのである。もちろん、凌辱的なこともさせる。


 その反対に、愛人が奥さんをどうにかするという筋書きもすくなくない。いずれにせよ、たいていはだれかを雇ってということがほとんど。


 ということは、わたしもごろつきたちにあーんなことやこーんなことをされる、とか?


「大聖母」だからという理由だけではないけれど、とりあえずわたしはそういう経験がない。それなのに、ごろつきたちに辱められるの?


 ちょっと待って。だったら、逆にごろつきたちをそそのかせばいい。それこそが悪女でしょうから。


 とはいえ、そんなことがうまくいくほど世の中は甘くはないわよね。うまくそそのかす自信もないし。


 なにせ悪女初心者。まだまだ駆け出しだから。


「ラン、おれの話をきいてくれているかい?」

「えっ?」


 近い将来の自分の不幸について考えている間に、チャーリーが話しかけていたみたい。


「ウイルクス帝国がとんでもないことになっているんだ。厳密には、帝都がだけどね。さらに言うと、皇太子がだけどね」

「ああ、あの愚か者のこと?」

「ああ。あの愚か者のことだ。ギルモア国との協定を破ったらしい。ギルモアは軍事国。怒り狂ったギルモア国王は、すぐに精鋭軍に攻め入らせた。ギルモアに勝てる軍は、そうそういないからね。ウイルクス帝国軍は戦う姿勢も見せず逃げ散ってしまった。ギルモアは、苦も無く帝都を包囲している」

「まぁ、そうだったの」


 まるで実家でボヤ騒ぎがあった程度にしか思えないのが、自分でも不思議である。




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