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大聖母の神髄

 すべて終わった。


 わたしの癒しの力は、疫病に罹患した人たちを癒しただけではない。この領地や周辺の領地、それから国境を越えてウイルクス帝国で疫病が蔓延している地域も癒した。それにより、疫病がなくなった。そして、守護の力がおよぶのは、この領地だけではない。このアディントン王国全域を護る。その為、今後疫病が入り込む余地はない。


 正直なところ、自分の力がどれほどのものかわからなかった。というのも、ウイルクス帝国ではある程度の力しか出していなかったからである。愚かな元婚約者の言う通り、祖国はいま平和でなにもない。そんなときに、ムダに守護の力や癒しの力を行使する必要ない。だから、災いが入ってこないよう程度にしか力を発揮していなかった。


 だけど、今回は本気を出した。結果はうまくいったけれど、本気を出した分疲労が半端ない。


 ほんとうなら、辺境伯の屋敷の客間でいますぐにでも眠りたい。


 おそらく、朝まで泥のように眠ることが出来るはず。


 が、辺境伯や彼の領地の人たちがそうはさせてくれなかった。


 盛大に宴を開いてくれたのである。


 力の放出は、わたしを疲弊させただけではない。空腹にもさせた。


 すさまじい量の美味しそうな食べ物を見た瞬間、とりあえずは疲れがふっ飛んだ。だから、ひたすら食べた。


「まさかこのおチビちゃんが『大聖女』とはな」

「あのー、『大聖女』ではなくて『大聖母』です」


 辺境伯の間違いに、はしたないけれどお肉を咀嚼しながら訂正した。


「どちらでも同じではないか。それに、おチビちゃんはまだ『母』じゃないんだろう?」

「えっ?」


 辺境伯の言葉に驚いた。おもわず、隣でキラキラ光っている美貌を見てしまった。


「それとも、もうお腹の中にいるとか? ああ、そういうことか。おいおい、チャーリー。やることはきっちりやるんだな」


 辺境伯の妄想は、あらぬ方向に突き進んでいる。


「辺境伯。違います、違うのです」


 あまりにも勘違いがすぎる。だから、すぐに否定した。


 子どもがいるわけがない。そういうことをしていないから。それどころか、そういう雰囲気になったことすらない。


 って、当たり前じゃない。わたしたちは、しょせん契約結婚。そのような関係なのに、そういう雰囲気になるわけがない。


 もしかしたら、チャーリーの愛するあの美しいレディのお腹の中にはいるのかしら?


 ついそんなことを考えてしまう。


「師匠。いまはまだですが、もうすぐですよ。ですから、お祝いをはずんでくださいね」

「チャーリー、って、あなた、なにを言って……」


 仰天してしまった。


 チャーリーがとんでもないことを言ったからである。


 こっそり肘で彼の脇腹をついてしまった。


「いいじゃないか、ラン。まぁたしかに授かるか授からないかは運のようなものはあるかもしれないがね。こればかりは、きみの癒しや守護の力でもどうしようも出来ないだろうから。しかし、二人で協力と努力をすればかなう可能性はある。それは、そう遠い将来さきのことではないはずだ。違うかい?」


 いえ、チャーリー。そこじゃないわ。そこにいたるまでが問題なのよ。


 心の中で呆れ返ってしまった。とはいえ、表向きは夫婦。夫婦である以上、彼の言うことはもっともなこと。


「え、ええ。たしかに、あなたの言う通りです」


 したがって、そう答えるしかなかった。


「そうか。もうすぐか。楽しみだな。おチビちゃんには助けてもらった。祝儀をはずまないとな。ほら、おチビちゃん。もっと食ってくれ。食いっぷりのよさは、まるで五つ子か六つ子でも腹に宿していそうだがな。それはともかく、いまから励むのだったら体力をつけておけ」


 辺境伯は、この辺りの名物料理らしい肉や野菜の串焼きが大量にのっている皿をテーブルにドンと置いた。


 ちょっ……。


 五つ子か六つ子がお腹にいるほどの食べっぷりですって?


 まあ、いいわ。


 子どものことはともかく、せっかくですもの。思う存分いただかないと。


 三日間、感謝の宴で料理漬けになった。


 平穏を取り戻した辺境伯の領地を去るとき、すこしだけ太ったように感じたのはきっと気のせいよね。


 それはともかく、辺境伯や辺境伯の使用人たちや領民たちは、いい人ばかりだった。


 三日間、とても有意義で充実した日々をすごせた。


 チャーリーとともに。


 辺境伯とは再会を約束し、別れを惜しんだ。


 正直、別れがつらかった。


 そうして、チャーリーとともに王都へ戻った。


 疫病が収束したいま、予定通り「わたしに大恥をかかせる」計画は遂行されるはず。


 車窓を流れていく穏やかで美しい景色をチャーリーと楽しみながら、気合を入れ直した。



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