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ざわつく胸と飛び跳ねる心臓

「とにかく、たいしたことではないわ。だから、気にしないで。そんなことより、わたしに会いにきているのが見つかったら、またいびられるわよ」

「いいの。どうせいびられ頻度は多いから。慣れているといえば慣れている。それよりも、ああして助けてくれる人がいる。それがうれしかったの。侍女たちのことだって、自分のことでせいいっぱいで、いつも目をそむけることしか出来なかったのに……。あなたがキッパリすっきり言ってくれたときの王妃たちの顔。あの光景を思い出しては、侍女たちと笑っているわ」


 パトリシアは、連れてきている侍女たちと顔を見合わせて「クスリ」と笑った。


 レディは、可笑しいことでもこんなふうに控えめに笑うのね。


 いままでは、笑うことだってガマンしていた。とはいえ、チャーリーと出会ってからは豪快に笑っているけれど。


「侍女たちは、生家のレンフィールド侯爵家から連れてきているの」


 ある意味感心している間に、彼女はしみじみ言っていた。


「そんなに大切な侍女だったら、せめて身をていして守らないとね」


 わたしは、大切な侍女がいたどころかメイドにバカにされていた。だから、すこしだけパトリシアがうらやましい。


 とはいえ、いまはジャニスとカイラがいてくれているけれど。


(彼女たちのことを身をていして守らないと)


 パトリシアにというよりか、自分自身に言いきかせる。


 結局、パトリシアに「今度お茶をしよう」と約束させられてしまった。


 そして、彼女と二人の侍女は、上機嫌で去っていった。


「例のお茶会のこと? みんなが噂をしているよ。きみが大暴れし、王妃や側妃たちを激怒させたとね」


 二人きりになると、チャーリーはそう言って笑った。


「大暴れ? あんなのは暴れている内に入らないわ。というよりか、どうして仲良く出来ないのかしらね? ムダにプライドが高かったり傲慢だったりする人は、すぐに他者を貶めたりいびったりするでしょう? まぁ、自分が最上位もしくは上位であることを知らしめたい。わたしの方が愛されていると主張したい気持ちのあらわれなのでしょうね」


 逆に寛容であったりやさしかったりして尊敬を集めた方が、よほど効果的だと思うのだけれど。


 とはいえ、悪女たるわたしも他者を貶めいびる方法をとらないといけないけれど。


 そのとき、ふとチャーリーと視線が合った。


(チャーリーの愛するレディに対してだったら、めちゃくちゃ貶めいびるかも)


 そう予想した自分に驚きを禁じ得ない。


 どうしてそんなことを予想するの? 予想することじたいおかしいでしょう?


「きみは違う。だろう? きみだったら、たとえおれが『彼女は、側妃だ』とレディを紹介しても、仲良くしてくれそうだ。そのレディを貶めいびるどころか、いっしょにおれの尻を叩くに違いない」


 キラキラ光る美貌は、真剣な表情が浮かんでいる。


 また胸がざわめいた。というよりか、また心臓が飛び跳ねた。


「もっとも、おれはきみだけだ。だから、側妃なんて連れてくることはないがね」


 そして、彼は真剣な表情のままつけ加えた。


(それはそうよね。チャーリーの愛するレディが、最終的には正妃になる。わたしは、その基盤を作るだけの存在。盤石な基盤を作り上げ、彼が愛するレディに譲り渡す。わたしは……。そのままここから、彼の前から去る。だから、貶めることもなければいびることもない。当然、いっしょに彼の尻を叩くこともない)


 そこまで考え、ハッとした。


 わたしってば、なにを言っているの?


 これはしょせん契約結婚。それ以上でも以下でもない。


 しっかりしなさい。やるべきことをしっかりやるのよ。


 ざわつく胸と飛び跳ねる心臓のことは考えないようにし、自分に言いきかせなければならなかった。


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