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ご面会を願われている? 

 ここでの生活に慣れすぎてしまっている。


「大聖母」のときとは違い、飽食や怠惰な毎日をすごしている。もはやあの頃に戻ることは出来ないかもしれない。もっとも、戻るつもりなど毛頭ないけれど。


 生活習慣だけではない。


 チャーリーに甘やかされ、ジャニスやカイラ、それから専属の執事のロビン・シアースミスにチヤホヤされ、精神的に軟弱になっている。


 もっとも、王族のレディたちとはバチバチの関係だから、そこは根性と気合いで悪女っぷりを発揮しているけれど。


 それでも、昔とは違って気にかけてくれる人がいる。名を呼んでくれて様子を尋ねてくれたり、つまらないことや面白いことや興味深いことやそうでないことを話したりする。そんな存在が身近にいることが素敵である。



 チャーリーと二人で食事をするときは、王宮内にいくつもある食堂のひとつを使っている。その食堂は、宮殿内で働いている人たちの食堂なので、王族や上位貴族や官僚たちがやってくることはぜったいにない。


 つまり、あぶれ者どうしが静かにゆっくり食事をするのにここほど最適なところはないというわけ。


「あなたの本名は、チャールズなのね」


 ある日の夕食時、チャーリーに尋ねた。


「ああ、そうだよ」


 彼は、自分が最初に「チャーリーこそがほんとうの名前」だと言わんばかしに名乗ったのを忘れているみたい。


(もっとすまなさそうに出来ないわけ?)


 モヤモヤ感が半端ない。


「嘘じゃない。ごまかしたわけでもない。だって、そうだろう? チャールズの愛称がチャーリーだ。おれは、愛称を名乗った。それだけのことさ」


 開いた口がふさがらない、とはこのことね。


 キラキラ光る美貌に、ほんとうに楽しそうな笑みが浮かんでいる。


 屁理屈だけど、たしかに彼の言う通りだわ。


 自分の敗北を素直に認める。


「妃殿下」


 そのとき、ジャニスとカイラが厨房側の扉から入ってきた。


「パトリシア妃殿下が妃殿下にご面会を願っていらっしゃいますが、どうなさいますか?」


 カイラが意外なことを言った。


 ご面会を願う?


 ここにきてさほど長いときが経っているわけではない。だけど、さほど短すぎるわけでもない。


 もっとも、体感的、感覚的にはあっという間にすぎ去ったけれど。


 感覚はともかく、わたしがここにきてからだれかが尋ねてきたことなど一度もない。


「へー。でっ、それはだれ?」

「……」

「……」


 わからないことは尋ねるべし。


 だから、素直に尋ねた。


「わからないのですか?」

「わからないのですか?」


 二人は、あいかわらず息がピッタリ。同時に尋ね返してきた。


「ええ。ここにいる人たちって、男女ともに同じような感じだから、覚えようにも覚えられないのよね。ああ、もちろん。国王と王妃は大丈夫よ。あっ、でも待って。国王と王妃の名前? なんたらラザフォードね。これは、間違いないわ」

「当然だよ。ラザフォードは、王族の名だから。どうせファーストネーム、忘れたのだろう?」


 チャーリーが冷静なまでに横入りしてきた。


「悪かったわね。わかるでしょう? 覚える気がないの。というよりか、自然と覚えられるかなって。だけど、攻撃されたりし返したりということはあっても、自然と覚えられるほど親密に話をすることはないから、覚えようにも覚えられないのよ」

「そうだろうね」


 渾身の言い訳なのに、チャーリーはあっさり流してしまった。



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