迷子 双子
俺は通話口から聞こえてくる声を聴いて、呆れていた。
前から馬鹿だと思っていたが、まさかここまで馬鹿だったとは思わなかった。
「えーんえーん、おにーたん、どこ!」
近所のスーパーの中、馬鹿な弟が、迷子になったらしい。
弟はすぐ、電話で俺に助けを求めてきた。
馬鹿な弟にも分かりやすいよう、簡単に書いた地図をもたせて、何回も道順を説明したというのに。
迷子になるとは。
前々からたびたび迷子になる弟を、これじゃいかんと思った両親が、あれこれやって、まず同じスーパーの中でお使いさせることにしたのだが。
まさか近所の慣れたスーパーの中で、こうなるか。
両親と共に最初に送り出した時は、大丈夫そうに見えたのになぁ。
数分後、全然大丈夫じゃなくなっていた。
まったくなんでこんな何だか。
どこに行っても俺は一度も迷った事がないのに。
だって弟と俺は、双子だぞ。
顔はそっくりだし。
中身だって同じはずだろ。
俺はちょっと先に生まれてきただけの兄で、あいつはちょっと後に生まれてきただけの弟なんだから。
俺は呆れながら、現在地のヒントを聞き出して、迎えにいくために通話を切った。
お兄ちゃんとはぐれちゃった。
今日は一人で頑張れると思ったのに。
途中までうまくいっていたのに。
ぜんぜんできない。
お買い物できない。
迷子になってる。
一人でなんて無理だったんだ。
双子だからできるはずってみんな言うけど、無理なんだよ。
だって、子供の頃からお兄ちゃんが傍にいたから。
生まれた順番が違うだけだっていっても、僕にとってはお兄ちゃんで上の人なんだ。
だから、ついつい日常で甘えちゃう。
そして、出来ない事が増えていっちゃう。
どうしてこうなっちゃうんだろうな。
僕は泣きながら、遠くからお兄ちゃんがやってくるのを眺めていた。