7話 冒険者が集う街
ランスディールは白馬にラミィを乗せて、多くの冒険者たちが集う街に来た。
街の先は大陸を横断するかのように根ざす広大な森の入り口の一つとして知られている。
広大な森は『ただの森』と『精霊獣が住む森』に分けられている。
『ただの森』は冒険者たちが自由に活動できる地帯で、遺跡があることから一攫千金を狙って宝探しをする冒険者がいる。他にも依頼を受けて薬草探しや魔獣の討伐をするなどして生計を立てている冒険者もいる。
『精霊獣が住む森』は獣人が暮らしている地帯で、国は許可のない立ち入りを禁止している。しかし悪質な冒険者は金欲しさに無断で立ち入り、獣人をおびき寄せて捕縛して闇市場に売るなど違反行為をする。
その取り締まりをするため、この街には出入口を二箇所しか設けていない。そして必ず兵士が立っていて、常に検問を行っている。
「次! ……ん? 子供か?」
「精霊獣です。認定証はこれです」
ランスディールは白馬からラミィをおろして検問を受ける。
門兵に止められたランスディールは服の内側にしまった証明書を出して見せる。ラミィの契約主である母親の認定証と、ランスディールが代理で預かっていることを証明する代理証明証を見せて、密輸、誘拐ではないことを証明する。
「どうぞお入りください」
「ありがとうございます。おつかれさまです」
検問を無事に終えたランスディールは兵士に労いの言葉をかけて門をくぐる。
喧騒がわっと耳に入ってきた。王都とは違う熱気と空気がランスディールを歓迎する。
王都のような華やかさはない。だからといって田舎というほどのんびりとした街ではない。その中間あたりで、街の道の整備や施設もちゃんと整っている街だ。
地元住民の田舎よりの格好と一攫千金の夢と冒険を求める者達の物々しい格好で、物語の世界に飛び込んだような感覚になる。
全身に鎧を身につけた大柄な戦士、無精ひげを生やした中年の斧戦士、革鎧をきた若い女性の冒険者、冒険者になりたてとわかる十代の少年たちが街を歩いている。
武器職人が看板を掲げ、店からは金属を打ちつける音が聞こえる。冒険者相手に魔法道具を売っている商人の元気な声も聞こえる。
(やっぱり王都とは違うな)
ここだけ切り取られた別の世界とも感じさせる独特な景観は、幼いころに読んだ冒険物語を連想させ、高揚感が生まれる。
ランスディールは白馬の手綱をもって歩きながら、万が一に備えて避難経路を確認しつつ、騎士時代に培った路上観察をする。
民家、飲食店、冒険者用の剣と防具を売る店、換金所、宿屋がぎゅっと詰まったこの街は国の規制により、街の拡大を禁止されている。なので、この街の広い道幅といったら馬車がすれ違うくらいの距離しかなく、家と家の間はそれよりも狭い。
よって明るい時間帯の道は歩く人の密度が高い。
フードを深くかぶった白兎の獣人のラミィは興味深そうにせわしなく左右に顔を動かす。
『美味しい匂いがする! ……む。なんかぴりぴりする』
「森に魔獣からいるから、みんな警戒しながら生活しているんだよ。ラミィ、手をつないで。私から離れてはだめだよ」
金色の角を隠すため、ラミィは顔の半分が隠れる深いフード付きの外套を着ている。ラミィは頷いて、ランスディールの手をぎゅっと握る。角の形までは隠せないが、ランスディールに隠れるように歩くことで、通り過ぎる街人に注視されることは避けられた。しかしその分視界が悪くなった。フードの重さで半分垂れた耳をそばだてて、人とぶつからないよう注意している。
『む! あそこ、いい匂い!』
ラミィはくんくんと小さい鼻を動かす。香ばしいパンの匂いが気になるようだ。
「まずは宿屋だよ。ご飯はその後で――」
「街の修繕と罰金だけでは生温い!」
地元の露店が多く並ぶ通りを歩いていると、大声で演説している若い男性の声に反応した人々の足が一瞬止まった。ランスディールも足を止めて聞こえた方へ顔を向けると、声の主を中心に十数人の人だかりができていた。
「彼ら冒険者は法外を用いて、私たちの生活と神の使いである精霊獣たちの生活圏を脅かした! 冒険者はこの街の剣として、盾として魔獣と戦うからこそ存在意義が生まれる! しかし、彼らは己の欲の為に魔獣を必要以上に刺激し、私たちの生活を脅かした!そんな彼らに冒険者となのる資格があるのか!領主に問いただす資格が私たちにはある! みなさん、今こそ声を上げましょう!」
服装からして地元住民のようだ。
ランスディールは近くの果物の露店の店主へ声をかける。
「その林檎を二つください」
「ありがとうよ」
肝っ玉母さんのような恰幅のいい露店の女店主は、買い物かごを持っていないランスディールのために、紙袋に入れて手渡す。
「あれはなんの演説ですか?」
「ああ。あれは先月、魔獣の大群がこの街にきたことを話しているのさ。その原因が討伐退治の依頼を受けた冒険者たちが法外を用いて魔獣をおびき寄せたっていうのがわかってね。そのことを糾弾しているんだよ。その冒険者たちの、冒険者資格を剝奪すべきだって」
「『精霊獣が住む森』に被害はあったんですか?」
獣人が自然属性をもって存在することから教会からは神の使いとして扱われ、その考えは領民の間でも浸透している。
ランスディールは獣人たちの生活圏が脅かされたという言葉に、連れであるラミィの里が心配になった。
「彼らが言うには、魔獣に襲われた里があったみたいだよ」
ランスディールの隣で大人しくしているラミィの耳がぴくりと動いた。
「国から調査団は来ていますか?」
「あたしはまだ見かけてないね」
リアンド国では広大な森に住む獣人と共存する姿勢をとっている。事態が国にも影響を及ぼすと判断した場合は調査団が組まれることになっている。
「そうですか。話は戻りますが、冒険者の資格を剝奪することってできるんですか?」
「詳しいことは知らないけど、冒険者ギルドは国と領主さまからの支援で成り立っているから、国と領主さまの一声があればできるみたいだよ。彼らが言うにはね」
「ありがとうございます」
ランスディールは硬貨を多めに渡して宿に向かった。