「再開」 (第5話)
スランプに陥って遅くなりました。いや、ここは敢えてイップスと。
緊張してきた。徒歩で学校に来たのなんて、いつ振りだろう。そう言っている僕は、たった今校門を跨ごうとしている所。
久し振りだからだろうか。初めて来る場所のような感覚がして、1年生の頃何度も見た筈の、更に言えば2年生になってからは裏口から毎週入った筈の、校舎を見上げた。
何の変哲もない校舎に、何の変哲もない青空。
見慣れたそれらに、新しい生活の予感を感じながら、校門を跨いだ。何の変哲もない「当たり前」が始まった。
僕のクラスは2年4組で、一学年5組まで。その中で、4組と5組は渡り廊下を挟んで入り口から少し遠い所にあるので、教室に着くまでに誰かと会う確率は高い。不登校の友達が一年ぶりに登校してきたら、何らかのリアクションはされるだろう。
が、中学に上がる時隣の県に引っ越したので、小学校の頃の知り合いはこの学校に居ないし、中一の頃は、いつも同じ4人といた。
警戒すべきはその4人だが、出来ることはあまりない。特に、2年生のクラス分けは全く把握してないので、4人の誰かが同じクラスに居た場合どう仕様もない。僕としては、波風立てず今日を終えたいのだが、4人の誰かに見つかれば。
「あれ!翔太じゃん!」
「久し振り」
「久し振り!どうしたんだよ!」
これを切っ掛けに、クラスの注目が僕に集まるのを容易に想像できる。自意識過剰だろうか。まあ、先に言った通り、出来ることはあまりない。急ぐのみ。
ここで、僕の愉快な仲間たちを紹介したい。
1人目は、「火山 猛」。熱血馬鹿スポーツマンで、漫画に出てくるなら紛れもなく赤髪だろう。いや、当分顔を見てない。もしかしたら赤髪だったかも。
2人目は、「水川 湊」。頭脳明晰クールキャラで、眼鏡をクイッとするタイプ。眼鏡掛けてないけど。
3人目は、「光が丘 悟」。ゆるふわ系優男。優男過ぎてたまに眩しい。「暗い所で光るよ!」って言うパジャマみたいな奴。
4人目は、「影森 考太」。根暗毒舌だけど、顔が良くて女子には優しいせいで、モテる。更に言えば、オタクなのに。不当だ。
まあ。クラスが違えば会うことはない。この情報は忘れてもらっても構わない(事を願う)。
教室に着いた。さあ、ここまで4人に会わずに来れた。どうだ。
「なあ冬休みどうする?」
「俺は勉強で忙しいから遊ぶ暇なんてねーよ」
「ちぇっ」
居るー!!!。猛と湊だ。幸い、二人はこちらに気付いてない。直ぐ席に着けば、なんとかなる筈。僕の席は、一番後ろの窓際で、二人の席はほぼ対角線。理想の配置だ。
そのまま気付かれずに、一時間目は始まった。教科は理科。
授業の内容が全く分からない。ノートに写してはいるが、授業に出るのが条件なら、ノートまで取らなくていいかもな。
なんて思ったが、退屈だったので何も考えず手を動かし続けた。
「キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン」
やっと終わった。が、良く考えれば三時間目に美術がある。内容は、5組と合同で美術の平岡先生のつるっぱげをデッサンすると言うもの。
「なんだそれ?」
担任曰く、あの光沢を如何に表現するからしい。
「なんだそれ」
合同にしてまで何やってんだ。兎に角。ここで重要なのは、見つからずに美術室へ移動出来るか、と言う話。万が一、見つからなかったとしても、その後待ち受ける様々な試練をくぐり抜けられるだろうか。
考えた結果。二時間目が始まる直前に見つかりに行き、「積もる話は色々あるけど、授業始まりそうだから席戻るね」と一方的に言えば、二人の大声が教室中に響くなんて事にはならない筈だ。二人と言っても、九割九部九厘九毛九糸、猛の声だろうけど。
休み時間は残り5分。まだ早い。因みに二時間目の教科は歴史で、出すべき教科書類は全て机の上に。これなら、本当にギリギリに行ける。
4分......3分......2分......1分!今だ。
「久し振り!積もる話は......」やばい。猛が、「今から叫びます」と言う顔になってる。そうだ!手で口を塞ぐしかない。間に合え!
「んぐ!」間に合った!その間実に2秒!!!
「積もる話はあるけど、授業始まりそうだから!」
キョトンとした顔の二人を残し、足早に席へ向かった。そう言えば、猛の髪は黒色だった。そりゃそうだ。日本男児だもの。そして驚くことに、湊は3ヶ月前には掛けてなかった筈の眼鏡を掛けていた。その割には慣れた手つきで、眼鏡をクイッとしていた。
やっぱり眼鏡をクイッとするタイプだった。




