「一歩」 (第4話)
昨日、捨て猫を拾った。最初は母さんに反対されたものの、半ば脅すような形で、「1日授業に出る」を条件に認めてもらった。
とは言ったものの、いつ登校するかはまだ決めていない。只、2学期は後一週間程度で終わってしまう。そこまでには行かないとまずい。
逆に考えれば、終業式は半日で帰れる。穴場と言えば穴場なのだが、果たして終業式は授業と認められるだろうか。何故あの時の僕は「終業式に出るから」と言わなかったのだ。
まあ、後悔は後だ。まだ授業と認められる可能性もある。そうとなれば、裁判長に交渉しに行こう。分かってるとは思うが、この場合の裁判長とは母上である。母上は今、一階で晩御飯を作ってる所だろう。チャンスだ。
「裁判長!ご飯手伝います!」
「嬉しいけど、今日買ってきたお弁当よ。後、裁判長って何?」
「いっ、いえ。なんでもないっす......」
作戦は失敗だ......。
失念していた。弁護士無しで裁判に行くとは、僕はなんて愚かなんだ。そうとなれば、弁護士に依頼しよう。この場合の弁護士とは、父上のことである。父上は今ソファで新聞を読んでいる。チャンス!
「父上!肩揉みましょうか!」
「嬉しいんだが、先週仕事帰りにマッサージ屋さんに行ってね。その日から肩こりが全く無いんだよ!ハハハハハハ!」
作戦は失敗だ......。
「それと、父上ってなんだ?半年位前まではパパだったじゃないか。父さんに変わっただけで、寂しいのに......」
「ハハッ冗談だよ......」
中2でパパと呼んでいた、黒歴史を蒸し返されるとは。僕の心はもうボロボロだ。ここは潔く諦めよう。
「学校、明後日行くことにしたよ」
「そう、頑張ってね」
迎えた登校日当日。早く起きすぎてしまった、まだ5時半だ。取り敢えずてんに朝御飯をあげ、ついでに僕も朝御飯を食べた。充分過ぎる程、荷物の確認をしてたら6時半になっていた。
予め言っておくと、僕は一年近く勉強をしていない。なので、担任の先生には授業に出ることと同時に、各教科の先生が授業中僕を当ててこないよう、根回しして欲しいと伝えてある。
そろそろ7時。家を出ようと言う所で、母さんが言った。
「正直、翔太の性格的に終業式に出るって言うかと思ってたの、お母さんそれでも良いと思ってたんだけど。成長したのね」
遅いよ、母さん......。




