3-3 TS美少女と一人遊び
翌日。
今日も今日とてメス塾の洗脳じみた講義を受けた後、いつも通り俺は和也の病室を我が物顔でたまり場にし、キャンプ談義に花を咲かせていた。
和也を車イスに乗せての散歩も日課になってきたし、案外俺は、介護士なんかにも向いていたりするのかも知れない。
もう出会ってからけっこうたつし、毎日毎日会っているわけだが、こいつと話をしていると全く飽きない。
いつの間にか時間がたってしまって、今日もそろそろ面会終了のお時間だ。
「あー楽しかった! じゃあそろそろ帰るわ。そうだ、明日はまた中庭のコーヒーショップに行こうよ。私、甘いのがまた飲みたくなってきてさあ」
「お、おう。それはもちろん、いいんだけどな?……それでほら、あの、ほら」
椅子代わりにしていたベッドから立ち上がり、病室を出ようとしたとき、和也がなにやら慌てたように、モゴモゴと言い出した。
ほんのさっきまで、理想のキャンプ場とはこういうものだ! みたいなことを流暢に語っていたくせに、変なやつだな。
「……どうした? なんかあったか?」
俺が美少女すぎるから、離れたくなくなってしまう気持ちはわかるけども。
そんなふざけたことを考えていた俺に、和也は勢いよく、クシャクシャのビニール袋を付き出してきた。
「……ん!」
なぜか和也は、そのビニール袋をこちらへ突きつけたまま、顔を真っ赤にして、おもいっきりこちらから目を反らしている。
「……だからほら、これ!」
まさか。
ようやく理解した。
こいつまさか、昨日の俺の話を真に受けてしまったのか。
つまりこのビニール袋の中には、和也の子孫のなりそこないたちが、大量のティッシュペーパーに包まれて、密封されていると。
まじかこいつ、まじでやりよったか。
「……お、おう! まあ、あれだね、うん、了解した! 任せろ、私がほら、責任を持ってだな、間違いなく! 確実に処分しておいてやるからな!」
こっちまで顔が熱い。
変なことで気を使わせやがって!
こんなかわいい女子に向かって、本当に仕方のないやつだ。
「……うぁああああ! だめだ恥ずかしい! オレは自分が憎い! よりにもよって紬に! こんなん、看護士さんに見られたほうがマシだったかも知れん!」
今さらになって後悔しても、もう遅い。
汚物が詰まったビニール袋を引っ込めようとする和也の手から、その袋をうばいとる。
こちらに向けられた、悲壮感のあるその目が、なんだかたまらなくゾクゾクする。
本当に情けないやつだ。
でもこういうところが、一緒にいて退屈しないですむんだよな。
「うはは! 大丈夫大丈夫! 健康な証拠ってこったな! 任せろ、私はこういうの、理解があるタイプの美少女だからさ! くふっ! うははは!」
申し訳ないという気持ちもあるのだが、どうしても笑いが止まらない。
どんどん赤くなっていく和也のその顔が、もうなんというか、男女とか通り越したかわいさというか、そういう奇妙な気分にさせてくる。
「もうダメだオレは……。お前みたいな女の子にこんなもん渡して、オレはクズだ。人間のクズなんだ……!」
うめく和也の残念すぎるリアクションは、やっぱりいくら見ていても飽きがこない。
情けない男の姿というのも、なかなか味があって悪くないものだな。
その後。
俺はなぜかドキドキしながら、うめく和也を残して病室をするりと抜け出した。
そのビニール袋をさりげなく胸元に隠して、病院の廊下を歩いていく。
和也に渡されたビニール袋は、湿ったティッシュしか入っていないはずなのに、思ったよりはるかにボリュームがあり、重量すら感じる。
溜まっていたとはいえ、お盛んなやつ。
考えるだけで、頭がおかしくなりそうだ。
もしかしたらあいつ、俺のことを想像したりなんかも、していたのかも知れない。
いや、間違いなくしている。間違いない。100%やっている。
思春期ってそういうものだし。
考えると、むずがゆいというか、体が火照るような感覚があった。
でもあんなに後悔しておきながらも、また近いうちに和也は、同じ過ちを繰り返してしまうことだろう。
若い男子の性欲とは、そういうものだ。
実際数日後、また同じように顔を赤くした和也から、俺は同じようなビニール袋を渡される羽目になった。
こりないやつよ。
だけど俺は、そのときには和也のことをもう、馬鹿にして笑うことはなかった。
なぜなら俺も、同じだったからだ。
いや、俺のほうがよほど、イカれている。
俺はあの日、和也に渡されたそのビニール袋を、どこにも捨てに行かなかった。
自分でも、なんでそんなことをしてしまったのか、考えるのが怖い。
俺はその和也の匂いが充満したビニール袋を、自分の病室に持ち帰り、夜中、こっそりと開封した。
体が熱くて、その和也のむせかえるような匂いがなぜか、自分の女の体の芯に響くようで。
メス塾で講義を受けていた、自分の指で自分の体を慰めるという行為。
俺はその日初めて、その浅ましい行為を覚えてしまったのだった。