1-2 TS美少女とミイラ男
こいつ、若いくせになかなかよくわかってる。
「だよなあ! オレはやっぱ寝袋だけは、高いやつ買っとくべきだと思うんだよ!」
「安いのは嵩張るもんねえ! 俺……じゃない私、キャンプ道具はコンパクトなのが一番だと思ってるからさ!」
売店での奇妙な出会いから30分後。
清純な美少女にはあるまじきことだが、俺は全身怪我だらけの車イス男の病室で、一つのベッドの上に並んで身を寄せ、歓声を上げていた。
もちろん性的な意味ではなく、キャンプの話でのことだ。
同じ雑誌の取り合い、というか俺が先に取ったのだから俺のものだが、その車イス男の必死さが哀れに感じ、せめて一緒に見るかと提案してやったのだ。
それでまさに、意気投合。
TSする前は久しく友達すらいなかったので、誰かとキャンプの話ができるのはめちゃくちゃ楽しく感じる。
特に最近は、メス塾と抑圧された軟禁生活、初めての生理でストレスが溜まっていたから、本当に久しぶりに、心から笑顔になれているような気がしていた。
この男、顔はいまいち冴えない微妙としか言えない残念なルックスだが、若いくせにキャンプに関しては、なかなかいいセンスをしているようだ。
「オレ、同年代で、しかも女で、キャンプの話ができるやつなんて初めてみたよ。……お前、けっこう元気そうだけど、どっか体が悪くて入院してんのか?」
キャンプ好きのミイラ男が、病室のベッドに横になったまま、こちらを伺うようにチラチラと視線を向けつつ探りを入れてくる。
たまに胸元へ不穏な視線を感じてはいるが、まあこいつの冴えない顔を見る限り、思春期真っ盛りの童貞なんだろうし、多少はサービスだと思って許してやろう。
なにせキャンプを好きなやつに、悪いやつなんていないのだから。
「まあ色々あってね。……なんだよ、変な顔しなくても大丈夫だよ。そう長くないうちに退院できるはずだからさ!」
こちらを本当に心配したような目で見てくるから、努めて明るく返してやる。
TSが原因で死ぬことはないと言われているし、何よりこいつの怪我の方がよほどひどい。
「あんたはなんでそんな大怪我してるわけ? とんでもない状態だったから、さすがに笑っちゃったんだけど」
俺が笑いながらそう言うと、そいつは病室のベッドに体を預けたまま、照れたように目を反らした。
「じいちゃんが持ってる小さい山があってさ、そこでキャンプって言うか、野営してたんだけど。夜に崖からまっ逆さまで、このザマだよ。でもあと1ヶ月くらいしたら、一応退院はできるらしい」
何それ怖い。下手したら死んでるじゃん。
夜の山って、まじで信じられないくらい暗いから、ちょっと歩くのも危ないもんなあ。
「山ってやっぱり怖いもんだね……。ていうか、あんた自分の山持ってるんだ、うらやましい……」
雑誌のページをめくりながら、自分の山、というフレーズに想いを巡らせる。
山を所有すると、苦労も多いとは聞いたことがあるけれど、やっぱりキャンパーとしては少し憧れてしまうな。
「オレのじゃなくて、じいちゃんの山な。クマとかはいないけど、虫は結構多いしトイレも無いぜ」
ギプスを付けられた腕を意味もなく高く上げながら、そいつはちょっと得意気に言う。
自分の山じゃなかろうと、野営をする度胸自体がなかなか肝が座っているし、たぶん高校生くらいなんだろうけど、なかなか見所があるやつだ。
しばらくそいつと話をしていると、館内に放送が入った。
面会時間の終了を知らせるものだ。
いつの間にか窓の外は暗くなっていて、俺のお腹も空腹を訴えはじめていた。
「ありゃ、もうこんな時間か。私も自分の病室に帰るね。……ねえあんた、また暇なとき遊びに来てもいい? まだキャンプの話がし足りないんだよね」
楽しい時間が過ぎるのは早いものだ。
こんな辛く悲しい軟禁生活の中で得られた、この新しい同志との出会いを、俺はこれっきりにはしたくなかった。
「そ、そりゃもちろん! オレもこんな状態だからほとんど動けないし、いつでも暇だからさ!」
なんとも嬉しそうな声でそう返され、俺としても悪い気はしない。
俺みたいな美少女と友達になれるなんて、こいつからすれば願ってもない幸運だろうし、趣味の合う友達ができるってのは、やっぱり嬉しいもんだよな。
「あのさ、オレ、谷口和也。カズヤって呼んでいいぜ」
そいつは無事な方の片腕で自分を指差しながら、なんともかっこつけた、思春期らしい自己紹介をしてくる。
ミイラ男のくせに。童貞のミイラのくせに。
でもなんだかその照れたような、一歩しまらない表情の冴えない顔がいいアクセントで、やっぱりこいつが気に入らないやつだとは、俺には到底思えなかった。
「ふふ。私は紬。鈴原紬っていうの。ツムギちゃんって呼んで頂いても、よろしくてよ?」
ふざけ半分の言い方になってしまったが、それがかえって、笑い方だとか話し方とか、俺史上最高に女の子っぽくできたと思う。
若干赤い顔になったそいつ、和也の顔を見ていると、青春じみた自分の自己紹介になんだか気恥ずかしくなってしまい、俺は入院着のすそをひらひらさせながら、そそくさと病室から逃げ出した。
とにかくこれが、俺、いや私の相棒となる男、谷口和也との出会いだった。
全身ギプスと包帯だらけだったその頃の和也のことを、スマホが無かったせいで写真に残せていないのは、今でも私の心残りである。
新連載開始です!
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