牛乳の雨
牛乳の雨の中を歩く
一人、真っ黒な傘をさして
黒い傘に白い雫が当たって跳ねる
これは夢だ
そうに決まってる
糸を引くような白い雨が
薄暗い空から降ってくる
そして
地面に白い水溜りを作る
いや、今はもう
水溜りどころか白い川になって
アスファルトを覆っている
いつの間にか激しくなっていた雨は
水位を増して
僕の黒い長靴のくるぶしまできていた
止みそうにない雨
空を見上げた僕の口の中に
風であおられた液体が入った
ほんのり甘い、白い液体
やはりこれは牛乳だ
手に飛んでいた飛沫を舐めてみる
牛乳だ
僕がよく飲むのと
同じ味がする
空は白い雨で覆い尽くされて
地面だって今は膝まで覆う白い液体で真っ白だ
動かなくなり、放置されたのだろう
車が道の真ん中に何台も放置されている
世界がどんどん、白で覆われていく
無機質ではない、少しだけ他の色味が混ざった白で
薄暗い街並みも
激しく降り続ける白い雨に閉ざされていく
僕は今、何を望んでいるのかな?
ふと思う
夢は、心象風景なのだという
それなら
この夢は何を意味するのかな?
わからない
僕は心理学にたいして興味なんてないから
横殴りの雨を吸いこんで
肌に張り付くシャツが
逆に気持ちよくて
僕は傘を捨てた
夢だからいいよね?
傘もなく
立ち止まって
空を見上げる
ずっしりと重い
雨に濡れた服
白い雨に濡れた
僕の黒い服
なんだか楽しくなって
一人笑いながら頭を振る
黒い僕の髪から
白い雫が飛び散る
僕の体から
牛乳の甘い香りがした
世界中から
牛乳の甘い香りがした