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バケモノ王子とその先生  作者: やなぎ怜


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 呆気に取られているらしい、先生の顔が見える。珍しい無防備な姿が、可愛いと思った。


「先生と一緒に、いや、同じ世界にいられるのがうれしい。先生と同じ時間を生きられるのが、うれしい」


 独り言のような言葉を俺が言い切ると、先生は丸くしていた目をゆるゆると緩める。


「なんだか先に決め台詞を言われてしまった気がする」

「そうだろうか」

「ああ。このことをお前に話したのは未練を残さず逝くためだったのに――」

「未練なら」


 先生の言葉を食い気味に、俺は身を乗り出した。


「未練なら、ここに残して逝ってくれ、先生」


 そしてごくり、と生唾を飲み込む。膝の上で握った手のひらがじっとりと汗をかいているのがわかった。


 言う。ここで言う。今、言う。


 そう決めて俺はもう一度口を開いた。


「そして、帰ってきたら――俺のそばにまた帰ってきて欲しい」


 先生は今度は目を丸くはしなかった。ただ、何度か考えるように瞬きをした。


「……お前の好意は肌で感じていた。翻って、私の気持ちも……」

「……キスしたくらいだからな」

「ああ、そうだな。そうだ。だが、いいのか? わたしは――」


 先生の、その先の言葉を予想する。また、俺たちをバケモノにしたことについて後悔しているのかと思った。


 けれども、その予想は外れた。


「わたしは、おばあちゃんだぞ」


「あ、そこなんだ」と思った。そう思うと同時に、なんだか温かい笑みが込み上げてきて、それを抑えようとして、ニヤニヤと気味の悪い笑顔になってしまう。


 先生への答えは、決まっていた。


「それでもいい。どんな先生でも構わない。俺のそばにいてくれ」



 *



 幼い頃の戦争の記憶と共に、古老は言った。


 あの山の奥の奥の、更に奥には魔法使いとその世話をする一組の夫婦が住んでおるのさ。


 魔法使いはものすごーく変人で、でもときどき親切で。


 夫婦は似たような白い髪をした大変仲のいい男女で。


 迷い込んだ(わし)らにも親切にしてくれたもんだ。


 きっと今も、あの山の奥の奥の、更に奥にいるんじゃろう。


 古老はそう懐かしげに語った。

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