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月と太陽の交差点に潜む秘密

作者: ジャポニカダージリン

考えたことあるだろ?人の心の声が直接聞けたらどんなに素晴らしい人生になるんだろうって。

昔聞いた話では、太陽の光ってもともとは金色なんだってさ。けど都合がいいからってその光が白く見えるように人の目は進化したらしい。

そんな都合のいい進化出来るならどうして人は他人の心が見えるように進化しなかったんだろう。言葉なんて曖昧なもん使うんじゃなくてさ。

「健太郎さんって絶対優しいですよね?」

言葉なんて嘘ばかりだ。

「健太郎さんの事好きな子絶対沢山いると思います!!」

その言葉を信じて裏切られて、また人を信じられなくなっていくんだ。

「え?!いいと思います。なんか大事にしてくれそう〜」

人ってあんなに残酷に嘘をつけるんだ。全力であの言葉を、あの笑顔を今度こそは信じてみようと思ったのに……


「ーーだよな、セイヤってほんといい奴だよな男の俺でもそう思うもん」


「健太郎さんも優しいですよ!!」


「あ、そう?」


「はい」


「そっか。そうだ、今度また三人でこここようぜ」


「やった〜!是非是非!!」


「あ、あの!!」


「はい?」


「ふ、二人で来る事とかは?!」


「えっっっ」

7月中旬の日曜日、昼の猛暑にちりついていた大気も落ち着きを払い、少し涼しくなった夕暮れ時、大学時代からの友人と別れた後、まだまだ多くの人でざわつく秋葉原駅の改札前でたまたま帰る方向が一緒だった彼女に、

「一目見たときから好きでした、付き合ってください!!」

意を決して俺は告白した。


「……」


「ほ、ほら彼氏募集中って言ってたし」


「……」


「それにほら、俺の事良さそうって言ってくれてたし!」


「あ、あれは、友人として……」


「お願いします!!」


「……ごめんなさい」


「……」


「あの、予定があるのでここで。今日は色々ありがとうございました」


「あぁ、うん……」

そう言って彼女ははんば強引に会話を終わらせて、ホームの方へ歩いていった。一度も振り返らずに。

俺と帰る電車一緒ってさっき話したばっかだったのに……


俺は今日、人生11回目の告白で11人目の女性にふられた。

ハハ、みんな俺の中ではトキメキ度日本代表のナデシコジャパンだったんだけどな……笑えないよな、キスどころか女の人と付き合った事すらない30超えたおっさんのフラれ話なんて。。

それでも聞いてくれ。

俺は彼女達が屈託なく笑っている顔を見て毎度思ってしまうんだ、もしかして今回はいけんじゃね?って。

そしてボールを置いていざキックオフ。足元にあったボールでドリブルをしながら正面に待ち構える女性達に勝負を仕掛けてみると……身体も触れてもいないのにピッチに寝転がって大げさに怪我のフリ

それを見たレフェリーは笛を鳴らして俺に厳重注意しながら俺からボールを取り上げる。

今回は俺とは対照的に昔から女受けがいい大学時代の友人セイヤが、もうフラれすぎたせいで戦意を損失して自軍ゴール前に座り込んでいた俺を見兼ね「今回こそ決めろよっ」と与えてくれたイージーパスからのスタートだった。

セイヤの紹介でセイヤ・セイヤの女友達・俺の3人で昼前頃に秋葉原に集まり、俺は全力で走った。雰囲気が崩れかけた時にくるセイヤのサポートを全身で浴びながら。この子を抜いてやる!!抜いて今度こそゴールを決めてやるぞっと。けれど今回もボールを取り上げられ、それ以上のプレイは続行不可能になってしまった。


『さっきはごめん!!突然驚かすような事して。彼氏は無理でも友達としてまた皆で遊んだり出来たらいいなと思うんだけど』

クソッまだ既読つかないか……

セイヤに速攻送った『ごめん、告白してふられた……』の結果報告LINEには秒で『ドンマイ。笑』と返ってきたのに推敲に推敲を重ねて送った彼女への謝罪LINEには一時間経っても既読はつかない。これ避けられてるよなぁ、二発目送るか??いや、予定あるって言ってたし、携帯見れてないだけかもしれんからもうちょい待った方がいいか。

幕張へ向かう総武線の中で何回確認したのかわからないLINEアプリを閉じ、スマホをポケットに入れると、頭の中ではふられてからずっと続いている今日の失敗の原因探しが再開される。

どこがいけなかった?!あれか?あの時か?いや、もしかしてあんな事言ったから?そもそも最初から興味なかった?なら何故わざわざ俺に彼氏募集中なんて……わからん。

これはYahoo知恵袋で誰かに話を聞いてもらわなければならんなと再び携帯を取り出しYahooを開くと、Yahooニュースの見出しには、『メッシまたしてもハットトリック!!脅威の11人ごぼう抜き!!』

いいよな……俺にもあいつらみたいな運動神経があればこんな惨めな想いせずにもっとうはうはの人生を送れたんだろうな、ゴール決めて天を仰ぎ見てるニュースのスター選手の写真を観ながらいつものようにぐだぐだ腐っていると、


「落ち込んでいてもしょうがないですよ!」

え、誰かなんか言った?

俺の考えを読まれたかのような驚きでビクッと辺りを見回してみても誰もいない……気のせい?けどちょっと可愛い声だったな。アニメに出てくる可愛い女の子達みたいに高くてよく通る声だったけどーー

ま、いいや、いつも通りマイアカウントで知恵袋を開き、タイトルは、ポチポチ『女性の心理がわかりません……』と、え〜っと本文は、

「駄目ですよ、そういうのは誰かに言葉で教えてもらうものじゃないと思います」

やっぱりいる!!俺の行動をみてツッコミ入れてきてる奴が。しかも女の子!!

キョロキョローー

この子か?!斜め前に座っている中学生くらいの女の子をばっと見ると、キョトン、首を傾げてハイッ?て顔をされ、その隣の父親らしき男からは訝しげな目で睨みつけられている。

俺は反射だサッと顔を逸らすーー気のせいか……そうして再びスマホに目を向けると

「ここです、ここ!」

俺は声の聞こえてくる方向に目を向けると、そこには仕方なしに隣に置いていた、今日秋葉でたまたま見かけみんなの前で「俺とってみせるわ!」とネタで挑んだクレーンゲームでこれもたまたま落としてしまった美少女フィギュア。

……まさかな、そんなわけあるか、それにしても何だったんだろ?幻聴かな?俺の頭はついにリアルに見切りをつけちゃったのかな?


「この歳で幻聴か、いかんな」俺がそう一人ごちると、


「幻聴じゃありません。気づいたんです、『声』に!!」


バッッ。

俺はそのフィギュアを持ち上げ、まじまじとフィギュアの顔を覗き込む。するとーーパチリ!ウィンクをした、ように見えた。

「うげ!!」


「あっ、ちょっと!!」

俺は驚いて反射的にそのフィギュアを投げ捨ててしまい、クナイのように一直線に飛んでいったそのフィギュアはーーバチンッ「キャッ!!」

それが正面の吊革につかまっていたOLさんのお尻に突き刺さるように当たってしまった。。

それに驚いたOLさんは妙に艶っぽい悲鳴を上げちゃうもんだから、周囲は一斉に俺の方へ顔を向けた。先程の父親らしき男からは『やはりかっ』というような怒り混じりの意味深な目を向けられている。

焦りながらフィギュアを拾って「す、すみません、手のひらに虫が止まったもので、ビックリして、あ、よく見たら埃でしたハハ、ハハ……」と咄嗟の嘘をつき、そっこう次のホームで降りた。

そうして次の電車を待っていると、

「ちょっと酷いじゃない!!急に投げるなんて!」

またフィギュアが話しかけてくるのでいても立ってもいられなくなった俺はもうなりふり構わず隣に立ってる土方風のおじさんに「すみません!聞こえますか!?この人形が喋ってるの?」

と喋りかけると、初めは驚いてたおじさんは俺をジロジロと二度見した後、ヘッと笑い声をもらし、

「アンちゃん、駄目だぜアニメばっか見てたら、たまには体動かさねーと」とドスの効いた声で見当違いなアドバイスを与えてくる。


「あ、すみませんでした……」

駄目だ、やっぱり俺にしか聴こえてない。幻聴だ、怖い怖い。どうしようこれ……

明日になっても幻聴が続いてたら病院行かなきゃ。。

確かヘビに噛まれた時ってヘビも持ってかないと駄目なんだよな、こいつも捨てるわけにはいかないぞ。

俺はこの気味の悪いフィギュアを見ているのが嫌なのであたりを見回しーーあれだ!!ホームに落ちてたキヨスクのビニール袋を拾ってその中にフィギュアを放り込み、しっかりと固結びする。中からぎゃあぎゃあ聞こえてくるけど気にしない、気にしたら負けだ!!

それを見た土方風のおじさんは俺にウィンクしながらサムズアップしていた。

とにかく気を紛らわせるために俺はさっきから震えっぱなしの手でポッケからイヤフォンを取り出し耳に差し込む。そして、震えのせいで何度もパスワード入力をミスった後なんとかスマホのミュージックアプリを開き、スイースイー、『脳を整える、モーツァルト、癒しミュージック集』これだなっっ。

そうして俺はイヤホンの音量をMAXに上げ、フィギュアの入ったキヨスクの袋を摘むようにして帰路についた。


家に着き、親にも言えない悩みを抱えてしまった俺は、顔を合わせたくないのでそ〜っと自分の部屋に向かう。

そして、へやのちゃぶ台の上にキヨスク袋を置き、しばらく目を瞑って、『きっともう大丈夫、もう大丈夫!』と自分に言い聞かせて心を落ち着かせてから、自分の脳の改善を確かめるべくキヨスクの袋を破って恐る恐る中を覗いてみると、クルッ

「あ、やっと話を聞いてくれる気になったんですね!」

やっぱり喋ってる……しかも今度は俺の方に顔を動かしながら。モーツァルトでも駄目だったか〜。多分、返事しないと駄目だよねこれ、幻聴悪化しそうで怖いけど……

「あ、あの〜、やっぱり、君が喋ってるの?」


「ハイ、今までずっと色んな人な喋りかけてきたんですけど、誰も気づいてくれなくて。でも今日やっとあなたが私に気付いてくれて、こうして声を届ける事が出来るようになりました」

はは、そうかいそうかい、俺にはフィギュアとお話する特殊能力があったのか。けど、さっきからうっすら気付いていたが、俺の脳はそろそろこの夢から覚めようとしてる。じゃあそろそろ起きるか。


パチッーー

ふぅ、そんなに悪い夢じゃなかったな。俺はベッドから起き上がり、目を閉じてさっきまで見てた夢の内容を思い出してみるーー夢の中でもフラれたのは今でもショック残ってるな。

それはそうとあの子の話をもうちょっと聞いてあげたかったな、なんか一生懸命だったし……まぁ思い通りにいかないのが俺の明晰夢の特徴でーー


「こら、勝手に夢落ちにするな!!話の途中!」

俺は声の主に目をふけると、そこには両手の握り拳をバンザイのように上げて俺に怒っている美少女フィギュアがいる。

夢じゃないのかやっぱり……


こうして俺とこの可愛らしくも口うるさいフィギュアとの物語は幕を上げた。

考えたことないだろ?フィギュアの言葉が聞こえるとどんなにめんどくさい人生になるかなんてさ。

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